ESG情報は既に非財務情報ではない UNEP-FI特別顧問 末吉竹二郎氏インタビュー | EnergyShift

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ESG情報は既に非財務情報ではない UNEP-FI特別顧問 末吉竹二郎氏インタビュー

ESG情報は既に非財務情報ではない UNEP-FI特別顧問 末吉竹二郎氏インタビュー

2020/10/06

金融業界がリードする、世界の気候危機対策

金融の役割は、社会にとって本当に必要なところにお金を流すこと。それによって、社会をより良いものに変えていくことだ。その判断に必要なのが、これまで非財務情報といわれていたものであり、今ではすでに重要な財務情報として世界では扱われている。こうした動きに対し、日本は5年遅れている、とUNEP-FI特別顧問で、CDP-Japan代表の末吉竹二郎氏は指摘する(全4回)。

第1回 社会変革の時代、金融機関に求められる気候変動対策とは

TCFDやBIS規制が求める情報開示とは

末吉竹二郎氏:確かに2019年6月のG20大阪サミットを控えて、日本がTCFDに賛同する数で世界一を目指していました。その流れで国内の賛同企業の数は急増し、世界のトップクラスになったのですが、TCFDが求めている気候リスクと機会の財務情報開示が一挙に進んでいるのかというと、賛同企業の数ほどではないような気がします。逆に、一種のブームに終わらないか心配しています。

―気候危機への対策など、あるいはSDGsそのものへの対応も含め、ESG投資が求めているのは非財務情報だったと思います。非財務情報の数値化は簡単なことではないと思います。

末吉氏:ちょっと遠回りですが、銀行にとって非財務情報の数値化が究極に目指すべきゴールであることから話しましょう。

スイスのバーゼルには、国際決済銀行(Bank for International Settlements : BIS)があります。各国の中央銀行のための銀行です。このBISを通じて世界の民間銀行のあり方を規制しています。これがBIS規制です。

数あるBIS規制の内、民間銀行にとって重要なのが自己資本の規制です。

銀行からの貸出の内、返済されない、いわゆる焦げ付く融資が一定割合あるとすれば、銀行は焦げ付く可能性のある貸出に対しては、何らかの形で補填する準備をしておく必要があります。そのひとつが自己資本です。

焦げ付きが出れば、最後は自己資本を削って損失を補填します。BIS規制では、世界の金融システムの安全や安定を確保するために、世界市場で業務を展開する大手銀行に、万一の損失にも耐えうるよう、十分な自己資本を持つことを求めています。これが自己資本規制です

ざっと言いますと、大手銀行には常に貸出資産の8%に相当する自己資本が求められています。換言すれば、自己資本の12.5倍までにしか貸出資産を持てないのです。100の自己資本で最大1,250まで貸し出せるという計算になります。

民間銀行にしてみれば、より多くの利益をあげるには、出来るだけたくさんの貸し出しをしたいはずですが、BIS規制の下ではむやみに貸出資産を増やさないよう抑制しているのです。貸出資産の大きさに制約があれば、銀行はどういう貸出資産を持つのが一番いいのかを考えます。

問題は、銀行が貸出資産の健全性を評価する際に、考慮すべき情報の中に、気候危機のリスクが財務情報のような形で入っていないということです。これでは、銀行が貸し出しを抑制する対象に気候リスクが組み込まれてはいないことになります。

つまり、金融機関の貸し出しを通じて気候危機を減らすことにはならないのです。これでは困りませんか。金融機関にとっての非財務情報の数値化、即ち、貸し出しの審査と貸出資産の評価に気候リスクが組み込まれていないのにはこんな問題が内包されているのです。

無論、BIS規制への気候リスクの取り込みにはまだまだ多くの議論が必要ですが、その一方で、気候リスクの定量化への取り組みはあちこちで始まっています。そのひとつがBank of America等の世界の有力銀行など60機関が参加するPartnership for Carbon Accounting Financialsといったグループの動きです。このグループは、炭素会計の世界標準作りに取り組んでいます。残念ながら日本からの参加はないようです。

これは念の為ですが、先程、非財務情報と言われましたが、世界では、もうその言い方はしていません。財務に関係ないと思われてきた要素が、実は、結果として財務の在り方に変化をもたらしていることが分かってきたからです。つまり、ESG要素は立派な財務情報になっているのです。

