日本ではあまり紹介されない海外のエネルギー業界最新ニュース。EnergyShift編集部が厳選してお送りする。
ドイツ・シーメンスのElectric Avenue プレスリリースより
米国電力業界への新型コロナウイルスの影響はまだわずか
米国の電力業界に対する、新型コロナウイルスの影響について、3月30日付のフォーブスがレポートしている。結論からいえば、現状、影響は少ないということだ。
代表的なものとして、Dominion Energyの見解を紹介しているが、それによると、住宅における需要増が期待できるということから、収益予測を見直す予定はないということだ。
また、3月27日にBloomberg New Energy Finance(BNEF)は、新型コロナウイルスの影響による電力需要と卸市場価格への影響に関するレポートを発表している。最も影響を受けているのがニューヨーク州で、電力負荷は7%、電力価格は10%下落している。次いでニューイングランド州では、電力需要が5%、電力価格は8%下落している。米国最大の電力網であるPJM(ペンシルバニア州/ニュージャージー州/メリーランド州)は、電力需要が4%、電力価格が8%下落している。
一方、カリフォルニア州では、BNEFのモデルによる電力需要よりも5%低いという。これは3月19日の在宅要請による影響だ。しかし今後の天候を考えると、電力需要の上昇が予想されるという。
また、ニューヨーク州やPJM、カリフォルニア州のように卸電力取引市場がある地域では、需要や価格が下がっても、電力会社の収益には影響を与えない。一方、発電から小売りまで一貫した垂直統合型の電気事業が運営されている州では、収益に影響を与える。
長期契約に基づいて発電している再生可能エネルギーによる発電事業は、安定して電気を販売している。一方、火力発電所や原子力発電所は新型コロナウイルスの影響よりも以前に、再エネと天然ガスの価格低下の影響を受けていたという。
現状では、米国の電力業界に対する新型コロナウイルスの影響は小さい。しかし感染拡大はまだ初期の段階であり、影響が拡大する可能性はある、ということだ。
Electricity Demand In The Time Of COVID-19(Forbes 2020/03/30)
カナダ原油はいずれ売れなくなる
新型コロナウイルスの感染拡大により原油の需要が低迷し、油価が下がったことで、重質なカナダ原油は市場性を失っているという。3月13日付のClean Technicaはそのように報じたが、さらに3月29日の同紙では、そもそも気候変動対策が必要となっている時代に、相対的にCO2排出量が多く高コストなカナダ原油は競争力がなく、カナダ政府に対しては補助金の支出を取りやめるべきだという論評を述べている。
カナダではアルバータ州でオイルサンドから原油を抽出・生産しているが、重油であるが故に抽出にあたって費用が余計にかかり、かつCO2排出量も多いため、安価で軽質なサウジアラビア産やロシア産原油と比較して競争力がない。しかしカナダ政府は産業政策として、石油・ガス産業に年間25~350億米ドルを助成しているという。
カナダおよびアルバータ州は、新型コロナウイルスを通じて、化石燃料への投資をやめることを学ぶべきであり、クリーンエネルギーへの投資を増やすべきである、ということだ。
No One Is Buying Canada’s Oil: A Preview Of The Near Future New Normal(Clean Technica 2020/03/29)
スコットランドの電気の90%が再エネに
Renewable Energy Magazineによると、3月26日に、英国スコットランドの電力需要の再エネ比率が90%に達したという。スコットランドは2020年には電力需要を再エネ100%にするのが目標となっている。
ビジネスネットワークであるScottish Renewablesの政策担当者であるCara Dalziel氏によると、スコットランドでは洋上風力は英国全体の中では開発が遅れ、陸上風力についても市場にアクセスできないという状況だったにもかかわらず、いくつかのプロジェクトが進んだことで、達成できたという。これに加えて太陽光発電や水力発電もあり、100%は手が届くところにきているということだ。
ただし、スコットランドで使われるエネルギーのうち電気の割合は4分の1しかない。輸送や熱供給などを含む全エネルギーの半分以上を再エネにすることも目標となっている。
