2020年10月、菅義偉総理大臣が「温室効果ガスの排出量を2050年までにゼロにする」と宣言しました。この発言を受けて、再生可能エネルギーを自社設備で生み出す自家消費型太陽光発電のニーズが高まっています。
今回紹介するのは、自家消費型太陽光発電の新定番であるPPAモデルです。まだ国内ではあまり馴染みのないPPAモデルについて、メリットや留意点、補助金情報をご紹介します。
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PPAモデルとは、「Power Purchase Agreement(電力販売契約)モデル」の略称です。需要家がPPA事業者に土地を提供し、事業者が太陽光発電システムを“無償”で設置・運営。そこで発生した電力を需要家が買い取るビジネスモデルのことを指します。
*経済産業省『「再エネ型経済社会」の創造に向けて ~再エネ主力電源化の早期実現~』
なぜ事業者が無償で設置・運営を行うのかというと、契約期間中、屋根に設置された太陽光発電システムや、そこで発電された電力の所有権はPPA事業者側にあるからです。需要家は屋根などのスペースを提供します。しかし、そこで発電した電気は需要家のものではないため、事業者から購入する必要があるのです。こういった理由から、PPAモデルは「第三者所有型」ともいわれています。
本来、PPAとは「需要家が特定の売電業者と電気の売買契約を直接結ぶこと」を意味しました。しかし、「電力供給のインフラ」や「売買に関する法律」「エネルギー供給源のトレーサビリティ」などの問題が障害となり、現在の日本ではPPAを実現できていません。その代わりに自社の敷地内に他社の太陽光発電設備を設置し、生産された電力を買い取る手法であるPPAモデルが誕生しました。そのため、「PPA」と「PPAモデル」は意味合いが少し異なります。
また、PPAモデルには「オンサイト」と「オフサイト」の2種類があります。オンサイトPPAは冒頭で述べた、敷地を事業者に提供して電力を購入するモデルのことです。
その一方、オフサイトPPAとは企業が所有する敷地の外に太陽光発電システムを導入し、送配電ネットワークを経由して需要家のもとに電力を届けるモデルを指します。オフサイトPPAは大規模な設備投資が必要になるなどコスト面での課題が多いため、現状、日本ではオンサイトPPAが主流です。
現在、世界各国ではPPAが非常に盛んです。ブルームバーグNEFが行った調査によると、2010年時点でのPPAの契約量は世界で約10万kwしかありませんでした。
しかし、その後採用する企業が飛躍的に増加し、2016年には430万kw、2017年には620万kw、2018年には1,360万kw、2019年には1,950万kwと、契約量がこの10年で約200倍も伸びています。 とくにアメリカは2019年時点で全体の約81%を占めるなど、PPAの導入がとても盛んです。
2021年現在、日本国内ではこのビジネスモデルはあまり知られていませんが、世界の潮流と同様、今後ますますPPAモデルを導入する企業が増えていくことが予想されています。
*自然エネルギー財団「コーポレートPPA実践ガイドブック」
では、なぜPPAモデルを導入する企業が増加しているのでしょうか?ここでは、その背景についてご説明します。
2015年12月12日、フランスのパリにて気候変動抑制に関する国際的な協定である「パリ協定」が採択されました。この協定が掲げる主な長期目標は以下の2つです。
パリ協定は、中国やアメリカといった温室効果ガス2大排出国だけでなく、発展途上国を含む175の国と地域が署名しました。
これによって世界各国が脱炭素社会の実現に向けて本格的な活動を始めることに。SDGs(持続可能な開発目標)やESG投資(環境・社会・企業統治を考慮した投資)といった取り組みを行う企業が増えました。そのなかで再生可能エネルギーにも目が向けられるようになり、自家消費型太陽光発電をもとにした新たなビジネスモデルとしてPPAが誕生したのです。
日本でも2030年にはPPAモデルの市場が832億円になることが予想されるなど、今後もPPAを導入する企業が増えていくことが予想されています。
世界的に需要が拡大しているPPAモデルには、どのようなメリットがあるのでしょうか。ここでは、主なメリットを5つご紹介します。
PPAモデルは初期費用が無料です。太陽光発電システムの設置費用はPPA事業者が負担するケースが一般的なので、結果的には電力会社よりも安い単価で電力を使用することができます。
所有権は事業者側にあるため、設備の購入費用も不要です。資産計上や減価償却も必要ありませんので、経理や税務の手間もかかりません。また、契約期間中であれば修理や維持などの管理も無料です。
「リスクゼロで電気代を安くできる」という点でも、PPAモデルの導入は大きなメリットであることがいえます。
PPAモデルで生み出す電力は、CO2を排出しないクリーンエネルギーです。そのため、CSR活動の一環として「環境問題に取り組んでいる」という発信ができます。
また、PPAモデルの導入は“ビジネスチャンス”の観点からも、メリットがとても大きいです。
2014年、事業を100%再生可能エネルギーで賄うことを目標とする企業連合である「RE100」が発足しました。2021年6月現在、世界では「Amazon」や「Apple」をはじめとする314社が参加しており、日本企業は「イオン」や「ソニー」など55社が名を連ねています。
RE100に参加しているのは大手企業ばかりのため、一見「RE100とPPAモデルの導入がどう関係あるのか?」と考えがちですが、ここに大きなポイントがあります。なんと、その中から「取引先に再生可能エネルギー導入を要求する企業」が現れ始めているのです。
例えば、Appleは取引先の選択基準の中に「再生エネルギー化への取り組み状況」が加えられました。国内企業でも、イオンが提携企業に「再エネ化の協力」を求めています。それ以外にも「投資家や金融機関から再エネ導入を求められた」という話も増えています。
