カーボンニュートラル、あの会社はこうしている(2)ダイキン工業株式会社の場合 後編 | EnergyShift

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カーボンニュートラル、あの会社はこうしている(2)ダイキン工業株式会社の場合 後編

2022年03月30日

ヨーロッパで議論される企業としてのオフセットとは

ダイキンの脱炭素戦略に死角はないのか。実は、ある。それが、前編の冒頭で紹介した、地球温暖化によるエアコン市場の拡大だ。どれだけ技術でカーボンニュートラルを目指しても、量が拡大しているのでなかなかゼロにはならない。

ダイキンは2021年に、CDP気候変動ではじめてAリスト入りをした。ずっとA-の評価だったというが、この理由が、絶対的なCO2排出量削減が難しかったからだという。

「空調産業自体はこれからどんどん伸びる。スコープの1と2は削減目標ができても、利用時の排出量が係るスコープ3が下がらない。そのため、SBTi認証もまだとれていないのです。BAU(何も対策をせず現状を維持した場合)比ではなく、絶対量の削減が評価されますから、難しい。気候変動AリストにはSBTi認証が大きく影響するといわれています。今回のAリスト入りは短中期の具体的なアクションプランを打ちだし、それが評価されたのでしょう。とはいえ、SBTi認証はこれからなので、万万歳のAリストではないと考えています」(ダイキン工業 CSR・地球環境センター室長、藤本悟氏)。

そこでダイキンが目下検討中なのが、技術や特許を開放することでCO2削減に貢献した量を自社の排出量にオフセットできないか、ということだ。

例えば前述の低温暖化冷媒であるR32。これによる温室効果ガス削減量は、CO2換算で2.6億トンだが、実はダイキン単体でみると4,300万トンの削減量しかない。販売台数でいうと1.6億台のうち、3,300万台だ。ほかの約2億トン、約1.3億台の販売は他社がR32を利用したものになる。

このように、自社技術や特許を開放して他が温室効果ガス削減を達成した場合、それは開発企業の削減量に(すべてではなくとも)換算できるように各国と議論を重ねているという。

「ヒートポンプ技術のオフセットの可能性は慎重だったが、ヨーロッパでEPEEという有力な業界団体が脱炭素シナリオを去年打ち出しました。文書の中にも『ネガティブエミッションはヒートポンプによって可能』と書いてあります。グリーンウォッシュに厳しい欧州で、こうしたことを言えるのは、彼らもかなり精査した上で文書をだしていると聞いています。また、今のところこれに対する反論は出ていないとも聞いています。あくまでまだ議論の段階ですが、こうしたオフセットと組み合わせることで市場規模の拡大の中でもカーボンニュートラルを実現できるのではないかと考えています」(藤本氏)。

Indicative graph: Emission mitigation potential

この文書ではヒートポンプが取り上げられたが、今後、特許を無償公開している低温暖化冷媒R32にも同じ考え方ができないか、世界各国政府や関係者と協議を進めているところだ。

ダイキンだけがよければそれでいい、ではない

藤本氏は、特許無償公開によるオフセットの議論は慎重に、しかし、グローバルに進めていきたいという。

「これは、ダイキン一社だけがよくなればいいという話ではないのです。空調産業自体がすごく大きくなり、環境負荷も増えてくる中、空調産業全体の温室効果ガスを削減していくという考え方をしなければならない。ダイキンは空調産業のリーダーとして、空調産業全体の温室効果ガスを下げていきたい。(排出量)クレジットを買って削減できないか、という意見もあるが、個人的にはクレジットは資金力での解決であり、実態としては下げていないと思っている。実態として地球全体のCO2を下げることが目的ならば、我々はこっちの道(オフセット)をさらに検討していきたい。空調産業自体が成長し、サステナブルな社会に貢献していく。そのためのオープン化戦略であり、世界のルール形成であり、また、アドボカシー(擁護・代弁)でもあります。気候変動に必要な産業であるからこそ、社会とともにこれらの活動を行っているのです」(藤本氏)。

 

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小森岳史
小森岳史

EnergyShift編集部 気候変動、環境活動、サステナビリティ、科学技術等を担当。

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