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問いも答えも、もう揃っている IPCCレポートWG3が求めるもの

2022年04月20日

IPCC報告書に(まだ)書かれていないこと

IPCC報告書に書かれていないことも当然ある。その最たるものが、ロシアのウクライナ侵攻による世界への影響だろう。書かれていない「ウラジミール・プーチン」の名は、もはやロシアからのエネルギー資源問題だけではなく、国連人権理事会からのロシアの理事国停止にまで及んでいる。ことは天然ガスのパイプラインの問題だけではなくなりつつある。

IEAのFatih Birol事務局長は3月23日の閣僚理事会で「エネルギー安全保障の問題は、(クリーンエネルギーにとって)ブレーキになるのではなく、その移行を加速させるものです。これが世界のロシアへの対応となります」と述べた。

このロシアのウクライナ侵攻の影響は、おそらく今年9月に発行予定のIPCC統合報告書には、なんらかの記載はされるのではないだろうか。

メディアの役割はより重要になってくる。この報告書は4月4日に公開されたが、翌日のメディアに(決して多いとは言えない量が)載っただけだった。一週間前におきたウィル・スミスの平手打ちとは比較にならない量だ。

この報告書はもう耳タコだから、報道のバリューは下がっている? そんなことはまったくない。この報告書は(この報告書に書かれている通り)まだなにも社会を大きく動かしていない。同じことばかり言われて、「してはいけない」「しなくてはいけない」といわれ続け、説教のように感じているのだろうか。温室効果ガスの影響の「やばさ」は、結局うまく伝わっていない。

しかし、この報告書にある通りなら、ほんとうに「今すぐ行動を」起こさなければならないのなら、メディアの役割は、これまで以上に、非常に重要になってくるはずだ。

IPCC報告書は見取り図であり、コモン・センスになりうる

今回の報告書を含むIPCC報告書は、現代の見取り図の、最良のものであることは間違いがない。現実の問題は何か、その解決策は何か、そのどちらもが書かれている。問題が複雑で多岐にわたる為、もちろん量が膨大になるのは避けられないが、問題の全体をカバーしようとしていることは間違いない。

ここが立脚点であり、ここから個々の問題へはいっていく。そうした個々の問題にも、解決への道筋は書かれている。あとは各国の政策決定者への提言という形でゆだねるにしても。

このサイトでも扱っている、例えば建築におけるエネルギー効率の向上はなぜ必要なのか。EVのバッテリーリサイクルはなぜ必要なのか。電力需給システムの変更はなぜ必要なのか。

電力供給システムを例にとるまでもなく、個別の問題だけでも重大な為、ときどき疑問に思ったり、議論が停滞したり、懐疑的になるときがあるのは十分理解できる。「なぜ送電網の増強がこんなに急務なの?」「直接CO2を除去できる装置を作れば解決するんじゃないの?」「多少気温が上がっても、大丈夫じゃない?」「グローバルサウスって何?」などなど・・。

そうしたときはIPCCの報告書で、その問題がなぜ問題なのかを知ることができる。どこの話をしているのかがわかる格好の見取り図だからだ。さらに言えば、これは新しいコモン・センス(常識)でもある。

アメリカ独立に影響を与えた文書としての「コモン・センス」には、この問題(アメリカの独立)は主義主張に関係ないと書かれている。「誰もが関心を持たずにはいられない。(略)党派的立場は関係ない」(トマス・ペイン『コモン・センス』より)。(そういえば、今回の一連の報告書を読んで、革新と伝統保守の奇妙な逆転が起こりつつあることを感じた。伝統的な生活を保つ為には大きな転換が必要になっているのではないか。これはまた別の話)

2022年9月にはこれら3つの統合報告書が改めて公開される。そこにはまた、同じことが粘り強く書かれているだろう。しかし、これは粘り強く何度も言わなければならない。

気候科学者のアンドリュー・デスラー氏は「気候変動は科学的、または技術的な問題ではなく、政治的な問題です」という。問いだけでなく、解決策も書かれているこの第3作業部会を、「政策決定者」はどのように受け止めるのだろうか。

IPCC報告書は基本的に7年スパンで公開の予定で、第7次報告書は2029年になる。もう後戻りできない世界になっているのだろうか。「まだ大丈夫」といえるのだろうか。

 

参照
経済産業省 AR6 WG3報告書 政策決定者向け要約
アジア太平洋統合評価モデル(AIM) IPCC 第6次報告書 第3作業部会 政策決定者向け要約 解説資料
Bloomberg Carbon Removal’s Hard Problems Require Hard Tech Fixes

小森岳史
小森岳史

EnergyShift編集部 気候変動、環境活動、サステナビリティ、科学技術等を担当。

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