どちらにしろ、AWSのシステムが利他的・利己的双方の理由で「省電力」「CO2削減」に注力していることは疑いがない。
ではプロセッサーなどの他に、どんな部分で効率化を進めているのだろうか? ハイグ氏は特に「冷却関連」を挙げる。AWSの設備は現在どこも「水冷式」だが、単に水を回せばいいというわけではない、という。
「そもそも、水で冷やしすぎる必要がないようにしています」とハイグ氏は言う。
サーバーの発熱を抑えるために放熱は必要だが、我々が頭で考えるように「水で完全に冷やす」ところまではやらない。徹底的に冷やすシステムにするとそれだけ大量の水を使う必要があり、水の循環に使うエネルギーと、水を用意することの両方で無駄が生まれる。冷えるようにすることも重要だが、サーバーの維持にとって適切な温度で回すことが重要になる。
「水を減らし、再利用することも重要」(ハイグ氏)だ。水冷には飲料水は使われておらず、処理水やリサイクル水が基本だ。AWS内で使う水もAWSの中で複数回循環して使う。循環させる中でミネラルの蓄積が起きるので再利用回数には制限があるとのことだが、「それをできる限り増やせる技術に投資もした」(ハイグ氏)とも言う。さらに「アメリカ西部では、地元の農家と協力して、冷却システムで何度も循環させた水を畑で使用することで、結果的に廃水をゼロにすることができた」そうだ。農業での利用は、そもそも相当に規模の大きな農地でないと難しく、日本の状況に合いそうにない。しかし、水の再利用や循環のシステムなどは、当然日本でも使えるノウハウである。
一方、冷却のことを考えるのであれば、涼しい地域や水資源の豊富な地域に全てのサーバーを配置すればいいようにも思える。
だが、今のクラウドインフラはそこまで単純ではない。
「顧客のニーズに沿って施設の場所を決めています。私たちは全ての場合で、エネルギーに最適な気候条件がどこにあるかを基準にして選択する余裕があるわけではありません」とハイグ氏も言う。
ネットなら、サーバーはどこにあってもいい……というイメージを抱きがちだが、今はむしろ「居住地の近くにサーバーがある」ことが重要になっている。距離が遠ければ通信には遅延が発生して快適さが失われやすく、ネットの混雑にもつながる。プライバシー規制などの関係で、データは他の国のサーバーに置けない事業も増えてきた。クラウドインフラ事業者は世界中にサーバー設備を置き、それぞれの国や地域で最適解を見つけなければならない。
「日本は四季があり、少なくとも1年の一部は冷房を使うことができる国の一例です。その場合には当然、私たちは施設の設計に気候的な利点を取り入れます」(ハイグ氏)
前出のような「水のリサイクル」も、ある意味で地域性が出る領域だが、それだけにとどまる話ではない。もっとも地域性の制約を大きくうけているのは「再生可能エネルギーの活用」だ。
AWSは2025年を目標に、「全社で利用する電力のすべてを再生可能エネルギーで賄う」準備を進めている。その中には、他事業者から再生可能エネルギー由来の電力を購入する分も含まれる。
問題は「再生可能エネルギーの購入市場は地域差が大きい」(ハイグ氏)ということだ。アメリカなどは取引が容易な地域だが、日本を含むアジア太平洋地域は取引市場・制度が未成熟な部分がある。
「日本を含む困難がある地域も含め、パートナーと共に利用を拡大していきたい」とハイグ氏はいう。
実はこのインタビュー、9月8日にAmazonと三菱商事が再生可能エネルギーの購入計画について発表する前に行われている。そのためその話は直接出てきてはいない。
一方で、直後に日本としてはこれまでに例のないほどの規模のアライアンスについての発表を予定していたにもかかわらず「困難がある」とコメントしている点に注目すべきだろう。
AWSは前出の調査の中で、再生可能エネルギー調達によるCO2削減の割合を、「従来比で15%程度」としている。小さな値ではないものの、冷却システムなどの改善に近い値だ。
AWSと三菱商事のプロジェクトでは合計22MWの太陽光発電となるが、これはAWSの規模としては「まだまだ小さい」ものにすぎない。AWSはアメリカでは合計6「G」W分の再生可能エネルギープロジェクトを進めており、カナダでも375MWの太陽光発電所を展開した。日本のAWSの市場規模から考えれば、いかにも小さいものだ。
日本はアメリカに比べ、国土の性質上再生可能エネルギーの活用に向いていないし、制度面・産業面での展開も遅い。そうしたことが影響している可能性は高いだろう。
それらの状況を踏まえても、個々の企業がサーバーを持つよりもクラウドインフラ事業者に任せた方がいい……というのがAWSの主張であり、それは必然的に自社のプロモーションではある。だが、その主張に妥当性がないわけではなく、確かに「集約の効果」は存在する。
今回のポイントは、企業としてオンプレミス環境からの移行を進めるのか、という観点において、あらためて「CO2削減効果」という視点が生まれている、という指摘そのものにあるのだ。
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