風力発電には陸上風力と洋上風力が、太陽光発電には陸域型、水面式、屋上型などいくつかのタイプがあり、どちらも興味深い状況になっている。今回の連載第二回では、まず風力発電の開発状況について紹介する。
再生可能エネルギー:2025年に20%
再生可能エネルギーの国際的ネットワークであるREN21が2019年に発表したレポートによると、2018年に世界全体で水力、風力、太陽光、バイオマス、地熱などの再生可能エネルギーが全エネルギーに占める割合は、発電設備容量で33%、発電量で26.2%に達しており、風力と太陽光を合わせた発電量はこの26.2%のうち8%を占める1。
こうした世界的な潮流にうまく乗りたい台湾政府は、台湾全体の発電量に占める再生可能エネルギーの割合について、現状6%程度であるのを2025年までに20%に引き上げるという目標を掲げている。この再生可能エネルギー拡大政策は経済部能源局(日本の経済産業省資源エネルギー庁に相当)の主導で進められることになっており、今後5年間でこの目標を達成するために大いに期待されているのが、洋上風力発電の本格稼働なのである。
1 REN21. 2019. Renewables 2019: Global Status Report, Renewable Energy Policy Network for the 21th Century, June 2019. http://www.ren21.net/gsr-2019/(2019年10月30日にアクセス)。
国内外の注目を集める洋上風力発電
英建設コンサルティング会社4C Offshoreが2014年に発表したレポート「23年間平均風速観測」によると、全世界で風速の最も速い、即ち風力発電のポテンシャルが高い20か所のうち、16か所が台湾海峡に位置するとされている。これは、地理的にモンスーン(季節風)の影響を強く受けているからである。
この海域では毎年10月から5月にかけて、北東の季節風が台湾の中央山脈と大陸福建省の武夷山脈の間を吹き抜けるため、平均風速が速い。一般的に効率的な風力発電には風速6.5メートル/秒以上が必要とされるが、例えば発電ポテンシャルが高いとされる台湾の彰化(Changhua)沿海地域では2018年の年平均風速が約7.8メートル/秒、特に秋・冬季は12メートル/秒に達することも珍しくない(4C Offshore Official Website)。
高い発電ポテンシャルを持つ台湾海峡の地理的特性は、国内外からの注目度が非常に高い。これまで台湾では陸上風力が主力で洋上風力の開発がほとんど行われていなかった。しかし、洋上風力の開発状況次第で風力発電が一気に拡大する可能性があり、今後の展開から目が離せなくなってきた。政府経済部が2019年4月に発表した試算では、現在洋上風力だけで投資規模が9,625億台湾元(約310億米ドル)に及び、2万人の雇用が創出される見込みであるとされている。
2019年10月には台湾で初の洋上風力発電施設「海能1(フォルモサ:Formosa)」(出力128MW)が完成。これを受けて蔡英文総統は「台湾の洋上風力発電事業は将来的に1兆2千億台湾元の生産額になる」との見方を示した。
Formosa1のウェブサイト
また政府の目標では、2019年から2025年までの7年間で風力の発電設備容量を2008年の約0.72GW(陸上のみ)から6.7GW(陸上1.2GW+洋上5.5GW)まで9倍以上に拡大することになっている。経済部能源局が管轄する洋上風力開発案件は10サイトで計画されており、設備容量の合計は5.5GW、うち3.5GWは経済部が審査・選抜を経て配分し、残り2.0GWは入札によって決定される予定である(下図)。
2 4C Offshore, Global Offshore Wind Speed Rankings, https://www.4coffshore.com/windfarms/windspeeds.aspx(2019年9月27日にアクセス)。
出所:経済部能源局によって2018年4月30日に公示された審査・選抜結果。
目立つ国外勢の投資と「国産化」の義務
洋上風力発電の開発が本格化するにつれ、産業界からの関心は高まっている。台湾国内のみならず、デンマーク、ドイツ、シンガポール、カナダをはじめとする国外のデベロッパーがすでに洋上風力の市場に参入し、存在感を放っている。実際に、2018年4月に経済部が公表した開発の審査・選抜結果によると、10案件のうち7案件については、5つの外国企業によって開発が進められている(下表)。
出所:筆者整理。
上記開発案件には、審査・選抜段階から建設事業の発注や部品の国内調達などで国内の業者を採用すること、すなわち洋上風力発電の「国産化」が必要条件として課されている。現状ではこの国産化に対して台湾国内の技術水準や経験不足、巨額の設備投資に対する企業の消極的な姿勢などが課題として指摘されている。政府はこれまでの経験を踏まえ、今後一、二年間で利害関係者と協議し、2025年以降のサイト開発に関する国産化の基準や審査手続きなどを策定することになっている。
洋上風力発電の懸念点
ただし、性急に推し進められる洋上風力発電には多くの問題が残っている。例えば、台湾での国産化の具体的な基準に曖昧さが残る可能性や、計画段階では国内のメーカーやサプライヤーの参加が予定されていても、最終的に技術力不足などから国外の業者への依存が高まることも想定される。
また、生態系や自然環境へのインパクトも懸念されている。例えば着床式洋上風力の場合、海底へのパイルの打設が必要であることから建設時・稼働時の騒音が問題視されている。また、環境保護団体からは、施工に際し関連する船舶が頻繁に往来することで、シナウスイロイルカのような海域生物の生殖地が消失することに対する強い懸念が表明されている。
買取価格の設定にも課題は残る。現在政府の再生可能エネルギー買取価格は5.52台湾ドル(約20日本円)/kWhであり、これは他のヨーロッパ諸国(例えば英国では入札結果が約6.13日本円/kWh)に比べてかなり高く設定されている。今後は国民の負担に対し何らかの対策が必要になりそうである。
このような国産化や環境破壊などに関する懸念については、今後の連載にて事例を追いながら、具体的な状況や対応策について詳述する。