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見えてきた「水素」社会の可能性

見えてきた「水素」社会の可能性

EnergyShift編集部
2020/04/28

水素エネルギーは、クリーンなエネルギーとして、日本政府も技術開発や実証に力を入れている。その一方で、水素エネルギーにはコストやエネルギー効率などの面から疑問があるとする意見も強い。しかし、水素エネルギーの有望な技術も開発されつつある。新たに見えてきた可能性について、エンジニアリングビジネス誌編集長・宗 敦司氏が解説する。

「水素社会」につきまとう疑問

「水素社会」への動きが着々と進んでいる一方で、水素には常に疑いの目がつきまとう。それでも最近では、具体的な可能性が見えてきたように感じる。

水素のメリットは、使用時にCO2排出がない、排出されるのが水だけで他の汚染物質もない、というクリーン性である。日本は水素を利用する燃料電池の技術レベルが高い、という認識から日本政府は水素社会実現へ向けた水素戦略を進めている。

最近でも、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)等による、世界最大級の水電解装置を備えた「福島水素エネルギー研究フィールド(FH2R)」が完成。また水素を有機ハイドライドの形でブルネイから輸入し、利用するプロジェクト*1でもプラントが完成した。さらにオーストラリアの褐炭利用水素製造と、それに伴う液化水素輸送プロジェクト*2では液化水素タンカーが完成・進水するなど、一定の成果があがっている。

福島水素エネルギー研究フィールド 写真:NEDO

その一方、常に「本当に水素エネルギー社会は実装されるのか」という疑問がつきまとっている。その理由は単純明快で、水素が二次エネルギーであるためだ。

地球上では水素が単体で存在することはなく、すべて他の元素との化合物で存在するので、水素をエネルギーとして使うには単体の水素を「作る」必要がある。大量に水素を製造するなら化石燃料の部分燃焼技術、クリーンに作るなら水電解技術が必要だ。

ただ、部分燃焼では水素製造時にCO2が排出される。水電解でもそれに使用する電力が火力発電由来では同じことで、いずれも水素最大の特徴であるクリーンさは低下する。電解では大量に作ることは中々難しい。

エネルギー効率を考えると、化石燃料から水素を経由して利用することよりも、化石燃料をそのまま燃焼して電力にする方が、効率が良い。さらに、コストや供給可能量の面からも「水素社会」の実現は難しい。

以前、某展示会で水素関連機器メーカーの担当者は「政府がお金を付けるうちはやる。予算が途切れれば撤退することになる」と言っていた。機器メーカーですら水素社会の実現を全面的に信じている訳ではない。自動車業界でも、今後は電気自動車(EV)が主流となるのではないか、と見る向きは多い。

低コストな水素の大量供給で「マイナスカーボン」も可能に

実は筆者もその一人で、未だに水素社会の実現を信じ切れてはいない。
例えば、最近注目されているメタネーション*3も、その意義がよく分からない。再生可能エネルギーが電力需要を上回る状況になれば、その余剰エネルギーを貯蔵し、有効活用するという考えだが、高額な水素およびCO2から、価格の安いメタンを生み出すという、その経済性だけ見ても、絶望的になる。

水素社会が実現するには、いくつかのハードルを越えなければならない。まずは水素が大量に安く供給できなければならないので、化石燃料を使ったとしても、CO2排出が無い技術が必要となる。または、大規模な水電解装置の実現が求められる。

そうした状況の中、千代田化工建設は2020年2月にオーストラリアのHAZERグループと、同社のHAZERプロセスの日本展開で提携した。
このプロセスは鉄鉱石触媒を利用して、メタンから水素とグラファイトを製造する技術だ。通常はCO2が大量に発生するが、炭素分をグラファイトとして固定化しているため、プロセス内でのCO2発生はない。また、グラファイトは電極の材料用などの用途として比較的高価で販売できるため、プロセスの商業性が高く、水素の価格を低減できる可能性がある。原料メタンに下水汚泥消化ガスなどを活用すれば、マイナスカーボンが成立する事になる。

現在はオーストラリアでの実証が行われており、その商業性などが検討されているが、導入が開始されると、水素製造技術としては有望なものとなりそうだ。

HAZERプロセスの概念図 HAZERグループウェブサイトより
  • *3 メタネーション:水素とCO2からメタンを合成する技術。

製造・輸送・利用のハードルのうち、「製造」では可能性が見えてきた

また、苛性ソーダ製造設備として世界で普及している大型の膜式電解装置の利用例もある。日本とドイツの流れをくむティッセンクルップ・ウーデ・クロリンエンジニアズが世界の苛性ソーダ・塩素メーカーに提供する水電解技術は商業プロセスとして既に確立されている。
このプロセスを水素製造に使うことで、大量の電解水素が得られる。現在同社では、5MWと20MWをモジュール化しており、水素利用が本格的に拡大すれば、大型電解装置をいつでも供給することが可能としている。

ティッセンクルップ・ウーデ・クロリンエンジニアズの水素製造装置(20MW モジュール)同社ウェブサイト資料より

水素は製造、輸送、利用の3つがそれぞれに課題があり、それが相互に阻害要因となっている。しかし少なくとも、水素製造の面では可能性が見えてきたように感じられる。

水素の低コスト化が進み、水素価格が充分に安くなれば、利用面の拡大も期待できる。通常の乗用車では電気自動車が中心となっても、バスやトラックのような大型車では、燃料電池自動車がメリットを出せるようになるだろう。また、低価格の水素からメタノールやアンモニア、代替天然ガス(SNG)等を合成することで、化学原料として使えるようになっていく。

今後数年間で商用化技術が次々と実現していくに伴い、水素社会の可能性が急速に実感できるようになるかもしれない。

参照

プロフィール

宗 敦司(そう あつじ)

1961年生まれ、東京都東村山市出身。 1983年 和光大学人間関係学科卒業。 1990年 ㈱エンジニアリング・ジャーナル社入社。 2001年 エンジニアリングビジネス(EnB)編集長

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