『裁判長!ここは懲役4年でどうすか』『夕陽に赤い町中華』などでおなじみの北尾トロさんの連載。カーボン・ニュートラル?脱炭素?SDGs??という自称・脱炭素オンチの北尾トロさんが、「知らぬが仏」にしておけないキーワードを自ら調べ上げ、身近な問題として捉えなおします。今回のキーワードは・・・
知らぬがホットケない 第8語 ソーラーシェアリング
ソーラーシェアリング。聞きなれない言葉である。和製英語で、正しくはAgrivoltaic。ひとつの土地を太陽光発電と農業のために使うことを意味するらしい。漢字表記では営農型太陽光発電。みんなの財産である太陽光を発電と農業でハイブリッドに活用しようという提案、みたいな理解で大丈夫だろう。
一般社団法人ソーラーシェアリング協会のサイトにアップされている試験農園でのトマトやブルーベリー、キノコの栽培動画を見ると、発電もできるし、農作物が必要とする光も確保できているようで、一挙両得という言葉が思い浮かぶ。
じゃあなぜ、僕はこのような施設を実際に見たことがないのだろう?
まだまだ日が浅いために普及していないと考えるのが妥当なのだろうけど、たぶん経済の問題だと思う。農地の上に太陽光発電の設備を作って土地を立体的に使うためには風雨にさらされてもびくともしないよう太陽光パネルを支える必要があるのだ。発電事業でそれなりの収益が見込めなければ、おいそれとは始められない。行政の経済的サポートがあったとしても、個人農家にリスクのある選択を望むのはハードルが高すぎる。
自宅の屋根にパネルを設置して電気代を節約するのと同等には扱えないって話。ソーラーシェアリングはいまのところ、大規模に展開する農業法人や、将来のビジネスの種を探している企業しか手を出しづらいものかもしれない。
だけど、アイデアとしては悪くないと思う。
高齢化による農業従事者の減少などで、日本は耕作放棄地だらけ。なんとか立て直していかないと、食糧の自給率はますます低くなる。土地は荒れるし不法廃棄物の捨てられ場所になりかねないし、放っておいていいことは何もない。喜んでいるのは、ねぐらを確保できる野生動物くらいのものだ。
僕が暮らす埼玉県某市では、山を削って大規模な太陽光発電施設を作る計画があったのだが、市民の反対運動で議会が動き出し、見直しの方向へ進みつつある。市民が危惧するのは環境破壊や地盤弱体化。自然エネルギーの利用には賛成だけど、その方法は慎重に考えてほしいという意見の人が多い。
自然エネルギーを取り入れて石油頼みの現状から脱却することに積極的な人は環境問題にも敏感で、両者をはかりにかけて考えるのだ。経済も大事だけれど、それだけで人の気持ちが決まるわけじゃない。
そんな彼らに、ソーラーシェアリングを提案してみたら、僕は案外賛成してくれそうな気がする。最大のメリットは環境破壊を最小限に抑えながら、自然エネルギーの生産ができそうなことだ。
農地は平野部に集中しており、その一部が耕作放棄地になっているのだから、ある地域が集中的にパネルに覆われることもなさそうである。
僕は市民農園を借りて、趣味で野菜を作っているが、畑の近くにポツンぽつんとパネルがある程度なら嫌な気持ちにはならないだろう。なんなら、市民農園のようなところで実験的にパネルを並べてみたらいいと思う。
行政が音頭を取り、ビジョンを示す。住民の意見を取り入れながら年々設置個所と、まかなう電力を増やす。ソーラーシェアリングを普及させる手段の一つはそれかもしれない。
住民の税金を元手に設備投資をし、売電で得られる収入で潤った分、税金が安くなる仕組みを作れば地域全体にとってメリットも生じるというものだ。収入の多くを環境保全に充てる施策の効果は、たとえば移住希望者の増加みたいな形で現れる可能性もある。
すでに電力の自給率が100%を越す市町村はあちこちにあるわけで、その仲間入りを目指すという目標の設置は、さほど突飛なことではない。
もちろん素人の安易な考えだということはわかっている。メリットがあればデメリットも見つかるはずで、リサーチには時間をかける必要もある。ただ、ソーラーシェアリングの認知度が僕のような素人にまで広まっていない現状は、この話題が農業従事者とビジネス界にとどまりがちなことの反映だとも思うのだ。
ネットを検索しても、この話題に関してはお金の話(ビジネスとして有望)が目立ち、ソーラーシェアリングと地域おこしを結びつけるものは発見しづらい。でも、耕作放棄地のあるローカル地域の住民がいちばん欲しいのは、住んでる場所に愛情をこめて「いいところだ」と言えることだったりもする。
「地熱利用の難しい我が市はソーラーシェアリングで電力をまかない、地球にやさしい暮らし方を進めていきましょう。条件に合う農作物を選んで育て、地域の特産にしましょう」
いま住んでいるところでそんなプランが持ち上がったら、借家暮らしの僕も、終の棲家を探し始めてしまいそうだ。
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