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時代を変える日本発の技術 世界最高効率のフィルム状太陽電池

2021年09月27日

東芝はどんなブレークスルーを起こしたのか

元々、東芝が採用してきたペロブスカイト層の成膜法は、2ステッププロセスと呼ばれる手法で、基板上にPbI2を塗って膜を形成、その上に、MAIインクというものを塗布することでMAPbI3膜というのを成膜するという工法を取っていた。

ただ、この手法では、①PbI2とMAIの反応を制御することが難しく未反応物が残る、②工程数が多い、③塗布速度が低速である、などの欠点があり、より量産に適した手法が求められていた。

そこで、東芝は予めMAIとPbI2を混合したMAPbI3インクを塗布して成膜し、1ステップにすればいいのではないか、と試してみるものの、このプロセスだと、MAPbI3結晶の成長を制御することが難しく、特に大面積に均一に塗布するのが困難という欠点があり、新たな塗布法の開発が必要となっていた。

今回、どんなブレークスルーが起きたのか。塗布法、つまり塗り方のイノベーションが起きた。

その手法が1ステップメニスカス塗布法。

この手法の下、新たにMAPbI3インク、乾燥プロセス、装置の開発を行うことで、大面積を均一に塗布することに東芝は成功した。

その結果、成膜プロセスの工程が従来の半分となり、さらに、塗布速度の高速化が可能になる。塗布速度においては、5cm角で量産時に必要と想定するスペックを満たす速度6m/分を達成。また、均一に塗布することが可能となり、これによってフィルム型ペロブスカイト太陽電池として、世界最大面積である703cm2のモジュールで世界最高エネルギー変換効率15.1%を達成するに至った。

このメニスカス塗布法によって、エネルギー変換効率の向上だけでなく、生産プロセスの高速化の両立が可能となり、日本が、いや世界が待ちわびている高効率かつ低コストなフィルム型ペロブスカイト太陽電池の実用化に向けて大きく前進した。

ちなみに、耐用年数は10年とされているのだが、東芝は15年に伸ばすことを目指しており、また変換効率も18%まで引き上げることをにらんでおり、それらを達成しながら、2025年にはこのペロブスカイト太陽電池を量産していく考えとのこと。

元々、低コストな太陽電池という特性もあり、本当に日本の脱炭素の救世主になるかもしれない。

それでは次に、これが社会実装されると何が凄いのかを解説したい。

ペロブスカイト太陽電池が社会実装されると何が凄いのか・・・次ページへ

前田雄大
前田雄大

YouTubeチャンネルはこちら→ https://www.youtube.com/channel/UCpRy1jSzRpfPuW3-50SxQIg 講演・出演依頼はこちら→ https://energy-shift.com/contact 2007年外務省入省。入省後、開発協力、原子力、官房業務等を経験した後、2017年から2019年までの間に気候変動を担当し、G20大阪サミットにおける気候変動部分の首脳宣言の起草、各国調整を担い、宣言の採択に大きく貢献。また、パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略をはじめとする各種国家戦略の調整も担当。 こうした外交の現場を通じ、国際的な気候変動・エネルギーに関するダイナミズムを実感するとともに、日本がその潮流に置いていかれるのではないかとの危機感から、自らの手で日本のエネルギーシフトを実現すべく、afterFIT社へ入社。また、日本経済研究センターと日本経済新聞社が共同で立ち上げた中堅・若手世代による政策提言機関である富士山会合ヤング・フォーラムのフェローとしても現在活動中。 プライベートでは、アメリカ留学時代にはアメリカを深く知るべく米国50州すべてを踏破する行動派。座右の銘は「おもしろくこともなき世をおもしろく」。週末は群馬県の自宅(ルーフトップはもちろん太陽光)で有機栽培に勤しんでいる自然派でもある。学生時代は東京大学warriorsのディフェンスラインマンとして甲子園ボウル出場を目指して日々邁進。その時は夢叶わずも、いまは、afterFITから日本社会を下支えるべく邁進し、今度こそ渾身のタッチダウンを決めると意気込んでいる。

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