ベースロードとなる再生可能エネルギーとして、地熱発電が期待されている。日本は世界第三位の地熱資源国だが、では第一位はといえば、米国であり、開発量でも第一位だ。その米国では、バイデン政権の脱炭素に向けたグリーンニューディール政策の下、スタートアップなど、さまざまな企業が開発に取り組んでいる。YSエネルギー・リサーチ代表である山藤泰氏が報告する。
バイデン米国大統領は、地球温暖化対応に向けた政策目標を打ち出し、2050年には米国がネットゼロカーボンを実現すると宣言している。また、石油メジャーも、株主や投資家から事業のグリーン化を要請されて、再生可能エネルギーやエネルギー効率化の事業に力を入れざるを得なくなっている。そうなると、最近ロイヤル・ダッチ・シェル社が洋上風力発電事業に注力する方針を発表したように、再生可能エネルギーによる発電設備容量が急拡大することは確かだ。
一方、化石燃料を使った発電は縮小の方向に向かわざるを得ず、炭酸ガスを排出しない原子力発電も、再エネ電力のコストと対抗できなくなっているのと、その安全性への懸念から、先進国では停止するものが増える方向に向かう。その結果として風力発電や太陽光発電が急増し、総発電電力に占める変動性再エネ電力の比率が急増することになるが、このままでは電力の系統制御がやりにくくなる方向に向かわざるを得ない。
いわゆるベース電源が少なくなると同時に、これまでガス火力発電が担っていた風力・太陽光発電の出力変動を補う調整電源も減るからだ。ただ、調整電源は系統設置の蓄電設備(蓄電池だけでなく、揚水発電や水の電気分解による水素製造とその貯蔵なども含む)で代替できるかも知れない。
ベース電源としては水力発電があるが、新たな開発余地は多くない。そこで米国政府が打ち出したのが、地熱発電の新規開発である。
米国のDOE(エネルギー省)はこの4月、地熱をより効率的に採取するための技術開発に向けて1,200万ドル(13億円ほど)を充てることを発表している。この資金は地熱開発に向けた新規技術開発に向けるとし、DOE長官の言によれば、全ての人の足元深くに存在する再生可能エネルギーである地熱は、数百万の人や事業者にクリーンな電力を供給し、炭酸ガスの排出を抑制し、グリーン度の高い職場を提供することになる。
職場の提供という言い方には、ネットゼロに向かう社会で、化石燃料事業者が事業縮小に向かわざるを得なくなり、そこに働く人達の職を失わせる方向に向かうのを、業態変換させて新しい職場を作るという意味もある。
地熱発電をするためには、まず数~十数キロメートルの地下にある高温のマグマ溜まりを見つけなければならない。それには必ず深度地下への掘削が必要となるが、そこでは殆ど石油・ガス田開発と同じ掘削技術が使われる。
この掘削は、伝統的に見ると一本の穴を掘る方式だったが、最近のシェールガス開発で実用化された技術が応用されることによって、その一本から横方向に何本もの穴を掘ることが出来るようになり、マグマ溜まりを見つける確率が、従来は3分の一であったものが100%近くなっているようだ。
地熱発電事業の開発リスクが大きく下がることになる。マグマ溜まりの位置が分かれば、そこに向けて水などの流体を送り込んで熱を地上に取り出し、蒸気タービンを使って発電することになる。一定のレベルでの発電出力が基本だが、必要に応じて発電出力を増減することもできる。
DOEの地熱技術局が2019年に示している数字だが、政府が技術開発の支援をすれば、米国の地熱発電設備容量は、2050年迄に現在の約26倍、60GWになり、ベースロード電源として16%の電力を供給できるようになるとしている(原子力発電は95GWが設置されているが、縮小の方向に向かっている)。
ミシガン大学の算定では、現時点の米国における総発電量の0.4%が地熱発電からのものであるが、地熱発電の総設備規模は世界第1位となっている。
地熱の潜在量が大きいのは第一が米国、第二がインドネシア、第三が日本とされているが、実際の地熱発電への利用規模は、下図に見るように、米国とインドネシアは1と2だが、3番目はフィリピンであり、日本ははるかに下位の10番目に甘んじている。
出典:ThinkGeoenergy Research (2020)
この4月27日に小泉進次郎環境相が、関係法令の運用見直しや地域との調整などで、現在は10年以上かかる稼働までの期間を最短8年に短縮して、地熱発電の開発を加速すると表明したそうだが、米国の地熱発電開発ベンチャーの動向を見ると、規制や地域との折り合いの環境が異なるとは言え、この期間をもっと短くすることが可能だろう。
現在日本では、2030年度時点の電源構成を示すエネルギーミックスでは1%程度を見込んでいる。
地熱開発ベンチャーであるテキサス州に拠点を置くFervo Energy社の事例で見ると、DOEの補助金も含めて2,800万ドル(約30億円)を調達し、シェールガス開発の技術を応用して掘削するが、地球中心部からの熱を吸収する冷媒を地底深くの割れ目などに注入して熱を大量に集め、それに地表から水を注入して発生する水蒸気で新形式のバイナリー発電を行う。
これまでは熱源探索の不確実性が高かったが、低コストで使えるセンサー技術の発達で、精度の高い探索ができることによってヒット率が格段に向上し、事業リスクが大きく下がったとしている。同社はBill Gates’ Breakthrough Energy Venturesと持続可能社会に向けたプロジェクトを支援するCapricorn Investment Groupの投資対象だ。
Fervo Energyの掘削現場 同社のホームページから
いま、石油メジャーも、このような地熱開発ベンチャーと手を組んで事業の方向を変えようとしている。日本もこの動きに遅れをとらないように機敏な動きをしなければなるまい。
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