空調の売上高世界No.1のダイキン工業は、空調の会社ならではの気候変動対策を進めている。前編では主に製品使用時の温室効果ガス排出量削減と、工場の電源調達について紹介した。後編では、エアコンになくてはならないフロンガスとカーボンニュートラルの関係について紹介する。
エアコンになくてはならないものが、冷媒だ。古くから使われていたフロンガスは1987年採択のモントリオール議定書で規制され、代替ガスが各種開発されてきた。ダイキンが世界に先駆けて、2012年にエアコンの冷媒として初めて採用したのが、R32という冷媒だ。
それまでは、一般の家庭用や業務用のエアコンではR410Aという冷媒が主流だった。これは、安全性(難燃性)もさることながら、経済性も重視されてのことだったが、実はこのR410Aは、温暖化係数が非常に大きい。オゾン層保護には寄与するが、地球温暖化にはかえって悪影響をもたらしかねない。ちなみに、温暖化係数はCO2の2千倍ある。家庭用エアコンには冷媒がおよそ1kgはいっているが、R410AではCO2換算で2トンになる計算だ。これでは環境には意味がない。
一方、ダイキンが採用したR32は温暖化係数がR410Aの1/3と小さく、オゾン層保護にも寄与する。ひとつだけ、R32は若干の燃焼性があることが課題とされていたが、実証実験やリスクアセスメントを繰り返し、安全に使用できることを確認した。
ダイキンはこのR32空調機を世界に普及させようと、各国政府とも連携。関連特許も95%をダイキンが持っていたが、それも公開し、オープン化戦略に打って出た。その結果、世界で半分の家庭用エアコンがR32に変わったという(2021年10月)。ダイキンの調査では、1.6億台のR32冷媒の空調機が世界で発売され、CO2換算で2.6億トン削減できたという。
エアコンにはインバータエアコンとノン・インバータエアコンがある。周波数変換装置を内蔵しているのがインバータエアコンだが、エネルギー効率(省エネ率)が高く、ノン・インバータエアコンと比べると、インバータエアコンはその42%の電力消費ですむ。
インバータエアコンの省エネ率(消費電力比較)
出典:ダイキンHPをもとに編集部再編集
そこでインバータエアコンを新興国に普及させることで電力消費量を削減する取り組みも進めている。中国では2009年に7%だったインバータエアコンが2018年に76%まで急増した。これは、ダイキンが2008年に中国の格力電器と提携を結び、インバータ技術の普及を加速させたことが大きい。格力電器の低コスト力、大量生産力と、ダイキンの技術がタッグを組んでこその成果だろう。
空調技術でもうひとつの脱炭素技術が、ヒートポンプだ。ヒートポンプとは、大気中の熱を集約させ、屋内と屋外の熱移動をさせるシステム。給湯器のエコキュートはヒートポンプ式だ。現在、ヨーロッパでは化石燃料である石油やガス暖房から急速にヒートポンプ暖房に置き換わってきている。
ヨーロッパで2021年7月に発表された脱炭素戦略「Fit for 55」(2030年までの温室効果ガス55%削減)も、ヒートポンプの普及を後押ししている。
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