アサヒビールを傘下に持つアサヒグループHD<2502>が国内19工場について、4月1日から購入電力の再生可能エネルギー化を果たしている。日経平均の予想PERより低い水準で取引される同社株について、脱炭素の取り組みが株式市場での評価押し上げに繋がるか、今後の株価の行方が注目される。
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アサヒビールを傘下に持つアサヒグループHD<2502>が、2021年4月1日より関東・関西地区の19工場で購入する電力を再生可能エネルギー(以下、再エネ)とすることを発表した。同社は2025年までに国内全拠点での購入電力の再エネ化を目指しており、更に海外を含めた生産拠点では同年までに全72工場のうち9割となる65工場で再エネ化を見込んでいる。
同社は「アサヒグループ環境ビジョン2050」において、気候変動への対応としてCO2排出量削減の中長期目標「アサヒカーボンゼロ」を設定して、2050年までにCO2排出量ゼロを目指している。今回の国内19工場の再エネ化はその流れに沿った施策である。
尚、2021年度分の再エネの調達はデジタルグリッド社が運営する日本初の民間電力取引所「デジタルグリッドプラットフォーム(DGP)」を通じて行われる。DGPはアサヒグループの需要に応じて太陽光発電・バイオマス発電など多様な電力調達を効率的に行い、購入する電力には再エネ発電所等で発電された環境価値(トラッキング付非化石証書等)が付与される。
再エネに切り替えたアサヒビール株式会社 茨城工場
アサヒグループHDは国際的な非営利団体CDPが実施する「サプライヤー・エンゲージメント評価」において最高評価である「サプライヤー・エンゲージメント・リーダー・ボード」に、キリンHDやサントリー食品インターナショナルとともに認定されている。
キリンHDは2040年に再エネ100%を目指しており、またサントリーグループは「水と生きる」を理念体系のトップに据え顧客・地域社会・自然環境との関係を構築している。またサッポロHDも「サッポログループ環境ビジョン2050」を策定し、自社拠点CO2排出量ゼロを目指しており、ビール各社は脱炭素に向けた取り組みを行っている。
その中でアサヒグループHDは、他社に先駆けて国内19工場について利用電力の再エネ化を実現した。
アサヒグループHDの過去3期の業績は下記で推移している。
売上収益 | 営業利益 | 当期利益 | |
2018年12月期 | 2兆1,202億円 | 2,117億円 | 1,510億円 |
2019年12月期 | 2兆890億円 | 2,014億円 | 1,422億円 |
2020年12月期 | 2兆277億円 | 1,351億円 | 928億円 |
2021年12月期(予想) | 2兆2,960億円 | 2,160億円 | 1,520億円 |
※同社はIFRSを採用、当期利益=親会社の所有者に帰属する当期利益
同社は2020年12月期まで若干の減収減益が続いている。今期(2021年12月期)は国内事業の回復に加えて買収した海外事業の収益貢献が期待できることから、増収増益の予想であり利益は2018年12月期並に戻る予想である。
ただし今期も前期同様に世界的に新型コロナウイルス問題の影響が残っており、国内でも3度目の緊急事態宣言が4月に4都府県に発出されたため、今期予想の達成はコロナ禍の状況次第となっている。
アサヒグループHDの株価は2017年後半から2018年半ばまでは5,000円台半ばで推移したが、その後は下落してコロナショック時の2020年3月3,006円が直近安値である。現在は若干上昇し4,000円台半ばの水準で取引がなされている。
株価4,500円での予想PERは15倍であり、また同社の3年間の予想PERは約16倍で推移している。日経平均の予想PER19倍(2021年5月6日時点)より低い水準に留まっている。またライバル関係にあるキリンHDの予想PERは約23倍で推移しており、株式市場のアサヒグループHDに対する評価は高いとはいえない状態だ。
キリンHDは2040年に再エネ100%を目指すのに対し、アサヒグループHDは2025年までに全72工場のうち9割となる65工場で再エネ化を目指している。まずは国内19工場の利用電力を再エネとしたアサヒグループHDがキリンHDに先んじている。
アサヒグループHDの業界に先駆けた脱炭素の取り組みが、日経平均の予想PERより低い水準にあり株式市場で低評価に留まる同社株価の押し上げの契機となりうるか、今後の予想PERの推移が注目される。
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