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2019年、スコットランド北部の大手電力会社SSEを買収したOVO Energy。買収で500万件の顧客を獲得し、一気にイギリスのシェア第2位の電力会社に駆け上がった、イギリスで最も勢いのある新興電力会社だ。電力メニューはすべて再エネ100%で、EVや蓄電池の関連サービスなど多角的にビジネスを展開している。
「OVO」とは、ラテン語で「新たなスタート」の意味。ウェブサイトには大きく「二酸化炭素排出量の削減は自宅から始まります(Cutting your carbon footprint starts at home)」という言葉が最初に飛び込んでくる。この言葉通り、2009年の設立以降、100%再生可能エネルギー由来の電気を販売している。
それだけではなく、契約した顧客と同じ数の植樹を毎年行っている。英国の家庭からのCO2排出量は、全体の26%を占める。OVO Energyの考え方は、家庭によるCO2排出量を削減できれば、気候危機に対して大きな改善ができるというものだ。そして、ユーザーに対して自分たち(OVO)は、カーボンゼロに向けたジャーニーのための、エネルギーサプライヤーだと定義している。
OVO Energy Website
OVO Energyのグループ会社OVOは創業10年目の2019年、ネット・ゼロカーボンによる事業運営を2030年までに実現する「Plan Zero」を発表した。IPCCの1.5℃報告書を受けて決定されたこの施策では、ネット・ゼロは気候危機に対するOVO Energyの責任である、とされ、「POWER」と「PEOPLE」を柱にネット・ゼロを目指すと宣言されている。
Plan Zero「PEOPLE」のターゲット
この『Plan Zero』で対象となっているのは、自社の事業から排出されるCO2全てにおよぶ。車両をはじめ、バリューチェーン全体にまで及ぶのだ。例えば、2025年には全車両をEVにするという。業務に使用する物品についても同様にネット・ゼロにする。Science Based Targetsに基づいた検証も行い、公表する。
ユーザーが暖房や給湯に使うガスについても、電化を進めることでCO2排出を削減していくという。すでに、ヒートポンプを使った暖房システムの実証試験も行っている。
Plan Zero「POWER」のターゲット
2019年9月、OVO Energyが大手電力会社SSE(旧Scottish and Southern Energy)の家庭向けサービス部門を買収するというニュースが世間を賑わせた。SSEとは、スコットランド北部の旧公共電力会社(ex- Public Electricity Suppliers)。日本でいうと、新電力が旧一般電気事業者を買収したようなものだ。
英紙ガーディアンによると、この買収によってOVO Energyの電力シェアは英国第2位となり、顧客は150万件から500万件になった。買収額は5億ポンド(約700億円)だった。ちなみに、OVOの創設者Stephen Fitzpatrick氏の個人資産は6億ポンドを超えたという。
OVO Energyの家庭向け電力メニューは4種類。いずれも再生可能エネルギー100%だ。スマートメーターのない新規加入者のための最安メニューが「Better Smart Energy」。それから、価格上昇を抑えた1年契約の「Better Energy」と、2年契約で最も人気の「2 Year Fixed Energy」。この3メニューにはそれぞれ30ポンド(約4,200円)の解約金が発生する。そして4つ目が、市場価格によって連動する「Simpler Energy」だ。これは電気料金の削減メリットを保証しないかわりに、解約金はない。
OVO Energyもウェブサイトから簡単に見積がとれるので、筆者はまた実際に取得してみた。ベッドルームが2、3部屋という標準的な家庭を条件とした。「Better Energy 」と「2 Year Fixed Energy」はそれぞれ固定額の月額65ポンド(約9,100円)で、「Simpler Energy」は少し割高の月額68ポンド(約9,520円)。ちなみに、ランダムに選んだ住所にはすでにスマートメーターが設置されていたようで「Better Smart Energy」の見積は取得できなかった。
OVO Energyは、ガスも供給している。この場合「OVO beyond」というアップグレードプランがあり、毎月6ポンド(約840円)を追加で支払えば、ガスによるCO2排出量をオフセットできる。
OVO Energy料金(OVO Energy Websiteより)
電気自動車(EV)オーナーには、「EV Everywhere」という電力メニューがラインナップされている。もちろん再エネ100%で、2年間の固定料金制だ。電気代の安い夜間に優先的にEV充電を行う「Economy 7」というスマートメーターの設置が義務付けられる。先ほどと同じ条件で見積をしてみると、こちらも月額65ポンド(約9,100円)となった。
2019年2月、OVO Energyは少数株式の20%を三菱自動車のイギリス法人に売却し、資金調達を行っている。三菱自動車のイギリス法人は「The Colt Car Company」として知られており、プラグインハイブリッド車・アウトランダーPHEVを販売している。三菱自動車の調査によると、週の平均走行距離の半分が電気モードで運転されており、68%が少なくとも1日1回は充電しているという。両社は今後、こうしたデータに基づきEVに関するソリューションを提供していく構えだ(2019年2月に三菱商事と資本業務提携)。
OVO Energyは、家庭のエネルギーに関する総合的なソリューションを開発中だ。V2Gやゼロ・カーボン暖房、家庭向け蓄電池のトライアルに参加する世帯を募集してきた。V2Gは、すでに募集が終了しているが、継続して募集しているものもある。こうした一連の家庭用ソリューションの中心となるのが、子会社であるKaluzaによる制御プラットフォームだ。
ユーザーはKaluzaのアプリを通して、蓄電池やEVへの充電スケジュールや最小充電レベルの設定、課金の状況などを確認することができる。電力市場の価格が安い時間帯に充電すれば、電気料金を安くすることができる上、再生可能エネルギーの有効活用ともなる。
こうした取り組みに加え、2016年にはOVO財団を設立し、途上国への再生可能エネルギーの導入や、英国内での気候変動対策、教育などに、300万ポンド以上投資してきたという。
OVO Energyは電力会社というよりも、ユーザーのカーボンゼロの実現を提供する会社だ。そこには、高度なテクノロジーから、慈善活動まで、一連の価値が存在している。
参照
OVO Energy
OVO(グループ会社)
OVO Plan Zero
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