世界は脱炭素化社会に向けて確実に動き出している。ヨーロッパでは欧州委員会が2035年までの車からのCO2排出をゼロとする政策原案を発表するなど、輸送セクターの急進的な脱炭素化が進展している。中国も2035年をめどに、新車販売のすべてを環境対応車にする方向で検討中だ。こうした中、日本も昨年「2050年カーボンニュートラル」を宣言。こうなると、今からガソリン車を買ったら、手放す時に損をする!? でも、それって本当!? 今一度、事実を元に将来の中古車市場を探ってみよう。
電気自動車が増えてはいるものの、まだまだガソリン車が主流。しかし、2030年を迎えたら、急にガソリン車には乗れなくなってしまうのだろうか?
確かに「2050年カーボンニュートラル宣言」に伴い、経済産業省はグリーン戦略を策定した。その中では「遅くとも2030年代半ばまでに、乗用車新車販売で電動車100%を実現」という目標を掲げている。
これに呼応するように、東京都の小池知事も「都内で新車販売される乗用車を2030年までに非ガソリン車化」にすると議会で答弁。このニュースが流れた2020年末に「2030年代半ば、東京都なら2030年以降はもう電気自動車に乗るほかないのか?」と思った人も多いようだ。
しかし、上記の通り「新車販売」で100%であり、中古車について一切言及はない。期限の時点でガソリン車やディーゼル車に乗っていたら咎められるのかといえば、まだ何も決められていないのが現状だ。
また「電動車」には、ハイブリッドカー(HV)やプラグインハイブリッドカー(PHEV)といった「電気だけでなく、ガソリン(または軽油)も燃焼して動く車」も含まれている。小池都知事の言う「非ガソリン車」も、東京都の定めたゼロエミッション・ビークル(ZEV)を指している。これには、電気自動車や燃料電池車(FCV)のほかに、PHEVも含まれる。
つまりHVやPHEVがある以上、ガソリンスタンドは不可欠。だからガソリン車に乗っていても、「乗ってはいけない」と言われない限り給油できる=乗り続けることができるのだ。
さらに、上記はあくまで目標であり、まだ法律化もされていない。しかも昨年冬に電力の供給が逼迫し、節電要請が出されたほど日本の電力事情はまだ脆弱だ。加えて、再エネへシフトチェンジしていくことも踏まえると、どう賄うのか?がより大きな課題となるだろう。
つまり現時点では「2030年代半ば、または2030年以降もガソリン車に乗り続けることができる」と考えられるのだ。
さて、その上で今からガソリン車を購入する場合について考えてみましょう。
目標通り、政府案なら2035年前後から、東京都なら2030年以降は新車の100%が電動車になるとしても、その期限まではあと9年以上あります。
9年もあれば、たいていの人はもう一台くらい十分乗り続けられるのではないでしょうか。新車から何年間乗り続けるかを示す、平均車齢(軽自動車を除く)は2020年3月末時点で8.72年。10年前と比べて1.16年延びていますが、それでも東京都の期限内です。多くの人は「9年もあるなら今から新車を購入して、4回目の車検の前に手放せばいいか」となるのではないでしょうか。
●新車は何年で乗り換えられているか?
※出典:主な車種の平均車齢推移(一般社団法人自動車検査登録情報協会調べ)より
「でも、9年後のガソリン車の買取価格はあまり期待できないのではないか?」と思う人もいるだろう。確かに9年後に政府や東京都案のように電動化が順調に進んでいれば、ガソリン車の買取価格は下がることが予測される。しかし現時点でも9年間も乗った車の多くは、手放す際にあまり買取価格は期待できない。
例えば9年前に約1,000万円で販売されていたメルセデス・ベンツSクラスが、今いくらで買い取ってもらえるのか。走行距離にもよるが、中古車の販売価格から推測すると、買取価格はだいたい100万円前後だと思われる。同じように500万円で買った9年前のメルセデス・ベンツCクラスなら、現時点で30万円前後だ。
では今から5年乗って手放すとしたら? この場合も今の相場より少し買取価格が下がる懸念はありそうだ。定価のある新車と違い、中古車は人気次第で価格が上下する。5年後にガソリン車の中古車を買いたい人が減れば、買取価格が下がる可能性は十分ある。
とはいえ「世の中が目標通り電動車社会に向かって一気に進んでいれば」という前提だ。目標はまだブレる可能性があるので、必ず5年後は通常より下がるとまでは言い切れない。
一方で「もう買えなくなってしまう」と思われるようなガソリン車、例えばフェラーリやポルシェといったスポーツカーのガソリン車などは、逆に人気が出て、買取価格が高くなる可能性もある。
現在でもこうしたスポーツカーの中古車は人気が、つまり価格が高くなっている。ポルシェは既に電気自動車を販売し始め、フェラーリも?という噂は絶えない。こうした背景から「乗れるうちに乗っておきたい」という人が増えているようだ。
例えば9年前に約1,200万円で販売されたポルシェ911の中古車は、現時点でも900万円ほどになる。先ほどのメルセデス・ベンツSクラスとかなり金額が違う。だからといってポルシェなら全部高いのかといえば、そうでもない。9年前に新車で約1,000万円したSUVのカイエンは300万円前後となる。これでもブランド力のあるポルシェのSUVゆえの価格だが、それと比べても911はやはり人気ゆえの破格だ。
9年たっても新車時の75%※程度の価格を維持しているポルシェ911 ※原稿執時の調査価格
このように、もしも電動化が順調に進んだとすれば、9年後の買取価格は下がりそうだが、いま購入する車が電動車であるにせよ、ないにせよ、たいていの車種ではそもそも9年後にはたいした買取価格が付かないので、あまり気にする必要はなさそう。むしろ9年間も乗れば、たいていの場合「元は取れた」と考えて良いだろう。
逆に例に出したポルシェ911など、一部のスポーツカーは、電動化が進むほど希少価値が高くなり、買取価格が上がることも予想される。
それにしても、まだ法律化もされていない状態なのに、中古相場の上げ下げを現時点で気にするのも今ひとつ。気候変動に資するなどの付加価値から電気自動車にシフトするのもよし。内燃機関に思いがある方などは「今が純ガソリン車に乗れる最後のチャンス」と考えるもよし。その方が、むしろ楽しいカーライフを送れそうだ。
目標通り2035年半ばや2030年までに電動化が進まなかったとしても、いずれは電動化社会になるのは間違いない。つまり今後数年間はガソリン車やディーゼル車に乗れる「ラストチャンス」であるのは確か。
であれば、尚のこと好きな車に乗った方が心残りがない。限られた時間を、座して待つのか、積極的に活用するか。本当に乗りたかった一台を、これから最低9年間は堪能する。今からの車選びは漫然とではなく、確固たる意思を持って選んだ方が正解ではないだろうか。
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