2020年12月10日、日本、韓国、台湾におけるカナダ大使館主催による、EVサプライチェーンをテーマとしたウェビナーが開催された。カナダは蓄電池の製造に必要な希少金属資源から、水力など豊富な再生可能エネルギー、米国自動車工場に近いなど、EV製造のサプライチェーンに優位性があるという。
カナダ政府は、2040年までに販売される新車の100%をEVやFCV(燃料電池自動車)などゼロエミッション車にすることを目標としている。
カナダにはBallard Power Systems社など歴史ある燃料電池メーカーがあるが、EVに使われる蓄電池についても、サプライチェーンにおいて優位性がある。これらを背景に、カナダ政府は2020年、EVの購入や充電ステーション網の構築などへの補助に加え、ゼロエミッション製品をカナダ国内で製造する企業の法人税率を半減するファンドを立ち上げた。特に蓄電池の製造については、鉱物資源を有することから、サプライチェーンに優位性があるという。
今回のウェビナーはカナダ大使館主催で、日本、韓国、台湾を対象とした、カナダのEVサプライチェーン参入と投資のために行われた。
ウェビナーの登壇者は、ケベック州とオンタリオ州の企業や業界団体、大学関係者が行った。
最初に講演を行ったElectrovaya社CEOのSankar das Gupta氏は、カナダにおける蓄電池産業のエコシステムを紹介した(図1)。
図1 カナダにおける蓄電池産業のエコシステム
出典:カナダ天然資源省
カナダには、蓄電池に必要なコバルトやリチウムなどの鉱山があり、精錬、使用済み蓄電池のリサイクル、蓄電池の製造、そして自動車の部品工場などがそろっており、サプライチェーンに強みがあるという。また、カナダ政府のフラッグシッププロジェクトとして、戦略的イノベーションファンドとして20億ドルを積み上げているなど、政府の支援もあるということだ。
こうした優位性があることから、日韓台にもエコシステムへの参加をよびかけたということだ。
次の登壇者として、Investissement Québec International社のKarim Zaghib氏は、希少金属の鉱山を中心とした内容の講演を行った。
コバルトなど、蓄電池の製造に必要な希少な金属の採掘においては、とりわけ途上国での自然環境や生活環境の破壊が問題となっている。こうした中にあって、先進国であるカナダの鉱山は、環境に配慮した採掘を行っており、SDGsへの対応という面からも、安心して利用できる資源となっている。
また、蓄電池のマテリアルリサイクルの体制も整っているということだ。
こうしたことに加えて、製造でも水力発電の電気を使うことができるというのも、ライフサイクルにおけるCO2排出削減に資する魅力があるという。
Plug’n DriveのCEO、Cara Clairman氏は、EVを人々に啓蒙していく取り組みを紹介した。
カナダにおいては、産業、ビルと並んで運輸部門はCO2の大量排出源となっている。しかし、電源においては、水力発電をはじめとする再生可能エネルギーと原子力発電があり、CO2排出原単位が少なく、EVを利用するメリットは大きいという(図2)。
図2 カナダにおけるEV利用のメリット
出典:Plug'n Drive、Electric Vehicle Benefits
Plug’n DriveはNPOで、人々にEVを選んでもらえるように、トロントでElectric Vehicle Discovery Centreを運営している。ここでは、試乗や展示施設、電力会社であるハイドロケベック社による充電設備などが設置されている。また、BMWやフォード、三菱自動車工業、日産自動車、フォルクスワーゲンなどがスポンサーとなっている。
EVの燃料代はガソリンの6分の1で、1日あたりの走行距離なら1週間に1度の充電ですむ。EVが高いというイメージがあるが、維持費は低いということだ。
また、EVの電気を建物や送電網に供給する、いわゆるV2X(Vehicle to X)の実証も行われている。
トロント大学のCristina Amon氏は、大学内におけるイノベーションのエコシステムを紹介した(図3)。Amon氏によると、トロント大学はこの分野のイノベーションでトップの研究教育機関だという。蓄電池を中心に、EVや再生可能エネルギー、マイクログリッドなどの研究が行われている。富士通など日本企業もパートナーとして参加しているということだ。
図3 トロント大学におけるイノベーション・エコシステム
出典:トロント大学
同じくトロント大学のCarlos Da Silva氏からは、バッテリーを中心とした6つの研究の柱があることが紹介された。
その6つとは下記のようになる。
日本をはじめ、世界各地で脱ガソリン車という動きが起こっている中で、資源国であり技術の蓄積もあるカナダへの事業誘致・投資促進をねらったウェビナーは、タイムリーな内容だったといえるだろう。
(Text:本橋恵一)
エネルギーの最新記事