今後も、取引条件として「再生エネルギー化に取り組んでいるか」を設ける企業は増えていくと予想されています。つまり、環境問題に取り組むことで大手企業との取引が可能になるケースも考えられるのです。
企業ブランディングの向上やビジネスチャンスの拡大に繋げられるため、PPAはビジネスの観点からも非常に有益だといえます。
私たちが毎月支払う電気代には再エネ賦課金というものが上乗せされています。電力会社は太陽光や風力などで発電された電力を発電事業者から買い取っており、その費用を再エネ賦課金として企業や一般家庭に請求しているのです。再エネ賦課金は2012年にスタートしました。当初の負担額は年間744円程度でしたが、2021年には約10,476円と、14倍以上になっています。今後も上昇を続けるといわれており、2030年には15,000円を突破する見込みです。
再エネ賦課金は、発電した電気を自家消費すれば支払いが免除されます。つまり、PPAモデルを導入すれば環境改善に貢献できるだけでなく、電気代を安く抑えることもできるのです。
PPAモデルでは、契約期間が満了すれば設備をそのまま需要家に譲渡するのが一般的です。そのため、契約期間満了後は発電した電力を自社エネルギーとして活用でき、その分だけ電気代を安く抑えられます。
商品によってはメーカー保証がついたソーラーパネルを自社設備にできるケースもあるので、契約時に保証の有無や期間について確認しましょう。
工場立地法は、工場などを建設するにあたって一定規模の緑地・環境施設の確保を義務づける法律です。この法律ですが、太陽光発電設備の設置エリアも環境施設として算入できます。
また、エネルギー使用量が抑えられるので省エネ法の対策もできます。
ここまでPPAモデルには多くのメリットがあることを説明しました。次に、導入するうえで知っておくべき注意点についてお話します。
PPAモデルはどの企業でも導入できるわけではありません。大きくわけて、以下の3点の条件をクリアする必要があります。
具体的な条件はPPA事業者によって異なりますが、こういった導入条件があることを理解しておきましょう。
PPAモデルは最低でも10年、平均して15〜20年の長期契約になるケースが多いです。一度契約してしまうと簡単に解約できないため、費用や譲渡条件、ソーラーパネルの保証期間などをしっかり確認する必要があります。
契約期間中、自家消費型太陽光発電設備の所有権はPPA事業者側にあります。そのため、自社の敷地内に設備があるとしてもソーラーパネルを勝手に交換したり、処分したりすることができません。
先ほどお話したように、契約期間満了後は設置したすべての設備が譲渡されます。発電した分の電気代を安くできますが、メンテナンスや修理にかかる費用は自己負担になるので注意が必要です。
PPAモデルを通して利益を上げるためには、業者選びはとても重要です。そこでPPA事業者の適切な選び方について説明します。
業者選びで特に重要なのは、技術力と施工実績です。
PPAモデルで使用する太陽光発電システムは、設計段階から事業者が担当します。そのため、その事業者はどのような太陽光パネルを使用するのか?施工前に耐震強度の確認などの計測をしっかり行うのか?など、施工内容についてしっかり把握しておくべきです。
また、打ち合わせ段階で「導入予定の施設と同規模の太陽光発電システムの施工・運用実績があるかどうか」も確認しましょう。施工実績が豊富な企業は、その分ノウハウもたくさん持っています。
次に押さえておくべきなのが、その事業者はO&Mをしっかり行なっているかどうかです。主なO&M業務は以下になります。
Operation(運用) | ・ 発電量の遠隔監視 ・ 発電量に関するレポート作成 ・ 発電量低下時の異常時のアラート ・ 障害発生時の復旧対応 |
Maintenance(保守) | ・ 定期点検 ・ 発電パネルや用地・敷地全体の清掃業務 |
効率のいい発電を継続するためにも、運用・保守業務はとても重要です。O&Mの内容や発電効率の保証の有無などがしっかりしているか、事前に把握しておきましょう。
再生可能エネルギーの普及に向けて、国や自治体、その他さまざまな団体が補助金制度を設けています。今回は環境省によるPPAモデル関連の補助金制度をご紹介しますが、それ以外にもさまざまな制度があるので、ぜひ有効活用してください。
事業名 | 令和2年度(第3次補正予算)及び令和3年度ストレージパリティの達成に向けた太陽光発電設備等の価格低減促進事業 |
補助対象 | 太陽光発電設備、太陽光発電設備の設置工事費、蓄電池、蓄電池の設置工事費 |
補助内容 | 【オンサイトPPAモデルの場合】 ・太陽光発電設備:6万円/kW ・太陽光発電設備の設置工事費:10万円 ・蓄電池:3万円/kW ・蓄電池の設置工事費:10万円 ※PPAモデル契約の形態により補助額は変動します。 |
募集期間 | 第1次:2021年3月26日(金)~同年4月30日(金)正午まで【必着】 第2次:2021年5月10日(月)~同年5月31日(月)正午まで【必着】 第3次:2021年6月7日(月)~同年6月30日(水)正午まで【必着】 第4次:2021年7月5日(月)~同年7月30日(金)正午まで【必着】 第5次:2021年8月9日(月)~同年8月31日(火)正午まで【必着】 第6次:2021年9月6日(月)~同年9月30日(木)正午まで【必着】 |
初期費用やメンテナンス費用を負担せずに再生可能エネルギーを自家発電できるPPAモデルについて説明しました。需要家側のメリットが多いため、今後もPPAモデルを導入する企業は増えていくことが予想されます。
しかし、その一方でPPAモデルは新たなビジネスモデルです。ノウハウが豊富な事業者が多いわけではありません。施工後や運用時のトラブルを防ぐためにも、しっかりと業者を見極め、効果的に発電しましょう。
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