2020年10月26日の菅首相の2050年カーボンニュートラル宣言以降、その姿をめぐる議論が起きている。こうした中、2020年11月26日、三菱総研はメディア意見交換会において、2050年のエネルギービジョンを示した。
メディア意見交換会におけるプレゼンテーションは、前半は2020年7月に刊行された書籍「三菱総研が描く2050年エネルギービジョン」の概要が紹介され、後半で新たに検討された、2050年カーボンニュートラル実現に向けた提案がなされた。
前半のプレゼンテーションを行った、主任研究員の小川崇臣氏は、未来のエネルギーシステムに向けた6つの課題のうち、「再生可能エネルギーの主力電源化」と「エネルギーマネジメントシステムが基盤」という2点について紹介した。
そこでは、太陽光発電と風力発電が主力電源の中核を担う一方で、小売電気事業者が総合サービスプロバイダーに変貌し、あるいはサービス事業者が登場することで、再生可能エネルギーを最適に運用していく姿を描いた。とはいえ、7月刊行の書籍における分析の前提は、2050年温室効果ガス80%削減が前提となっている。100%削減がどうなるのかについて、グループリーダーで主席研究員の井上裕史氏がプレゼンテーションした。
井上氏によると、カーボンニュートラルにあたっては、以下の点が必要だという。
ということだ。
2050年のエネルギー需要と電源構成
※2050年の発電電力量については、このようなリソースを組み合わせて脱炭素化の実現を目指すものであり、本図における縦軸方向の大きさが各電源の発電量を示すものではない。 2013年度、2030年度の数値は長期エネルギー需給見通し関連資料を基に三菱総合研究所作成
実際に、エネルギー消費において、電化されていない部分は少なくない。特に製造業において、電化の余地が大きい。逆に言えば、電化困難な工程の脱炭素化が鍵となる。
部門・業種別の最終エネルギー消費量と電化率
三菱総合研究所資料より
さらに、カーボンニュートラルの実現のためには、取り得る対策の総動員が必要ということだ。
質疑応答で示された回答を通じて、実現にあたっての見方が示された。
例えば、カーボンニュートラルに向けて、市場メカニズムを通じた金銭的インセンティブが不可欠だという。同時に、需要家の意識も京都会議のときと異なり、再エネ100%が考えられるようになってきたと指摘する。こうした流れをつくっているのが、環境NGOということだ。
洋上風力については、日本はメーカーが撤退し、海外メーカーに頼らざるを得ない点を危惧する一方、日本に風力発電設備の工場を誘致するということも考えられるとした。
途上国の石炭利用に対しては、「途上国に石炭を使う権利はある」としつつも、実際に金融がついてくるかどうかという疑問を示した。また、CCS(CO2回収技術)やバイオマス混焼といった方法もあるが、後者についてはCO2の大幅削減は難しい。加えて、途上国だからといって、再生可能エネルギーが高いとは限らないという。
原子力発電などの大規模電源については、開発・運転にあたってはバックエンドも並行して進めることが必要である、とした。容量市場についても、資源エネルギー庁が将来の新増設を必要と考えたとしても、それでしっかり手当できるわけではないという。
2050年温室効果ガス80%削減からカーボンニュートラルに目標が変化したが、井上氏によると、都市とエネルギーという点では大きく変らず、民生用はほぼ電化することになるという。産業や運輸などによる、残された20%の削減をいかに手当てするかということが重要だ。
(Text:本橋恵一)
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