観光地として人気の沖縄県宮古島。離島郡の宮古島市のエネルギー自給率は現在2.88%(2016年)とかなり低く、島外依存が高い。コスト高はもちろん、災害対策としても基盤が脆弱なのは明らかだ。そこで市ではエネルギー自給率を2050年に48.85%に引き上げ、同時にCO2を69%削減する対策を打ち立てた。この注目の計画の実現性はどうか、どのような対策が行われるのか。現地に飛んだ藤本健氏のレポートをお届けする。
エコアイランド宮古島宣言2.0
いま、リゾート地として世界的に注目されている沖縄県の宮古島。今年(2019年)3月に新たに国際空港である「みやこ下地島空港旅客ターミナル」が開業し、島をあげての活況となっている。
その宮古島、離島であるだけに、エネルギー確保をどうするかは重要な問題である。そうした中、宮古島市は2050年にエネルギー自給率48.85%を目指すという目標を掲げて動き出した。2018年にスタートした「エコアイランド宮古島宣言 2.0(リンク:https://www.city.miyakojima.lg.jp/gyosei/ecoisland/sengen2.html)」の中で打ち出し、官民共同で実現に向けた施策をはじめているのだ。
実際、それは現実的なことなのか、どのように行うのか、そしてこの動きは日本全体に広がる可能性があるのか、現地に行って話を聞いてきたので、3回にわたって紹介していく。第1回目の今回は宮古島独特の事情と、エネルギー自給率に関する宣言を打ち出した背景について見ていくことにしよう。
宮古島の背景 – 増える観光客と高まるエネルギー需要
沖縄県の宮古島は東京から約2,000kmなので、直線距離的には韓国、北朝鮮はもちろん香港や上海よりも遠い場所。県庁所在地である那覇からも約300kmあり、那覇と台湾の中間に位置する島だ。
宮古島市は宮古島本島を中心に、伊良部島、新空港ができた下地島、また車島、池間島、大神島の6島から成り立っており大神島以外はすべて橋でつながっている。四方を海に囲まれた隆起サンゴ礁からなる平坦な島群で、大きな河川などはなく、台風や干ばつを受けやすい厳しい自然環境にある島でもある。
その宮古島の主な産業は農林水産業と観光業だ。農業は基幹作物であるサトウキビのほか、葉タバコ、そしてマンゴーなどの果樹栽培、野菜ではゴーヤ、カボチャ、とうがんなどが作られている。また、美しい自然や景観資源を背景に観光業が大きく発展してきている。
2009年度には33万7,356人だった観光客数が2018年度には114万3,031人と初めて100万人をこえるなど、過去最多を更新し続けており、それを支えるエネルギー、電力への問題も深刻になってきているのだ。
一方で、水資源の確保というのも重要な問題なのだが、それは地下ダム灌漑(かんがい)整備によって解決している。
実はこれが今後のエネルギー政策とも重要な関係にあるので、少し説明しておこう。
前述の通り宮古島はサンゴ礁が隆起してできた透水性の高い石灰岩でできているため降った雨はすぐに地下へ浸透してしまい、それがそのまま海に流れ出てしまう地形となっている。また島も狭く、起伏が少ないために大きな川もない。そのため過去には干ばつ被害などが頻繁に発生していたのだ。
そこで、地下にしみ込んだ水が海に流れでる前にせき止める地下ダムを作り、貯まった水を取水して生活用水、農業用水に活用するようになったことで、水不足の問題はほぼ解決している。
なお農業用水に関しては農家が使う時間が集中しているため、くみ上げた水をそのまま使うのではなく、一旦、丘の上にあるファームポンドと呼ばれるタンクに貯めた上で使う形になっており、このくみ上げに大きな電力が使われている。
宮古島のエネルギーの97%が島外に依存
さて、そうした宮古島はまさに離島であり、電気、ガス、ガソリンなど宮古島で使うエネルギーの約97%を島外に依存しているのが実情だ。離島であるため、石油などの輸送コストも高くなり、火力発電所も小規模で効率が落ちる。結果として宮古島を管轄する沖縄電力にとっても赤字要因のひとつとなっているのが実情だ。