90% of Scots Power Demand Now Provided By Renewables(Renewable Energy Magazine 2020/03/26)
シーメンス、ロンドン近郊に街路灯EV充電を導入
独シーメンスは、EV充電会社のubitricity、およびウエストミンスター市議会と協力して、サザーランドアベニューにある街路灯24基をEV用の充電スタンドに改造した。これにより、通りの名称も「Electric Avenue、W9」とよばれるようになった。
シーメンスの調査によれば、英国のドライバーの36%が買い替えるときにはハイブリッド車かEVにするとしているが、40%は充電スタンドの不足からすぐにEVを購入できないとしている。シーメンスの取り組みは、こうした調査を受けてのものだ。
ウエストミンスター市には現在、296ヶ所の充電スタンドがある。EVの比率も英国ロンドンの他の自治区のおよそ2倍。2021年中には充電スタンドを1,000ヶ所まで拡大する予定だ。
ロンドンの大気汚染は主に自動車が原因とされており、特にウエストミンスター市は深刻な状況だ。そうしたこともあり、市議会はEVの普及を進める政策をとっている。
ロンドンのドライバーの多くは、市内に充電スタンドが100ヶ所程度しかないと考えているが、これはシーメンスが提供している充電スタンドの10%にしか相当しない。シーメンスは今後、ウエストミンスター市で2025年までに登録が予想される8,000台のEVに対応した充電スタンドのネットワークを構築する予定。
Siemens unveils UK’s first converted ‘Electric Avenue’(Siemens Press Release 2020/03/17)
Siemens Brings Street Light EV Charging To London Neighborhood(Clean Technica 2020/03/24)
米デトロイトが商用EVのエンジニアリング拠点に
米国ミシガン州のデトロイトは自動車産業の街として知られているが、自動車産業の斜陽化によって、近年は衰退する一方だった。しかし、最近になってフォードがデトロイトのコークタウンにEV本社を設立し、GMがデトロイト・ハムトラムクにEV用の工場を開設したことで、この流れが変わりつつある。問題を抱えてきた米国自動車メーカーの拠点は、予想外の形で、EVエンジニアリングの中心地になりつつあるということだ。
ノースカロライナ州のFontaine Modification社は3月、フォードの中型トラックのシャーシをEVに改造する施設をハムトラムクに開設した。また、フォードE-450トラックを電動化するためのバッテリー、制御装置、モーターを提供しているMotiv Power Systems社は、現在、デトロイト地域のエンジニアリングセンターを開設中だという。
この他、ミシガン州を拠点とするSpartan Motorsは、いすゞのシャーシを使用した電気トラック「リーチ」の製造を間もなく開始する。
Detroit becomes engineering base for commercial electric vehicles(electrek 2020/03/24)
IAEAがSMRの経済性を検討するプロジェクトを開始
IAEA(国際原子力機関)は、SMR(小型モジュール原子炉)の経済性を調査する3年間のプロジェクトを立ち上げた。
SMRは、出力は小さいが、高い安全性と複数台の組み合わせが可能な原子炉で、世界各国でさまざまなプロジェクトが進んでいる。IAEAは、いずれも技術的に準備段階にある各プロジェクトについて、コストや工期が適切に評価、分析され、最適化される必要があると見ている。さらに、市場のニーズに対応したビジネスモデルの開発も必要ということだ。
研究プロジェクトがカバーするのは、「市場調査」「競争環境の分析(SMR vs非核代替案)」「財務評価」「事業計画とビジネスケースのデモンストレーション」「費用便益分析」など。
研究プロジェクトに参加するための提案の締め切りは4月30日となっている。
IAEA launches project to examine economics of SMRs(World Nuclear News 2020/03/26)
(Text:本橋 恵一)