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脱炭素へ産業構造、ライフスタイルの変革後押し 政府、パリ協定に基づく長期戦略案まとめる

脱炭素へ産業構造、ライフスタイルの変革後押し 政府、パリ協定に基づく長期戦略案まとめる

2021年08月24日

経済産業省と環境省は、2050年脱炭素社会の実現に向けた長期戦略案をまとめた。脱炭素によって雇用が失われる可能性のある産業の業態転換や国民一人ひとりのライフスタイルの変革に取り組むとし、8月18日に開催した合同審議会で公表し、了承された。政府は10月までに閣議決定し、国連へ提出する予定だ。

長期戦略こそ、脱炭素実現に向けた道筋

「長期戦略(パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略)」は、NDC(国が決定する貢献)とは別に、地球温暖化対策の国際的な枠組みである「パリ協定」に締結したすべての国が策定し、今年11月に開催されるCOP26までに国連に提出することが求められている。地球温暖化による熱波や豪風雨などの災害、生態系の破壊や食糧危機にまで及ぶ被害を食い止めるため、パリ協定では今世紀末の気温上昇を産業革命前に比べ2℃、あるいは1.5℃に抑えることを目指している。

しかし、気温上昇を1.5℃に抑えるためには2050年までに世界全体の排出量を実質ゼロにする脱炭素を実現しなければならず、この「長期戦略」こそが脱炭素社会の実現に向けた道筋となる。

その長期戦略案が8月18日、経産省と環境省の合同審議会(中央環境審議会地球環境部会 中長期の気候変動対策検討小委員会 産業構造審議会産業技術環境分科会 地球環境小委員会地球温暖化対策検討ワーキンググループ 第10回)で示された。

2019年に策定された今の戦略では、「2050年までにCO280%削減」、さらに「脱炭素社会を今世紀後半のできるだけ早期に実現」とされており、2020年10月の菅首相による「2050年カーボンニュートラル」宣言など、脱炭素をめぐる目標の前倒しを受け、改定する必要があった。

今回の案では、まず今年8月「温暖化は人間の影響であることは疑いの余地がない」と報告したIPCCの第1作業部会の第6次評価報告書に触れ、日本も「世界の平均気温の上昇を1.5℃に抑える目標の実現に貢献する」とした。

また洋上風力や水素・アンモニア、自動車など14分野をグリーン成長戦略に位置づけ、2兆円の基金の活用や税制優遇、規制緩和などあらゆる政策を総動員し、企業に眠る240兆円の現預金、さらには3,500兆円ともいわれる世界の環境投資を呼び込み、環境と経済の好循環を目指す。

2050年実質ゼロに向けた全体像は、まずはCO2排出の4割を占める電力部門を洋上風力や太陽光発電などの再エネなどを拡大することで、脱炭素化させる。次に運輸部門において、2035年までにすべての乗用車の新車をEV(電気自動車)やFCV(燃料電池自動車)などを電動車化させ、ガソリン車販売を禁止する。商用車に関しては、2030年までに8トン以下の小型車の新車販売のうち電動化率を20〜30%、2040年までに100%化させる計画で、電化を促す。さらに発電時にCO2を排出しない水素や合成燃料などを活用し、鉄道、船舶、航空分野のほか、鉄鋼や化学などの産業部門も脱炭素化させる。

それでも化石燃料の使用が残る分野では、大気中に排出されたCO2を回収・貯蔵したり、植林などによって吸収することで実現するとした。

さらに脱炭素に向け、EV充電スタンドはじめ、ビルや商業施設などの建物や住宅まで含めたインフラも整備する方針だ。

企業の産業転換や労働者の職業支援をはじめて明記

一方、脱炭素化はこれまでの産業構造を一変させるため、産業界の中には需要が喪失し、雇用が失われると危惧する声は根強い。そこで、長期戦略では「労働力の公正な移行」と題し、産業構造転換を支援することを盛り込んだ。

たとえばガソリンエンジンの変速ギアを製造していた中堅・中小サプライヤーが電動車用モーター部品の製造に新たに挑戦する。あるいはサービスステーション・整備拠点による地域における新たな人流・物流・サービス拠点化、EVステーション化を進める。こうした企業の業態転換や労働者の職業訓練などを国、自治体、企業、金融機関が一体となって支援することで、負の影響を軽減させる考えだ。

一般消費者が脱炭素商品を購入できるよう、ポイントを付与

また、家計に伴う消費によるCO2排出量が全体の6割を占めるという分析を示し、「脱炭素なくらしへの転換には、国民一人ひとりの行動・選択を変えるライフスタイルの転換が重要だ」とした。

具体的にはマイカー移動からCO2排出量の少ない鉄道、バスや自転車利用の拡大を促す。さらに日々の消費が脱炭素につながるよう、自治体や企業を巻き込んで脱炭素化に資する商品やサービスを購入できる環境を整える。具体的にはデジタル化やブロックチェーン技術などを活用して、CO2排出量の「見える化」を進め、一般消費者がこの情報に基づいて、脱炭素化された製品やサービスを自然に購入できるよう、ポイントなどを付与していくという。

火力発電のフェーズアウトが記載されない長期戦略は特異な存在

合同審議会では、委員から「公正な労働力の移行、しかも、産業構造転換を政府が支援すると明示されたことは評価できる」「すべての国民が脱炭素を我がことにして、ライフスタイルを変えないとカーボンニュートラルは実現できない」といった意見が出され、大筋で了承したが、石炭火力をめぐる指摘があった。

小西雅子 世界自然保護基金(WWF)ジャパン専門ディレクターは、「火力発電のフェードアウトがまったく書かれていない長期戦略というのは、先進主要国の長期戦略の中ではかなり特異な存在だ。COP26のホスト国、イギリスのジョンソン首相は「先進国は2030年までに石炭火力を廃止せよ」と明確に打ち出している。COP26に提出して日本が一番注目される点のひとつが、石炭火力の廃止計画があるか、あるいは今後どうしていくのか計画が言及されているかだ。ぜひ言及してほしい」と述べた。

さらに小西氏は、「2050年に向かっての長期戦略で、カーボンプライシングが専門的、技術的議論を進めるという記述では、あまりにも力不足。企業の投資判断の鍵を握るのは、炭素価格の予見可能性だ。それについても言及してほしい」と語った。

カーボンプライシングについては、石井菜穂子 東京大学教授も、「カーボンを出すことが高くつく経済システムに移行することは、それだけで大きな経済社会転換になる。それをやっていくことが回り回って成長につながるというところをもう少し踏み込んで記述しなければ、御題目に終わる可能性がある」と指摘した。

このほか、ライフスタイルのイノベーションに関して、「肉食の削減や消費財の長期使用などに関して言及がない。日本では肉食に関する議論はあまり行われていないが、国際的な議論は進んでおり、言及がないのは違和感がある」(江守正多 国立環境研究所地球システム領域副領域長)といった意見も出された。

政府は、今回のとりまとめ案をパブリックコメントに付したのち、10月までに閣議決定し、国連へ提出する予定だ。

EnergyShift編集部
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