近年、世界的に拡大しているESG(環境・社会・企業統治)に関連する情報開示を促進する動きが活発になっている。ESG情報開示が不十分であれば投資家だけでなく取引先からも外されるリスクが高まってきており、企業は、株主を含めた広範なステークホルダーに向けて自社のESGへの取り組みに関する情報を発信している。
ESG投資が世界的に注目されたきっかけは、国連によって2006年に「責任投資原則(PRI)」が提唱されたことだ。機関投資家などは、投資する企業を分析する際に長期的な視点を持ち、ESGにまつわる側面を考慮して投資することを求められるようになった。そのため今まで表に出てこなかった非財務情報とされるESGを企業は積極的に開示することが求められている。
EUは罰則規定のある形で企業に「デューデリジェンス(Due Diligence)」を義務化する法案を年内にも出す計画だという。今年7月には強制労働に関する人権デューデリジェンスの指針を公表。また、欧州議会は森林破壊や大気汚染の防止など環境に関するデューデリジェンスも義務化するよう要請している。
「デューデリジェンス」とは、「投資先の価値やリスクを調査すること」であるが、「自社や取引先の企業において、どのような場所や分野で、どのような人権に関わるリスクが発生しているかを特定し、それに対処すること」を意味する「人権デューデリジェンス」の取り組みが広がっている。
人権デューデリジェンスの必要性は2011年に発足した「ビジネスと人権に関する指導原則」をきっかけに、欧州を中心に強く求められるようになった。企業の人権尊重責任の一部を義務的なものとする法整備の検討が加速している。
EUに拠点を持つ海外企業の一部も規制対象になる可能性があり、EU企業を取引先とする日本企業も対応を求められるとみられる。
人権侵害をめぐっては、アメリカも今年6月、太陽電池の原材料製造に関して、中国・新疆ウイグル自治区で強制労働が行われている疑いがあるとして、中国産原材料の禁輸措置に踏み切った。
日本においても、経済産業省が9月3日から10月14日まで、「日本企業のサプライチェーンにおける人権に関する取組状況のアンケート調査」を実施している。東証1部・2部に上場している企業2,700社及び調査が必要な業界の企業に送付。日本企業のビジネスと人権への取組状況に関する政府として初の調査となる。
英国やフランスは人権デューデリジェンスの規制を実施している。ドイツでも取引網の人権侵害と環境破壊のリスクを特定して対策をとり、定期的に報告するよう義務付けている。企業に人権デューデリジェンスを義務づける法整備が進む欧米と比べて、日本が周回遅れであることは否めない。
経団連の労働法制本部は「人権デューデリジェンスはあくまでツールにすぎない。マルチステークホルダーとの寛容な話し合いやコミュニケーションがあって初めてリスクが特定され、対応が可能となる。関係者が自由に話せる状況をつくり真の人権デューデリジェンスの実現、ひいては真のエンゲージメント向上を目指していくべきである」と述べている。
日本国内では企業に対してESGの情報開示は明確には義務付けられていないが、世界での開示の増加傾向を踏まえれば、非財務情報の開示に戦略的に取り組むことは、長期的な企業価値向上に繋がると期待されている。
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