人口減少により国内需要の減少が懸念されるなか、茨城県は脱炭素化で新たな産業の創出に乗り出す。5月26日、温室効果ガスを実質ゼロにするカーボンニュートラルを産業創出につなげる「いばらきカーボンニュートラル産業拠点創出プロジェクト」を発表した。鉄鋼や電機、半導体など日本を代表する企業が立地する臨界部を重点的に支援することで、茨城県の成長につなげる考えだ。
菅首相が2020年10月、2050年までに温室効果ガスの排出量を実質ゼロにするカーボンニュートラルを表明するなど、世界全体で脱炭素への機運が高まっている。
日本の経済界においても、脱炭素実現に向けた投資が急速に拡大しつつあり、調達先に排出削減を求める動きも強まっている。
その一方で、新型コロナウイルスによる景気低迷や人口減少による国内需要の減少予測から、生産拠点の削減に踏み切る企業もいる。生産拠点の空洞化に直面する自治体のひとつが茨城県だ。
日本製鉄は今年3月、2024年度末をめどに茨城県鹿嶋市にある製鉄所の高炉1基を廃止すると発表した。廃止されれば、関連会社含め1万人の雇用に影響が出るとされている。
地域経済の疲弊が懸念されるなか、茨城県は5月26日、「いばらきカーボンニュートラル産業拠点創出プロジェクト」を発表し、脱炭素化で新たな産業の創出に乗り出した。
茨城県によると、2017年度のCO2排出量約48百万トンのうち、産業系が6割近くを占めており、特にCO2排出量は大規模産業が立地する臨界部に集中している。そこでつくばの産業技術総合研究所や筑波大学などの研究機関と連携し、県内にある臨界部をカーボンニュートラルの産業集積拠点にするというもの。
出典:茨城県
5月26日の定例記者会見で茨城県の大井川和彦知事は、「発電時にCO2を排出しない水素・アンモニアなどが脚光を浴びているが、製造技術やサプライチェーンにまだまだ課題が多い。しかし、エネルギー構造の抜本的な転換には技術開発や設備投資などが今後必要となる。ここに大きな産業発展の機会がある」と述べ、そのうえで「カーボンニュートラルは成長の原動力だ」と語った。
プロジェクトでは、水素やアンモニアで発電する火力発電や、水素で鉄をつくる「ゼロカーボンスチール」の実現、そして石油精製や石油化学へのグリーン水素の導入などを目指す。また、輸入水素の受け入れ体制や、洋上風力発電、太陽光発電などの再エネ供給体制も構築していく。
機運醸成に向け、鹿島港や茨城港周辺の臨海部を「カーボンニュートラルビジネス促進区域」に設定し、脱炭素ビジネスの創出を重点的に推進する。また再エネや水素などの需要がどれだけあるのか「見える化」し、サプライヤーを呼び込む考えだ。
臨海部カーボンニュートラルの全体像
出典:茨城県
さらに今年度中にも補助制度を拡充させる。県内に研究施設や本社機能を移転した企業に最大50億円。新技術・新製品開発に対しては1,500万円から最大1億円を補助する予定だ。
日本製鉄の高炉1基が廃止される一方、5月末には中国のエネルギー関連企業と日産自動車が出資する大手電池メーカー「エンビジョンAESCジャパン」が、茨城県内にEV(電気自動車)向けの電池工場を建設すると報じられた。
また、半導体世界最大手の台湾「TSMC」がつくば市に研究開発拠点を設けるとされ、脱炭素関連ビジネスの創出によって、にわかに茨城県が注目されている。
大井川知事は、「茨城県の中にしっかりとカーボンニュートラル産業をつくっていきたい」と述べた。
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