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ミャンマークーデターを中国はなぜ静観するのか エネルギー安全保障から見えてくる思惑

ミャンマークーデターを中国はなぜ静観するのか エネルギー安全保障から見えてくる思惑

2021/03/01

国際テロとエネルギー安全保障(5)

2021年2月1日、ミャンマーでクーデターが起こり、軍が政府を掌握、アウン・サン・スー・チー外相ら指導者は拘束された。今回のクーデターを、中国がなぜ静観しているのか。中国の一帯一路とエネルギー安全保障の面から見ると中国の戦略が見えてくる。清和大学講師でオオコシセキュリティコンサルタンツ アドバイザーの和田大樹氏が解説する。

ミャンマーの軍事クーデターは総選挙の結果がきっかけ

2月に入り、ミャンマーで軍事クーデターが発生し、現地情勢の行方が内外から懸念されている。アウン・サン・スー・チー外相やウィン・ミン大統領など政府高官やNLD(国民民主連盟)の幹部らは、現在も自宅軟禁にある。

国軍がクーデターを実行した背景には、2020年11月に実施された総選挙の結果、国民民主連盟が全476議席のうち396議席を獲得し、国軍系の最大野党である連邦団結発展党(USDP)は33議席に留まり惨敗したことがある。

国軍は選挙で不正があったとし、政府・与党に対して再選挙の実施を要求していた。

クーデター以降、最大都市ヤンゴンや首都ネピドー、第二の都市マンダレーなど各地では市民による抗議デモが発生した。国軍の行動を非難し、スーチー氏らの解放を求める声が各地から強まっている。

また、ネピドーでは警察官がデモ隊に向かって発砲し、これまでに2人がけがをし、1人が意識不明の重体になったとの報道もある(編集部注:2月15日時点。3月1日時点ではさらに負傷者が増えている)。

石油資源やエネルギー安全保障の視点から見ると

既に軍が権力を掌握している状態にあるが、この長期化によって、今後、軍と市民との衝突がさらにエスカレートすることが懸念される。

今回の軍事クーデターはミャンマー内政の問題であり、日本は独自に国軍と関係を築いてきたことから、現地の日本権益が直接標的になることはないだろう。だが、現地在住の日本人ジャーナリストが取材中に暴行を受けたとみられ、また、2007年には日本人カメラマンが撃たれて死亡する出来事もあり、国内の混乱に巻き込まれる恐れは十分にあり注意が必要だろう。

一方、今回の軍事クーデターを石油資源やエネルギー安全保障の視点から見た場合、1つの大きな動きが見える。

米国やオーストラリアなどは国軍を非難する一方、中国は内政問題だとしてそれを静観する立場を崩していない。中国にはどういった思惑があるのだろうか。


ミャンマーでの市民の抗議

ミャンマーは中国の戦略的要衝

ミャンマーは長年、中国から多額の資金援助を受けており、一帯一路構想を進める習政権は同国を戦略的要衝と位置づけている。

アウン・サン・スー・チー氏は、2017年12月に北京で習近平氏と会談し、ヤンゴン、西部ラカイン州にある港町チャオピューと雲南省昆明を鉄道と高速道路で繋げる構想「中国・ミャンマー経済回廊」を進めていくことで合意した。習近平氏も2020年1月にミャンマーを訪問し、同経済回廊の推進、ヤンゴンの都市開発など33項目からなる覚書をミャンマー政府と交わした。

既に、ミャンマーを通過点としてインド洋と中国を繋ぐパイプラインは運用されており、中国は石油や天然ガスを同パイプラインによって輸入している。そして、今後は上記の高速道路や鉄道を開発することで、中国と中東・アフリカの接近をさらに押し進めようとしている。

バイデン政権は、日本やインド、オーストラリア(インドネシアやマレーシナも視野にある)などの同盟国と協力しながら中国に対応していく姿勢を鮮明にしている。

よって、これまで中国がエネルギー航路の要衝としてきたマラッカ海峡や南シナ海では、今後いっそう米国側との安全保障上の対立が深まる可能性があることから、習政権にとってそれらを回避できる陸上ルートの開発は極めて重要となる。

また、距離的にも大幅なショートカットとなり運送費などを大幅に削減できるようになるかもしれない。

パキスタンに見る地元の反中国・反一帯一路

だが、それによるリスクも見えてくる。中国はパキスタンでも、パキスタン西部のグワダルと中国西部カシュガルを繋ぐ「中国・パキスタン経済回廊」の開発を長年押し進めている。しかし、グワダルがあるバルチスタン州や最大の都市カラチでは、地元の武装勢力による中国権益を狙った襲撃やテロが後を絶たない。

例えば、昨年(2020年)12月、カラチ近郊で中国人とその通訳を狙った襲撃があり、その一週間前にも別の中国人が経営するレストランが襲撃される事件があった。これら事件では、「Sindhudesh Liberation Army(SLA)」を名乗る地元の武装組織が犯行声明を出し、「中国とパキスタン政府が中国・パキスタン経済回廊に基づき我々の土地を支配しているが、今後も攻撃を続ける」と警告した。

また、2018年11月にはカラチにある中国領事館を狙った襲撃事件があり4人が死亡したが、その際もバルチスタン州を拠点にパキスタンからの分離独立を掲げる武装勢力「バルチスタン解放軍(BLA)」が犯行声明を出し、中国権益への攻撃を続けると警告した。SLAはBLAの関連組織とみられるが、特にBLAは中国権益への攻撃を重ねてきた。

パキスタンで起こっている反一帯一路の行動が、ミャンマーで起こるとは限らない。しかし、中国による資源獲得を目指した対外政策に地元から反発や抵抗の声が上がっているのは事実である。今回のクーデターによっても、中国のミャンマー重視の政策は何も変わらないだろう。

しかし、中国はクーデターを起こした国軍に何も言わないのかなどとして、ミャンマー市民の中国への不信感が今後高まる可能性は考えられるだろう。

エネルギー安全保障に不可欠な「地元」の実状重視

このように、今回の軍事クーデターをエネルギー安全保障の視点からみると、中国がクーデターを静観し、ミャンマーを重視する背景が見えてくる。そこには、中国にとって極めて重要な経済的利益がある。

しかし、パキスタンのケースにもあるように、地元の実状を重視しないやり方は当然ながら反発や抵抗を招く。

今後、石油や天然ガスなど資源エネルギーを巡る国家間競争はいっそう激しくなる可能性があるが、日本企業としても地元のニーズや実状を配慮した対策を進めていくことが今後とも求められる。

和田大樹
和田大樹

清和大学講師/ オオコシセキュリティコンサルタンツ アドバイザー 岐阜女子大学特別研究員、日本安全保障・危機管理学会主任研究員を兼務。専門分野は国際政治学、安全保障論、国際テロリズム論。日本安全保障・危機管理学会奨励賞を受賞(2014年5月)、著書に「テロ、誘拐、脅迫 海外リスクの実態と対策」(同文館2015年7月)、「技術が変える戦争と平和」(芙蓉書房2018年9月)、「2020年生き残りの戦略 ー世界はこう動く!」(創成社2020年1月)など。

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