今回のエネルギー危機では、英国だけでなく欧州各国でガス・電力市場の高騰に見舞われた。欧州各地域のガスハブ価格(指標価格)については図4を、世界各国の電力市場価格については図5をご覧いただきたい。今回、欧州各地域ではほぼ各ガスハブが連動して市場価格が上昇した。これは、欧州のガス市場価格の限界費用がLNGであり、LNG価格の上昇に連動した動きと考えられている。
図4 2021年1月から9月までのガス前月契約 - EUR/MWh
一方で、電力価格は各国によって約定価格が随分と異なる。各地域の電源構成や国際連系線運用状況によって限界電源が異なるためである。直近でガス火力への依存度が高いスペインやイタリアでは大幅な電気料金上昇に直面している。
図5 2021年の世界各国における電力市場価格(前日市場24時間平均)
スペインでは、ペドロ・サンチェス首相率いる社会労働党が政権を握っているが、野党国民党だけでなく、連立政権を組む政党のポデモスや支持基盤である労働組合からエネルギー料金を引き下げるよう強烈な圧力を受けており、企業・一般家庭に対する減税を実施したほか、Iberdrolaなど大手エネルギー事業者に対して新税を課し、強制的に30億ユーロの超過利益を徴収する方針を明らかにしている。
サンチェス政権の方針に対して、大手エネルギー事業者は発電した電力の大半は先物・先渡取引によって販売済みであり超過利潤は存在しないと猛反発、閣内でもナディア・カルビーニョ副首相から反対の声が上がっており、10月下旬に公益事業者が合理的な価格で電力供給を行う場合には新税の適用を免除する妥協案を提示している。
イタリアのマリオ・ドラギ政権は12億ユーロの財政出動を決定、エネルギー料金の急激な上昇を抑えた(10月1日から電気料金29.8%、ガス料金14.4%の値上げとなったが、政府介入がなかった場合には電気料金40%、ガス料金30%の値上げに直面するところであった)。
フランスは原子力発電の比率が高く、本来ガス価格高騰の影響は受けにくい電源構成であるものの、周辺国の電力市場価格の影響を受けて電力市場価格が高騰している。ブリュノ・ル・メール経済・財務大臣は24日に議会メディアの取材に対し、「欧州のエネルギー市場は機能していない。フランスは原子力発電や水力発電主体の電源構成で比較的安価であるにも関わらず、EU市場では天然ガスに合わせて市場価格が設定されている」とコメントしている。
前述の通り、政治的に厳しい立場に置かれているスペインと、他国の影響でエネルギー価格高騰に直面したフランスは二ヶ国財務大臣会合でEUに対して市場改革を求める方針で一致した。9月下旬、スペイン・フランス・チェコ・ギリシャ・ルーマニアの5ヶ国財務大臣は連名で、電力市場の平均費用約定を求める要望書を欧州委員会に提出した。
当然、電力市場の平均費用約定は電力市場設計の大前提を覆すものであり、26日に欧州9ヶ国(オーストリア、ドイツ、デンマーク、エストニア、フィンランド、アイルランド、ルクセンブルグ、ラトビア、オランダ)は連名で市場設計変更には慎重を期すべき、との共同声明を発表した。
欧州委員会は今回のエネルギー危機への対応として、13日にツールボックスを公表し、エネルギー料金の支払い延期や一般家庭・企業に対する補助金を許容したほか、ガス依存度低減に向けた再生可能エネルギーの導入拡大等を推奨している。
また、欧州エネルギー規制庁(以下、ACER)に対し、現行の電力市場設計の利点・欠点を調査し、必要に応じて欧州委員会に勧告を行うよう求めており、今後欧州における電力市場設計がどのように変化していくのか、注目される。
(後編は明日11月19日公開予定)
*第1回はこちら「欧州を襲ったエネルギー危機、その影響と原因 前編」
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