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小泉環境相「住宅・ビルに太陽光義務化」に賛否 委員会で協議続く 脱炭素実現に向けて

小泉環境相「住宅・ビルに太陽光義務化」に賛否 委員会で協議続く 脱炭素実現に向けて

2021年05月02日

小泉進次郎環境大臣による「新築住宅やビルへの、太陽光発電の設置義務づけ」提言を受け、国交省や環境省では新たな審議会を立ち上げ、検討を進めている。4月28日に開催した第2回目の議論では、「一律義務化は時期尚早」とする一方、「脱炭素社会の実現に向け、新築住宅への設置義務化は進めていくべき」と賛否両論の声があがった。

鳥取県知事「義務化するだけで本当に普及が進むのか?」

小泉環境大臣は、2030年度の温室効果ガス排出を2013年度比46%減らすという新たな日本の削減目標を受け、「新築住宅やビルに太陽光発電の設置義務づけを検討すべきだ」と提言している。

この提言を受け、国交省や環境省などは4月から新たな審議会である「脱炭素社会に向けた住宅・建築物の省エネ対策等のあり方検討会」を立ち上げ、住宅・オフィスビルなど建築物の環境問題に詳しい専門家や鳥取県知事などとともに、脱炭素社会に向けてどのような取り組みを実施していくべきか検討をスタートさせた。太陽光パネルの設置義務化も大きな検討課題のひとつとなっている。

4月28日には国交省で2回目の検討会を開催、ハウスメーカーや一般工務店、不動産デベロッパーなど関係団体9団体が設置義務化についても意見を表明し、議論をおこなった。しかし、多くの団体が「一律義務化は時期尚早」などと反対した。

委員のひとりである鳥取県の平井伸治知事は、積雪の多い鳥取県なども含めた一律義務化に改めて反対を表明した。

「アメリカ・カリフォルニア州では新築住宅に設置義務化を実施しているが、義務づけによって、1軒あたりのコスト負担増は40ドルになっている。しかし、太陽光発電でつくった電気を自分たちで使うことで、買う電気代が減り、余った電気は電力会社に売ることができるため、最終的に40ドル、得になるということが前提にある。しかも、すべての住宅が対象ではなく、設置できない屋根などは免除されている」と指摘。

そのうえで、「日本は再エネでつくった電気を電力会社が固定価格で買い取るFIT制度による買取支援が減少しており、設置しても採算ベースに乗るのか。鳥取県でも補助金を出してでも太陽光発電を促進しようとしているが、住宅への太陽光導入量は減少傾向にある。本当に義務化するだけで普及が進むのか?」と疑問を呈した。

「設置しても何年でもとが取れるのかわからないからイヤ」

新築戸建て住宅への太陽光発電の普及率は、2019年には62.1%となり上昇傾向を辿るが、搭載量はここ数年横ばいが続く。マンションなどの集合住宅の普及率は、FIT制度の買取価格の低下影響をもろに受け、2014年の48.1%をピークに減少、2019年には19.7%まで縮小している。

もっとも減少するのが既存住宅だ。2012年には年間2.54万件導入されていたが、これをピークに毎年減少。2019年にはついに10分の1となる0.2万件となった。

住宅関係団体によると、普及の妨げ要因がFIT買取価格の低下だという。住宅用太陽光発電の買取価格は2009年度の48円/kWhから、2021年度には19円/kWhとなり半分以下となった。2022年度には17円/kWhに引き下げられることが決定している。

買取価格の低減は、太陽光発電システムのコスト低下に合わせて実施されているため、当然、初期投資費用も安くなっている。それでも「相応の初期投資が必要で、消費者はいつ投資回収ができるのかわからないという不安感の方が強い」と関係団体は状況を語る。

「霞ヶ関に設置してから、民間にお願いするのが筋ではないか」

住宅以上に、義務化への反対姿勢を鮮明にしたのがビルだ。

特に関連団体は、「ビル壁面にも太陽光パネルの設置を義務化しようという議論があるが、屋根上設置以上に課題が多い」と指摘した。

「南面の外壁では発電量が屋上の6割程度となる。また隣の建物がカゲになるなど、実際の発電量はもっと悪いのではないか。また台風が多い日本の気候特性を踏まえれば、風に飛ばされないようにどのように対応するのか。メンテナンスなどの技術課題のほか、デザイン性も非常に重要な要素となる。義務化は時期尚早だ」とした。

このほか、「霞ヶ関の屋根に全部設置してから、民間にお願いするのが筋ではないか」といった意見や、「太陽電池の多くは海外製品だ。海外製品を買って載せるだけでいいのか?」「住宅のカーボンニュートラル化は時代の要請とはいえ、あまりにも性急な義務化は現場に混乱を招くだけ」といった否定的な意見が上がった。

6月に義務化是非は決着

関係団体から否定的な意見があがった一方、委員からは義務化賛成の意見が聞かれた。

ある委員は「太陽光発電を設置して何年でもとが取れるのか? 今のFIT状況下でシステム単価を1kWあたり30万円と想定しても、10年超でもとが取れる。システム単価はものすごい勢いで下がっており、今では1kWあたり20万円の見積もりも珍しくない。20万円だったら6から7年でもとが取れる」と指摘する。

「積雪地や都市部などは義務化の例外にする。あるいは相応の経済的支援を行うことは当然だが、太陽光発電は減価償却が終われば、それぞれの家庭で電気代が掛からなくなるというメリットがある。住宅の脱炭素実現に向けて、義務化は大きな意義がある」と述べた。

仮に義務化するにしても、経済的支援策や例外措置、さらに太陽光発電の点検・保守などきめ細やかな規定が必要となる。賛否両論渦巻く太陽光パネルの義務化議論だが、国交省などは6月までに方針を決める予定だ。そのため次回5月19日の審議会で何らかの方向性が示されるものと思われる。

(Text:藤村朋弘)

国土交通省:脱炭素社会に向けた住宅・建築物の省エネ対策等のあり方検討会(第2回)

藤村朋弘
藤村朋弘

2009年より太陽光発電の取材活動に携わり、 その後、日本の電力システム改革や再生可能エネルギー全般まで、取材活動をひろげている。

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