再生可能エネルギーとして、世界でもっとも安定的に利用されているのが、水力発電である。日本では中小水力発電の開発が注目されているが、海外に目を転じると、揚水式水力発電を含め、まだまだポテンシャルは高い。とはいえ、とりわけダム式の水力発電には環境破壊の懸念もある。自然環境とのバランスをとりながら、水力発電の開発を進めていくという可能性について、YSエネルギー・リサーチ代表である山藤泰氏が解説する。
最近頻繁に報じられているのが、太陽光発電と風力発電だ。共に気象条件によって生まれる自然エネルギーを利用して発電するために、化石燃料を使った発電のように地球温暖化を促進するCO2を排出しないことから、再生可能エネルギー、あるいは、持続可能なエネルギーだと定義されている。だが、太陽光・風力の利用は気象条件に左右されるため、発電出力が不規則に変動し、その予測も容易ではない。
時に、太陽光発電と風力発電だけが再エネであるかのような論調を見ることもあるが、再エネには地熱、波力、潮力を利用した発電や、長い歴史を持つ水力発電がある。その水力発電について、このほど国際水力発電協会から「Hydropower Status Report:水力発電の現況報告」が出されたが、その一部を紹介することにする。
報告書の冒頭に述べられているのは、現在見られる水力発電新設規模拡大率が年間1.5%〜2%というテンポでは、ネットゼロ社会の実現を2050年頃に達成することはできない、ということだ。IEA(国際エネルギー機関)は、不規則な出力変動をする太陽光や風力発電を大幅に拡張するためには、出力変動を効果的に抑制できる水力発電の設備規模を2倍にすることを求めている。
水力発電について少し詳しく説明すると、まず、ダム式の大規模水力発電所(出力数十万~数百万kW)がある。これは大きな河や湖水の流れをせき止めて作ったダムに水を貯めておき、大きな落差を作っておく。発電するときには、水を導管で河に落下させ、その水流の力で発電機を回す。落下する水の量を制御することによって発電量をゼロからフルパワーまで変化させることが容易に出来る。
この方式の変形だと言えるかも知れないが、発電時に落下した水を下池に貯めることができる構造にし、そこから上のダムに水を汲み上げる電動ポンプを設置する揚水発電がある。この電動ポンプを駆動させて下池の水を上池に押し上げるときに電力が消費されるために、余剰電力を消費しながら水を元の高い位置にまで戻し、必要時にはその水を再度発電に使うという方式で、発電と電力消費の機能を兼ね備えた蓄電の機能を持つ水力発電方式だ。
また、発電規模はかなり小さくなるが、川を流れる水を引き込んでプロペラなどを回転させて発電機を駆動する小水力発電がある。農業用水の流れを利用する発電所もあり、最近よく言われるようになっているエネルギーの地産地消を実現する再エネ発電ともなる。水の流れをそのまま利用するものや、小規模な堰を作って水の流れを安定化させて発電するものがある。
話を報告書に戻すと、2020年時点に世界で作動している水力発電所の規模は1,330GWで、その内159.5GWが揚水発電。総規模は前年から1.6%(21GW)の増加となっている。ちなみに、関西電力の奥多々良木発電所は世界最大の揚水発電所で1.932GW。
世界で最も大きな容量で水力発電を保有するのは中国(370GW)、それに続くのがブラジル(109GW)、米国(102GW)、カナダ(82GW)、インド(50GW)で、日本とロシア(49.9GW)がそれに続いている。
一方、世界の発電所規模の伸びは、新型コロナウイルス蔓延の影響もあって、2019年よりも落ちてはいるが、着実に増加している。中でもそれが目覚ましいのは中国(13,760MW)だ。2番目のトルコ(2,480MW)の5.5倍くらいあり、トルコはインドの5倍ほど。他の国はインドと大同小異。日本は新設量としては18番目(111MW)に位置している。
中国の場合、水力発電に適した地形のある場所が北西部・北東部地域にあるため、その電力を需要地である南西部沿岸部にある大都市まで、大容量の高圧直流送電線を幾つも敷設し運用している。中国で急速に拡大している風力・太陽光発電の出力変動の抑制に大きな役割を果たしていると想定出来る。
IEAが今年5月に出したレポートでは、2050年ネットゼロを達成するためには、水力発電の規模を現在の倍にする必要があると述べている。これは出力が不規則に変動する再エネの調整力として利用することに力点があり、揚水発電に大きな期待を寄せている。さらには、地球温暖化ガスを排出しない水力発電の電力で水を電気分解して安定的に水素を製造し、化石燃料を代替する役割も強調している。
水力発電設備を設置する上での課題は、自然環境や住民への影響が避けられないということだ。また、設置基準や規制が国によって異なるために、効率よく設置を進展させるのが難しくなる。その解消に向けて、国際的な統一基準が作られようとしている。今後、南米、南アフリカ諸国に揚水発電を主とする水力発電が拡充されようとしているが、その電力を隣接する国に送ることによって、風力・太陽光発電の出力変動抑制が広範囲で行えるように、各国を結ぶ国際連系線の拡充も構想されている。各国間での電力輸出入が世界的に拡大することになる。
先進国にあっても、米国がカナダから水力による電力受け入れを拡大しようとしているし、水力の豊富なノルウェーがドイツと連系線を結び、ドイツの風力発電の拡充を支援しようとしている。
余談になるが、報告書では2021年1月28日に、欧州がブラックアウト寸前までになったのを、水力発電のお陰で回避できたという事例も紹介されている。欧州はほぼ全域が一つの電力系統で結ばれているが、東西の中間にある変電所が事故で停止し、西に流れていた電力が止まったために、西欧州の電力周波数が急速に下がり、この地域の発電所が全て停止する寸前にまでなった。このとき、迅速に出力を上げられる火力発電(ピーカー)では対応しきれなかったのだが、水力発電の出力を急速に増加させることによって周波数を安定させることができ、ブラックアウトを阻止できたというものだ。
ネットゼロ社会を早期に実現するために、水力発電の発電容量の拡大だけではなく、機能・能力を再評価する必要があると言うことだろう。
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