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問いも答えも、もう揃っている IPCCレポートWG3が求めるもの

問いも答えも、もう揃っている IPCCレポートWG3が求めるもの

2022年04月20日

IPCCの第6次報告書、WG3の報告書が公開された。この報告書には、(今までとおなじように)この先社会がどう変わらなければいけないか、が繰り返し書かれている。それは書く必要があるからだ。

3,000ページの報告書がいっていることは今までと同じ。ただし、より厳しい

何を懐疑的になっているのだろうか。どうしてまだ、できない理由を探しているのだろうか。人の行動を動かすには、しぶとく、何度も繰り返して言い続けるしかないとしても、この停滞はひどすぎるのではないか、と最近考える。一方、科学者にはほんとうに頭が下がる。IPCC(気候変動に関する政府間パネル)に参加している科学者には、特に。

4月4日、IPCCの第6次報告書の第3作業部会のレポートが公開された。これは昨年から順次公開されていた第6次報告書の最終、第3パートに当たる。

第1作業部会は気候変動の科学的根拠、第2作業部会は気候変動による社会への影響、適応、脆弱について。

そしてこの第3作業部会は、じゃあ世界はどうすればいいのか、という緩和策がまとめられている。ざっくりいうと、第1が科学的根拠、第2が科学的な社会リスク、第3がリスク対策。

レポートは膨大だ。194の政府代表者と、278人の著者が関わり、フルレポートの総ページ数は3,000ページ近くある。日本でも様々なメディアが取り上げ、海外でもFinancial Timesからローリングストーン誌までがとりあげた。

そして得られた結論は? 同じだ。今までと、同じ。同じことを繰り返し、言っている。多少は違う言い方で。少し、厳しい言い方で。

曰く、温室効果ガスが減らない限り、世界は住みにくくなる地域が増えるだけでなく、経済にも大きな悪影響を与えること。地球温暖化は2℃目標ではなく、1.5℃にしなければよりリスクがあがり、災害は増えること。

それを食い止める為には? 化石燃料を使用しないこと。車をEVにすること。電力を再エネ中心にすること。再エネ中心にできるよう、電力供給システムを変えること。

もう何年も、何十年も同じことを言っているのだ。

もちろん、研究が進むことで数字はより明らかになり、具体性が増してくる。あいまいなところはなくなり、間違った解釈はただされる。そして、温暖化のリスク回避はさらに難しくなっていることが、より明確になる。

報告書の共同議長であるジム・スキー教授はこういう。「いま行動しなければ、達成はできない。もし私たちが、温暖化を1.5℃に抑えたいのならば(It’s now or never, if we want to limit global warming to 1.5C)」。

報告書のハイライトはより厳しい。

  • 2025年までに温室効果ガスの排出量をピークアウトさせなければ、目標は達成できない。(残りは後3年!)
  • 各国のNDC(国が決定する貢献)が達成されても、世界の気温は今世紀中に3.2℃上昇する。
  • 2050年にネットゼロにできれば、1.5℃に抑える可能性がようやく50%になる。
  • 2℃以下に押さえる場合でも、2070年までにネットゼロにしなければならない。
  • 世界の石炭使用は、2050年までに95%削減しなければならない。

しかし、みんなこう思うのではないだろうか。「そんなことはわかってるよ!」「耳タコだ」それはそうだろう。同じことを、粘り強く、繰り返し言っているだけだからだ。しかも、より厳しく。

実現性の問題:削減量をコストからみる

今回の報告書(政策決定者向け要約)で、重要なグラフが政策決定者向けサマリーの中にある。排出量を下げることのできるオプションが数十並び、それらのコスト・経済性をマッピングしたものだ。

Overview of mitigation options and their estimated ranges of costs and potentials in 2030.
出典:IPCC

それによると、現在、コストが低く(グラフの青い部分はコストがマイナスになる)、この先、のびしろがあるものは太陽光発電、次が風力発電だ。世界的にみると、この10年のコストは太陽光は約85%、風力発電は55%も下落している。不確実性を考慮すると、森林の回復も効果が高いが、現在のコストはまだ高い(グラフの赤い部分)。

注目すべきは太陽光と風力の部分だけではない。例えば、原子力発電はコストは高く、伸び代も少ない(注釈によれば、原子力発電のコスト計算には放射性廃棄物の長期保管の為のコストが含まれている)。

CCS(炭素回収)はどうだろう。CCS/CCUSは今回の報告書では「オプション」ではなく、なんらかの炭素除去は「マスト」になるとしている。しかし、2030年までのこのグラフを見る限り、コストは高く、伸び代も少ない。CCSには現在、多くの投資が集まる状況になっており、Bloombergによると4年間で4億ドルのグローバル投資実績があったが、2022年は4ヶ月だけで8億ドル(約100億円)の投資があるという。

では、太陽光と風力に注力すればいいのかというと、それだけではない。グラフの薄いオレンジ(1トン削減するのに20ドル以下)か、青い部分(1トン削減するのにゼロ以下)であるものを、すべて行わなければ、目標達成は難しいだろう。運輸部門、建物のエネルギー効率の向上。これも、今まで繰り返し言われていたことばかりだが。

IPCC報告書に(まだ)書かれていないこと・・・次ページ

小森岳史
小森岳史

EnergyShift編集部 気候変動、環境活動、サステナビリティ、科学技術等を担当。

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