OVO Energy 大手電力を買収し、英シェア2位に。名実ともに新時代の幕開け | EnergyShift

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OVO Energy 大手電力を買収し、英シェア2位に。名実ともに新時代の幕開け

OVO Energy 大手電力を買収し、英シェア2位に。名実ともに新時代の幕開け

2020年12月14日

シリーズ "イケてる"英国の電力会社 その2

2019年、スコットランド北部の大手電力会社SSEを買収したOVO Energy。買収で500万件の顧客を獲得し、一気にイギリスのシェア第2位の電力会社に駆け上がった、イギリスで最も勢いのある新興電力会社だ。電力メニューはすべて再エネ100%で、EVや蓄電池の関連サービスなど多角的にビジネスを展開している。

家庭からのCO2排出にフォーカス

「OVO」とは、ラテン語で「新たなスタート」の意味。ウェブサイトには大きく「二酸化炭素排出量の削減は自宅から始まります(Cutting your carbon footprint starts at home)」という言葉が最初に飛び込んでくる。この言葉通り、2009年の設立以降、100%再生可能エネルギー由来の電気を販売している。

それだけではなく、契約した顧客と同じ数の植樹を毎年行っている。英国の家庭からのCO2排出量は、全体の26%を占める。OVO Energyの考え方は、家庭によるCO2排出量を削減できれば、気候危機に対して大きな改善ができるというものだ。そして、ユーザーに対して自分たち(OVO)は、カーボンゼロに向けたジャーニーのための、エネルギーサプライヤーだと定義している。


OVO Energy Website

自らの事業運営もネット・ゼロにする「Plan Zero」

OVO Energyのグループ会社OVOは創業10年目の2019年、ネット・ゼロカーボンによる事業運営を2030年までに実現する「Plan Zero」を発表した。IPCCの1.5℃報告書を受けて決定されたこの施策では、ネット・ゼロは気候危機に対するOVO Energyの責任である、とされ、「POWER」と「PEOPLE」を柱にネット・ゼロを目指すと宣言されている。


Plan Zero「PEOPLE」のターゲット

この『Plan Zero』で対象となっているのは、自社の事業から排出されるCO2全てにおよぶ。車両をはじめ、バリューチェーン全体にまで及ぶのだ。例えば、2025年には全車両をEVにするという。業務に使用する物品についても同様にネット・ゼロにする。Science Based Targetsに基づいた検証も行い、公表する。

ユーザーが暖房や給湯に使うガスについても、電化を進めることでCO2排出を削減していくという。すでに、ヒートポンプを使った暖房システムの実証試験も行っている。


Plan Zero「POWER」のターゲット

業界に激震走った大手電力の買収劇

2019年9月、OVO Energyが大手電力会社SSE(旧Scottish and Southern Energy)の家庭向けサービス部門を買収するというニュースが世間を賑わせた。SSEとは、スコットランド北部の旧公共電力会社(ex- Public Electricity Suppliers)。日本でいうと、新電力が旧一般電気事業者を買収したようなものだ。

英紙ガーディアンによると、この買収によってOVO Energyの電力シェアは英国第2位となり、顧客は150万件から500万件になった。買収額は5億ポンド(約700億円)だった。ちなみに、OVOの創設者Stephen Fitzpatrick氏の個人資産は6億ポンドを超えたという。

再エネ100%の電力4メニュー、その料金は?

OVO Energyの家庭向け電力メニューは4種類。いずれも再生可能エネルギー100%だ。スマートメーターのない新規加入者のための最安メニューが「Better Smart Energy」。それから、価格上昇を抑えた1年契約の「Better Energy」と、2年契約で最も人気の「2 Year Fixed Energy」。この3メニューにはそれぞれ30ポンド(約4,200円)の解約金が発生する。そして4つ目が、市場価格によって連動する「Simpler Energy」だ。これは電気料金の削減メリットを保証しないかわりに、解約金はない。

OVO Energyもウェブサイトから簡単に見積がとれるので、筆者はまた実際に取得してみた。ベッドルームが2、3部屋という標準的な家庭を条件とした。「Better Energy 」と「2 Year Fixed Energy」はそれぞれ固定額の月額65ポンド(約9,100円)で、「Simpler Energy」は少し割高の月額68ポンド(約9,520円)。ちなみに、ランダムに選んだ住所にはすでにスマートメーターが設置されていたようで「Better Smart Energy」の見積は取得できなかった。

OVO Energyは、ガスも供給している。この場合「OVO beyond」というアップグレードプランがあり、毎月6ポンド(約840円)を追加で支払えば、ガスによるCO2排出量をオフセットできる。


OVO Energy料金(OVO Energy Websiteより)

三菱自動車と提携、EV専用の電力メニューも

電気自動車(EV)オーナーには、「EV Everywhere」という電力メニューがラインナップされている。もちろん再エネ100%で、2年間の固定料金制だ。電気代の安い夜間に優先的にEV充電を行う「Economy 7」というスマートメーターの設置が義務付けられる。先ほどと同じ条件で見積をしてみると、こちらも月額65ポンド(約9,100円)となった。

2019年2月、OVO Energyは少数株式の20%を三菱自動車のイギリス法人に売却し、資金調達を行っている。三菱自動車のイギリス法人は「The Colt Car Company」として知られており、プラグインハイブリッド車・アウトランダーPHEVを販売している。三菱自動車の調査によると、週の平均走行距離の半分が電気モードで運転されており、68%が少なくとも1日1回は充電しているという。両社は今後、こうしたデータに基づきEVに関するソリューションを提供していく構えだ(2019年2月に三菱商事と資本業務提携)。

制御プラットフォーム:Kaluza

OVO Energyは、家庭のエネルギーに関する総合的なソリューションを開発中だ。V2Gやゼロ・カーボン暖房、家庭向け蓄電池のトライアルに参加する世帯を募集してきた。V2Gは、すでに募集が終了しているが、継続して募集しているものもある。こうした一連の家庭用ソリューションの中心となるのが、子会社であるKaluzaによる制御プラットフォームだ。

ユーザーはKaluzaのアプリを通して、蓄電池やEVへの充電スケジュールや最小充電レベルの設定、課金の状況などを確認することができる。電力市場の価格が安い時間帯に充電すれば、電気料金を安くすることができる上、再生可能エネルギーの有効活用ともなる。

電力会社というよりも、ユーザーのネット・ゼロを実現する会社

こうした取り組みに加え、2016年にはOVO財団を設立し、途上国への再生可能エネルギーの導入や、英国内での気候変動対策、教育などに、300万ポンド以上投資してきたという。

OVO Energyは電力会社というよりも、ユーザーのカーボンゼロの実現を提供する会社だ。そこには、高度なテクノロジーから、慈善活動まで、一連の価値が存在している。

参照
OVO Energy
OVO(グループ会社)
OVO Plan Zero


シリーズ "イケてる"英国の電力会社 バックナンバーはこちら→

山下幸恵
山下幸恵

大手電力グループにて大型変圧器・住宅電化機器の販売を経て、新電力でデマンドレスポンスやエネルギーソリューションに従事。自治体および大手商社と協力し、地域新電力の立ち上げを経験。 2019年より独立してoffice SOTOを設立。エネルギーに関する国内外のトピックスについて複数のメディアで執筆するほか、自治体に向けた電力調達のソリューションや企業のテクニカル・デューデリジェンス調査等を実施。また、気候変動や地球温暖化、省エネについてのセミナーも行っている。 office SOTO 代表 https://www.facebook.com/Office-SOTO-589944674824780

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