英国全土で170万軒の顧客を有するBulb Energyは、シンプルかつ安価な再エネ100%電力を供給している。料金メニューはもちろん、日常生活のカーボンフットプリントを相殺できるサービスにも、その精神「もっとシンプルに、もっと安く、もっとグリーンに」が貫かれている。2020年9月からは、米国テキサス州でも再エネ100%電力の販売をスタートした。
Bulb Energyは、2015年から再生可能エネルギー100%電気の供給を始めた。現在は、英国全土で約170万軒の顧客を有する。カーボンオフセットしたガスも販売しており、2019年実績では、4%は食品廃棄物などに由来するバイオガスも含まれている。
Bulb Energyの創業者Hayden WoodとAmit Gudkaはエネルギー業界で働いていたが、業界の変革をリードするため「よりシンプルで、より安く、よりグリーンに」をモットーにBulb Energyを立ち上げた。
左:Amit Gudka、右:Hayden Wood Bulb Energyより
Bulb Energyの電源構成は、風力発電が78%、太陽光発電が18%、水力発電が4%だ。「自身が使う電気がどこからやってくるのか知るべきだ」との思いから、調達先の発電所情報をウェブサイトで公開している。調達先には、Ørstedの洋上風力発電所11ヶ所も含まれる。中には個人所有の小水力発電所もあり、所有者の祖父が1920年代に手作りしたという郊外の小さな水車には、温かみさえ漂う。
Bulb Energyウェブサイトに掲載されている電源構成比
料金メニューはシンプルな1プランのみ。その「Vari-Fair」は卸売りの値段により、変動する。卸の値段が高くなれば30日前に通知し、電力量を押さえるよう呼びかける。卸料金が下がった場合は、その分が還元されるしくみだ。
「Vari-Fair」の名前の由来は、Variable(変動)と、Fair(公正)を組み合わせたもので、電気料金をできる限り公正に提供することを謳っている(ただし、スマートメーターの種類や支払方法、地域によって、若干だが料金は異なる)。
Bulb Energyウェブサイトで自分の毎月の電気料金を簡単に見積できる。筆者はベッドルームが2、3部屋という標準的な条件で試算してみた。月々の電気・ガス料金は81.47ポンド(約11,242円、1£138円換算)と、大手電力会社より5.87ポンド(約810円)安い。
切り替え前の電力会社から解約違約金を請求された場合、Bulb Energyが顧客に最大60ポンド(約8,280円)まで補填するという。Bulb Energyには解約違約金はない。
顧客に対して、スマートフォン向けアプリを提供しており、スマートメーターのデータを見ることができる。アプリには顧客同士のコミュニティ機能があり、チャットなども行うことができる。
このアプリを利用した新しいサービスとして、2020年10月から、“Smart Pay As You Go”がスタートした。いわばプリペイド型の料金メニューで、顧客は必要なだけ電気を買うことができる。買った電気が少なくなれば、通知する機能も近く実装される。さらに、電気代を節約するための情報なども提供していくという。
実際に試してみた見積りBulb Energyウェブサイトより
驚いたことにBulb Energyは、英国のほぼすべての電力会社の料金を並べたグラフをウェブサイトに掲載している。大手電力会社ビッグ6との料金比較が掲載の目的だが、自然エネルギー系の電力会社(例えばこの連載でも取り上げたオクトパスエナジー(Octopus Energy))も掲載されている。
もちろんBulb Energyの料金は安いほうだが、最安値ではない。それでもこのグラフを載せるのは、自社の料金がサービスに対して適正だという自信のあらわれだ。
Bulb Energyは、契約開始時は安いが数ヶ月後には値上げする一般的な電力会社の契約スタイルに反対している。同社が電力・ガス卸価格の変動を反映した料金メニュー「Vari-Fair」にこだわるのには、こうした理由がある。
調達先や料金など、これらすべて、「フェアネス=公正さ」を重視しているあらわれだろう。
Bulb Energyの「Carbon Calculator」はユニークなサービスだ。週に何回牛肉を食べるか、よく使う交通手段は何か、日用品や家電を1年でどれくらい購入したかといった質問に答えるだけで、個人が1年間に発生させるCO2の量(カーボンフットプリント)を測ることができる。それだけでなく「Carbon Calculator」で月額数ポンドを支払うと、さまざまな発生源によるCO2をオフセットできる。これらは同社の電気・ガスの顧客でなくても利用可能だ。
支払われた金額は、世界中のカーボンオフセットプログラムへの支援金として提供される。支援先には、シエラレオネの熱帯雨林の保全やインドの再エネプロジェクトなどがある。
こうしたことで、自分たちの使うエネルギーによって生まれるCO2、温室効果ガスを可視化し、知ってもらう取り組みをさまざまなかたちで行っているのだ。
Carbon Calculatorでは、まず日常使っている交通機関を選ぶ
Bulb Energyは、カーボンオフセットの可視化だけではなく、エネルギーに関する知識や啓蒙にも力を入れている。ウェブサイトではできるだけ簡単な言葉で説明したり、専門用語を解説したりしている。英国政府が発表した直近の電気・ガスのCO2排出係数や、家庭からのCO2発生量などもより丁寧に記載している。
参考までに、英国の2019年の値はそれぞれ、1家庭あたりのCO2排出量が約3.4トン、電気のCO2排出係数が0.256kg-CO2/kWh、ガスが0.184kg-CO2/kWhであった。
Bulb Energyは、英国の他、フランスとスペインでも再生可能エネルギー100%の電力を販売している。
2020年9月には、Bulb Energyはアメリカのテキサス州で電力供給を開始した。テキサス州は風力発電量が米国内でトップクラス。太陽光発電のポテンシャルも高いといわれているが、州全体の電源構成では、再生可能エネルギーの割合は24%にとどまっている。
同社は、テキサス州内で調達した再エネ100%電力を供給し、平均的な月額電気料金よりも約49ドル(約5,096円、1ドル104円換算)安くできるという。
Bulb Energyがテキサス州で調達した再生可能エネルギーは、すべて「Renewable Energy Credit (REC)証書」が付属されている。これは、発電された電気が再生可能エネルギーによると証明するもので、電気そのものとは切り離された商品だ。日本でいえば、再エネ指定の非化石証書のようなもの。
この証書をERCOT(Electric Reliability Council of Texas.:電力市場運営や系統運営、自由化監視などを行う機関)が認証することで、再エネ由来の電力と認められる。Bulb Energyは、こうした認証手続きを経て再エネ100%電力を供給している。
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