国連の世界気象機関(WMO)は、2022年3月23日(世界気象の日)、洪水や干ばつ、熱波、暴風雨などの危険な気象状況が近づいていることを人々に知らせる「早期警報システム」の5年以内の整備を推進すること、およびその根拠となる報告書を発表した。
日本では気象庁が気象災害に対してさまざまな警報を発令しているが、こうしたシステムを全世界に拡大し、気候変動に対する適応を進めていくということだ。
気候変動問題は現在、すべての地域に損害を与えている。日本においては台風の大型化をはじめ、極端な降雨などによる災害が発生しているが、海外においても干ばつによる山火事や大雨による洪水などさまざまな気象災害が発生している。
先進国ではこうした気象災害に対する警告を発するシステムがあるが、開発途上国などに住む世界人口の3分の1に対してはこうしたシステムが提供されていない。とりわけアフリカ諸国では60%の人々がカバーされていないという状況だ。
こうしたことから、国連は、すべての人々に対し、5年以内に気象災害に対する早期警報システムを提供することを主導していくということだ。
2021年のWMOの災害報告によると、過去50年間で、気象関連の災害は平均して毎日発生し、115名が命を落としており、1日あたりの損失は2億200万ドル(約250億円)になるという。さらに、極端な気象災害はこの50年間で5倍に増加しているということだ。それでも、早期警告システムが導入された地域では、死者の数は3分の1に減少したという。
WMOの事務局長であるペテリ・ターラス氏は「気候変動による災害の増加は、多数の持続可能な開発目標の実施を危険にさらしています。緩和(温室効果ガスの削減)に加えて、気候変動に対する適応に投資することがますます重要になっています。気象、水、気候の早期警告サービス、および関連する監視インフラを改善することで、投資の利益は最大化します。特に後発開発途上国や小島しょ国において、サービスおよび関連インフラを整備するためには、今後5年間で15億ドルを投資する必要があります」と述べている。これは、わずか1週間の気象災害による損失と同じ規模だ。
また、報告書では気象災害を24時間前に警告することで被害を30%削減でき、途上国でシステム構築に8億ドルを投資することで年間30~160億ドルの損失が回避できるとしている。
導入が進められるシステムは、危険な気象状況が近づいていることを人々に知らせ、政府やコミュニティ、人々への影響を最小限にするためにどのように行動すればいいのかを知らせる統合システムだという。
システムでは、陸と海の大気の状態をリアルタイムで監視し、コンピュータ数値モデルを使用して気象災害などを効果的に予測する。具体的には、例えば暴風雨による影響がどのようなリスクをもたらすのかを示すといったものだ。また、気象災害を最小限にするための、事前の対応計画なども含まれる。
2022年秋には、エジプトでCOP27(気候変動枠組み条約第27回締約国会議)が開催されるが、この会議での重要なテーマの1つが、途上国が気候変動に適応するための資金の確保だと見られている。エジプト政府は適応資金を2倍にするという先進国のコミットメントの継続をよびかけている。また、国連事務総長のアントニオ・グテーレス氏はWMOの総会のビデオメッセージで、「私は世界気象機関にこの取り組みを主導し、今年後半にエジプトで開催される次の国連気候変動会議で行動計画を提示するよう要請しました」と述べている。
気象災害の早期警告システムは、適応のためのインフラ整備として、効果的なものの1つだとも考えられることから、資金確保の材料ともなりそうだ。
出典:WMO
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