何がすごいのか、まず、フィルムなので、成形にかなり自由が利く。これまでのように、パネルを並べる、置くのではなく、フィルムを「貼っていく」世界になる。
極端な話、加工技術も進展すれば、どこでも貼れてしまうという世界になるわけだ。そして貼ったところはどこでも発電をする、という格好になる。
しかも、フィルムのため「軽量」なわけだ。薄くても発電するのがペロブスカイトの最大の強み。
つまり、いま、屋根上の太陽光が、46%温室効果ガス排出削減の文脈でも再注目されているわけだが、その時に問題となるのが建物の耐荷重の問題だ。この問題もクリアできる。古い家屋で、太陽光を載せるのを断念した住宅でも、ペロブスカイトなら導入できる。
もちろん、壁や窓にもシースルーのような形で設置できる。東京の高層ビルたちも、それ自体が発電所になる、そういう世界観に極端に言えばなってくる。
東芝はこのペロブスカイトを用いて、都市のあらゆるところで活用して、町自体をミニ発電所にしてしまおう、と考えているようだ。
出典:東芝
もちろん、進めていくと新たな課題は出てくるだろうが、達成した後には、日本のエネルギー自立、コスト低下、脱炭素が見えてくる。
ここまで夢のある話題を紹介してきたが、ペロブスカイトには大きな落とし穴がひとつある。最後に、この件に関する日本の相当なミスについて解説する。
ペロブスカイトの技術は非常に可能性があり、かつ、日本発の技術として、世界覇権を! と期待する人も多いだろう。
ところが、この技術、日本向けには特許はとっているものの、国際特許を取得していない、という。
その理由が、申請や審査、登録などの手続きに1ヶ国、1地域につき数百万円以上の費用がかかるため、宮坂教授が「ここまですごい技術になると思わず」申請をしなかった。これが事の顛末だ。
そのため、この技術や知識が海外にどんどん事実上流出している。国際特許を取得していないので、ペロブスカイトの原理に関して、海外企業は特許使用料を払う必要もなければ、また、脱炭素にはお金もついて回るので、資金調達もどんどんおこなわれ、実用化を進められてしまう格好になっている。報道によれば、特に中国は研究開発を進めており、要注意だ。
もちろん、この手の新たな技術は多数あり、政府がしっかりサポートできないというのが実態だろう。ただ、脱炭素が来ると思って、ちゃんとアンテナを張っていれば、この研究に支援をし、研究開発を促進しながら、特許についての費用捻出を側面支援するなど出来たのではないか。もちろんタラレバだが、政府は国際特許の取得支援や技術流出の防止などを支援する制度の整備を進めているという。第二、第三のペロブスカイトのような展開はぜひ阻止してもらいたい。
ただ、これだけ世の中を変えうるテクノロジーが、なぜなんだ、と非常に残念な状況だ。実際、中国だけでなく、欧州でもペロブスカイト量産というニュースが出ている。
とはいえ、東芝の今回のイノベーションはもちろん、特許は取得するだろう。東芝には、他国ぶっちぎりの結果を出したメニスカス塗布法を極め、世界の太陽電池シェアの奪還を目指して、頑張ってもらいたい。
今回はこの一言でまとめたい。
『東芝が開発したペロブスカイト太陽電池がまじですごい』
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