2021年7月30日、日産自動車は年次報告書「サステナビリティレポート2021」の公表にあわせ、オンラインによるセミナーを開催し、内田誠代表取締役社長と田川丈二専務執行役員チーフサステナブルオフィサー(CSO)が登壇、日産のさまざまな取組みについて説明した。レポートでは、日産が「よりクリーン」で「安全」で「インクルーシブ(包摂的)」な社会を目指す取り組みが紹介されている。Youtubeを利用したオンラインによる「日産サステナビリティセミナー」でも、こうした点が強調された。
セミナーで最初に登壇した内田社長は、ESGにフォーカスした説明を行なった。
E(環境)については、現在「ニッサン・グリーンプログラム2022」を推進しているとした上で、10年前に電気自動車のリーフの量産を開始したこと、2010年に設立したフォーアールエナジーを通じてバッテリーの再利用を進めていくことなどを軽く紹介した上で、脱炭素に向けての取組みを語った。
日産は脱炭素に向けて、まず2030年代の早い時期に、全車種を電動化する。そして2050年には自動車のライフサイクル全体をカーボンニュートラルにしていくということだ。
とはいえ、ライフサイクルのカーボンニュートラルについては異業種や行政との連携は不可能だとしており、政府や他企業を一体となって取り組んでいく方針。2021年7月に発表された、英国での電気自動車製造ハブとなるEV36ZEROは、その1つの事例で、英国サンダーランド工場を中古バッテリーの活用を通じて再エネ100%にするだけではなく、Envision AESCによる9GWhにおよぶバッテリー生産ギガファクトリーを併設、6,200人のグリーン雇用を創出するものとなっている。
#Nissan is driving towards carbon neutrality with a world-first EV manufacturing ecosystem ⚡
— Nissan Motor (@NissanMotor) July 1, 2021
Announced today, Nissan 36Zero is a £1 billion flagship #EV Hub in Sunderland, UK, that will establish a new 360-degree solution for zero-emission motoring.
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S(社会)については、最初に自社の自動車がかかわる死亡事故をゼロにしていくという目標が示された。また、従業員についてもダイバーシティとインクルージョンを通じて日産らしい価値を創出する。女性やLGBTの方々の活躍を支えるということだ。
実際に日産の管理職の女性比率は16%となっており、他自動車メーカーより高いという。また、ライフサイクルに関連して、コバルトなど希少金属の調達にあたっては、鉱山の労働環境や環境破壊が問題となっている。こうした点をいかに改善していくのかも、問われてくる。この後に登壇した、田川CSOからは、コバルトフリーのバッテリーの開発が進められていることなどが紹介された。
G(ガバナンス)については、過去の問題を踏まえ、信頼される企業になれるようにコンプライアンスを徹底するということだ。また、気候変動や人権問題に対する取組みについて、外部指標を導入した上で、役員報酬にも反映させる制度を導入しているという。
内田社長、田川CSOのプレゼンに続き、ディスカッション、および記者を対象とした質疑応答も行われた。日本の自動車メーカーとしては、電気自動車の開発や製造、カーボンニュートラルへの目標設定、人権問題などでの先進性は示すことができたセミナーだといえるだろう。
とはいえ、欧州は2035年にガソリン車販売禁止となる。日産が2030年代早期に100%電動化するといっても、ハイブリッド自動車の割合がどうなるかは決まっているわけではない。e-Powerという独自の高効率なハイブリッド自動車技術を持つ日産だが、これも欧州ではガソリン車に分類されてしまう。この点も、日産にとっては悩ましいところだ。
人権についても、まだまだ途上といえる。自動車のコストの6~7割はサプライヤーのコストだが、こうした分野で強制労働や児童労働をいかに排除していくかはまだまだ課題だ。そうした中、コバルトなど紛争地で採掘される鉱物資源については、精錬所を公開するなどの取組みも行われている。
また、人口の半分が女性であることを考えると、女性管理職はまだまだ足りないという。ユーザーが自動車を選ぶ際にも、女性の声が影響するが、これに対応するためにも、女性の従業員、管理職、役員の比率は上げていく必要があるだろう。
セミナーの最後で、内田社長が語ったのは、「財産は従業員、能力を発揮できる環境をつくることが、経営者にとってマスト(必須)、あたりまえをちゃんとやらないと持続可能な成長ができない」ということ。とはいえ、やるべきあたりまえは少なくない。外部環境が変化し、脱炭素が求められる中で、「社会から必要とされる会社になっていく」(内田社長)ことができるかどうか、これから問われるところだ。
(Text:本橋恵一)
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