電力市場レポート第4回をお届けする。この連載では電力卸市場の価格変動を仔細に検証することで、各種制度や地域差、気候変動などが電力価格にどのような影響を与えているのかを分析する。そこからはエネルギー業界の最新の変化が見えるはずだ。
今回は7月、8月の東京および関西エリアにおける電力市場価格について。昨年は関西エリアで100円/kWhを超える日があるなど、猛暑の影響が市場価格にそのまま反映された。今年はどうだったのか。
2019年7月は平年より気温低め、8月は平年並み
まず、今年7~8月までの気温について。気象庁の発表によると、東京では7月前半に最高気温が30℃以上となる真夏日がなかった。これは33年振りのことだそうだ。
梅雨明けの時期は関東・甲信越地方、近畿地方ともに7月24日頃。関東・甲信越は例年より3日、近畿は例年より1週間ほど遅れた。その影響もあり、7月の平均気温も昨年2018年に比べると東京で4.2℃、大阪で3.0℃低くなり、各地でも平年よりも低くなった。
8月に入ると気温は上昇した。お盆明けとなる18日までで、最高気温が35℃以上となる猛暑日が東京で10回、大阪で13回発生している。それ以降、猛暑日の発生はなかったが、月間平均気温は東京・大阪ともに2018年とほぼ同程度となり、平年に比べると1~2℃ほど高くなった。
東京エリアでは7月末から8月初旬にかけて価格が急騰
この気候概況を受けて、電力市場にどのような影響があったかをみてみよう。
東京エリアの今年7月~8月にかけての日毎の最高価格と最高気温の推移をご覧いただきたい。このグラフは7月から8月の土日を除外した。休日は市場価格が気温に関係なく低水準となるためだ。
グラフの通り、気温の低い日が継続した7月中は殆どの日で最高価格が10円/kWh程度に落ち着いていた。しかしながら、7月30日は30.39円/kWh、31日には51.67円/kWhと最高価格が上昇し、8月1日から9日までの殆どで60円/kWhとなった。
特に、7日と8日は1日48コマを通した平均価格が25円/kWhを超える高値の結果となった。
お盆は連続休暇となる事業所が多いことから、全国的に需要が低下するため市場価格は一旦抑制される。しかし、お盆明けの18日、19日には価格が再上昇し最高価格が40円/kWh付近で推移する結果となった。
関西エリアの最高価格は40円/kWh
次に西日本エリアを代表して関西エリアの価格である。
昨年はスポット市場で過去最高となる100.02円/kWhを記録したが、今年は昨年に比較して低価格となった。ただ、お盆期間中を除き概ね最高気温が35℃を超えるとスポット価格が急騰する傾向にあることがわかる。一方、最高気温が30℃程度ではスポット価格に大きな反応はないと言えそうだ。
過去は価格の動きがより不安定だった?
では、過去はどのような推移だったのか。比較のために振り返ってみたい。
下グラフは、2年前、2017年7~8月の日別の最高価格と最高気温を同様に並べたものである。東京エリアの最高気温は25~35℃で変化していた。この時の市場価格は、お盆の時期を除いて概ね20円/kWhとなっていた。原油価格の影響や電源の稼働状況等を加味しても高値水準と言える。
市場での取引量増加が、夏の市場価格に影響している
この背景には、市場での取引量がこの数年で大きく増加したことが影響していると考えられる。
以下のグラフは、2017~2019年の7月および8月の電力市場における約定量(実際に電力の売買が成立した量)である。僅か2年間で6倍近い増加、昨年と比べても2倍近い増加となっている。
市場に供出される電力量が増加するにつれて価格が安定方向に働いているということは、純粋な需給だけで決まる市場価格(均衡価格)に近づいていると言えそうだ。
需給のバランスのみによって価格が決まる、市場のあるべき姿に近づいている
こうした一連の動きに対しては各種の意見が存在するだろうし、筆者としても問題点が無いとは考えていない。
しかしながら、市場のあり方としては需給のバランスのみによって価格が決まる、市場のあるべき姿に近づいてきている。
したがって、今後は価格のスパイクによるリスクを軽減するのかが事業者の手腕が問われるところだと思う。折しも8月からベースロード市場が開始した。また、今月9月より電力先物市場が試験上場する。各事業者の価格の読みが厳しく問われることになるだろう。