宮古島は、その地理的にも台風の直撃を受けやすい場所という問題も抱えている。年に数回は台風による影響で、電柱が倒れるなどの事故が生じ、停電を引き起こすのだ。小さい島だけに、停電は全島に及ぶこともしばしばで、年に数日間は停電してしまうのが実情。だからこそ、停電への備えについては島民の多くが大きな関心を持っている。
エネルギー自給率を設定
このように宮古島は、エネルギーに関して日本の本土とはいろいろと異なる背景があり、エネルギー問題は行政という点から見ても重要なテーマになっていた。その宮古島では2008年に「エコアイランド宮古島宣言」を打ち立てて、自然環境保護などを推進してきたが、それから10年経過した2018年に「エコアイランド宮古島宣言 2.0」に改めると同時に、この中でエネルギー自給率の目標も掲げた。
環境モデル都市としてCO2の削減に取り組むという世界的な流れに則った方向性があるだけでなく、やはり本土と比較してもエネルギー自給率が低く、コストも高くなってしまうのが大きな問題だからだ。
自給率の向上、つまりエネルギーの地産地消を実現するために再生可能エネルギーの導入は不可欠であるという考えが強くなる一方、太陽電池が急速に価格低下しているため、グリッドパリティ*が実現し、島内での系統電力より安価になることが確実になっている。そのため太陽光発電を中心に、風力発電などを加えた再生可能エネルギーの促進をしていこうという考えが、エコアイランド宮古島宣言 2.0の中にある。
とはいえ、太陽光発電を大量導入すれば解決するというほど簡単なものではないのも事実。電力需給バランスの調整は重要な問題であり、これをうまく実現しないと従来の系統との連系ができなくなってしまう。
いかに安価な調整力確保を行うかが重要な課題で、これを持続的に推進することも大きなテーマとなっているのだ。それに対し、官民協力して推進していこうと動き出したのが宮古島なのだ。
- *グリッドパリティ:既存の発電コストよりも再生可能エネルギーによる発電コストが安価になる状態のこと。
過去にも再エネ導入を積極的に行っていた
もちろん、これまでもエネルギーの地産地消に向けた実証実験など、再生可能エネルギーの導入はしてきた経緯もある。
その一つが2010年にNEDOの実証実験として、沖縄電力が太陽光発電4MW、蓄電池4MWを設置し、再生可能エネルギーによる変動に対する安定化対策の実証を実施したもの。これは離島の独立系統に太陽光発電設備などを大量導入した場合の影響を把握し、分析し、必要となる系統安定化対策に関する知見を得ることを目的に行われたのだ。規模が大きいだけに、ある種シンボル的なものにもなっている。
また、前述の基幹産業であるサトウキビ生産に対応するための製糖工場がある。この工場で使うエネルギーは「バガス発電設備」によって自家発電で賄われている。バガスとはサトウキビの圧搾工程で発生するサトウキビの絞り粕のこと。これを蒸気タービン発電設備のボイラーの燃料として使用し、発電を行っているのだ。発電した電力は外部に供給するほどではないとのことだが、工場の電力はこれで賄われているほか、最終的な廃棄物もすべて畑に還る循環型のシステムとなっている。
またこのサトウキビの製糖工場において、副産物となる糖蜜を原料としたバイオエタノールの製造施設を作り、環境省のエコ燃料実用化地域システム実証事業として取り組んできた。これはまだ採算に合うレベルではないようだが、さまざまな検証が行われている。
そして風力発電にも積極的に取り組んできた経緯がある。沖縄電力、そして沖縄新エネ開発がそれぞれ風力発電設備を設置し、出力900kW、600kWのものなど計4基が稼働、年間700万kWh程度の発電を行っている。
ただ、これまでもっと多くの風力発電設備を設置してきたが、宮古島を直撃する台風で破損したり、倒壊するという事故があり、いくつかが撤去されている。さらに強度を上げるという手段もあるが、それだとコストが上がってしまうため、今後どうしていくかは課題となっている。
では、そんな宮古島が、今後どうやってエネルギー自給率48.85%を実現させていこうというのか。その詳細を次回レポートする。