ESG要素は既に重要な財務情報だ

脱炭素社会において世界から5年遅れる日本

―日本はTCFDへのコミットメントは進んでいる一方で、実際の対応という点ではまだまだということでしょうか。

末吉氏:サスティナブルファイナンスという意味でも、世界は大きく変化しました。これに対して、海外の金融機関のコミットメントと日本のそれとを見比べますと、まだまだ彼我の差を感じます。少なくとも5年から10年は遅れているのではないでしょうか。これは金融だけではないのですが、日本という国は、問題解決に当たって先に変わろうとせず、海外がやっていることを追随しているだけのような気がします。

例えば石炭火力発電に対する投融資ですが、みずほ銀行は「原則として新規は行わない、既存貸出を2050年までには解消する」と発表しました。後に株主総会で株主提案などがあることを踏まえ、2040年に前倒ししました。このこと自体は日本の中では大変勇気のある行動だと評価します。

一方、海外では、JPモルガン・チェースでは、(石炭火力発電の建設は)新規はノーですが、既存のものも2030年頃までに前倒しで引き揚げるとしています。BNPパリバは、EU域内及びOECD諸国では2030年までに、その他の地域も2040年までに(石炭火力から)手を引くとしています。

単純比較ですが、この10年の差はどこから来るのでしょうか。

無論、国の政策の差があります。日本はいつまでも石炭火力を残すのが方針の国です。将来の完全廃止が流れとなっている欧州では金融機関も決断しやすいのかもしれません。

とは言え、いち金融機関として考えれば、やがて間違いなくやってくる石炭火力向け貸出資産の座礁資産化への対応は当然考えるべきです。それが、預金者と株主への責任です。

更には、これが最も大事な点ですが、世界を舞台とする大金融機関としてパリ協定が求めるゼロエミッションへ、持つべきコミットメントの在り方が問われていることをもっと考えるべきではないしょうか。

欧州では、フランスで2022年、英国で2025年、ドイツで2038年までに石炭火力が全廃されます。ドイツの場合はさらに前倒しされる可能性が高いといいます。世界全体で見たときに、2040年まで石炭火力が運営できる状況なのでしょうか。

日本政府は2030年の電源構成の26%を石炭火力だとしています。一体、何を基準にして考えているのか。石炭火力は早期に閉鎖に追い込まれるというのが、気候危機への世界の潮流なのに、なぜ石炭を焚き続けるというのでしょうか。石炭よりもうんと安くて安全な自然エネルギーがふんだんに手に入る時代なのに、です。

―日本は銀行も政府も産業界も、いずれも遅れているということですね。

末吉氏:日本の有力銀行は世界を相手にビジネスを展開しています。大事な判断を国内事情だけでするのはもう許されない時代なのです。とすれば、世界の情勢を考えるのは当然です。

海外勢を中心に、ダイベストメント、即ち、座礁資産から手を引く流れは、CO2排出削減を進める上での有力な金融手段です。その裏にあるのは、座礁資産化の恐れのある投融資先からは早く手を引くのが勝ちだという自己防衛でもあります。

言い換えれば、座礁資産の押し付け競争が始まっているともいえます。これほど社会からの圧力がある石炭火力に投融資していたら、将来、株主代表訴訟になる可能性を心配するのは僕の心配のし過ぎなのでしょうか。

日本の石炭火力発電にも金融機関の意思表明が必要か

(続く)

(Interview & Text:本橋恵一・山田亜紀子)

CDP-Japan末吉竹二郎氏インタビュー(全4回)

気候変動アクション日本サミット2020


2020年10月13日(火)
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末吉竹二郎
末吉竹二郎

東京大学を卒業後、1967年に三菱銀行(現 三菱UFJ銀行)に入行。1998年まで勤務した。 日興アセットマネジメントに勤務中、UNEP金融イニシアティブの運営委員メンバーに任命された。現在、アジア太平洋地区の特別顧問としてUNEP金融イニシアティブの活動を支援する傍ら政府や地方自治体の審議会委員などを務める。 この他、セミナーや講演会、大学での授業などを通じて環境問題や社会的責任(CSR)、社会的責任投資(SRI)についての講演等を行う。 主な著書に『ビジネスに役立つ!末吉竹二郎の地球温暖化講義』(東洋経済新聞社)、『有害連鎖』(幻冬舎)、『最新CSR事情』(北星堂書店)、『グリーン経済最前線』(岩波新書、共著)がある。

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