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戦略的省エネ「ネガワット」とドイツでの節電所づくりを知る

戦略的省エネ「ネガワット」とドイツでの節電所づくりを知る

2020年11月10日

レジェンド?はたまた惰性?~足温(そくおん)ネット20年の軌跡

今でこそ、調整力公募や容量市場で評価されるネガワットだが、そもそも節電は、その分だけエネルギーコストの削減となり脱炭素の一助になるので優先して取り組むべきことだ。ドイツでは、1990年代から省エネに取り組む事業所を「節電所」と呼んできたという。実際に、ドイツを調査してきた、足元から地球温暖化を考える市民ネットえどがわ(足温ネット)事務局長の山﨑求博氏が当時を振り返る。

ある本との出会い

私の目の前に1冊の本があります。タイトルは『Negwatt(ネガワット)』。2001年に省エネルギーセンターから出版された、500ページもある分厚い本です。著者はペーター・ヘニッケ氏とディーター・ザイフリート氏という二人のドイツ人、そして現在は関西学院大学教授で環境経済学が専門の朴勝俊さんが訳者です。

戦略的省エネの考え方やドイツにおける実践例について書かれたこの本は、省エネによって使わずに済んだエネルギーを「ネガワットを生み出した」ととらえ、省エネに取り組んだ事業所を節電所と呼び、ドイツの自治体電力公社の事例を取り上げています。

この本を読んだのは2002年2月下旬、ドイツに向かう機内でした。当時、自然エネルギー推進市民フォーラムというNGOに参加していた筆者は、海外事例調査プロジェクトの一環として、本で紹介された事例の聞き取りに向かっていました。10日間に14団体を訪問するハードスケジュールでしたが、実りあるものとなりました。

書籍「ネガワット」 省エネルギーセンター刊

電力会社の省エネ事業

当時、ドイツは電力自由化から3年を迎え、電気料金の価格競争から電力業界で再編が起こり、大手発電会社が6社から4社に収斂されていく中で、地域で電力小売りを独占してきた自治体電力公社(Stadwerke=シュタットベルケ)も買収や合併の対象になっていました。そのような情勢下で、本で紹介されていたハノーファー市電力公社を訪ねました。

ハノーファー市電力公社は、市内の電力・熱・ガス・水道事業を担う株式会社です。株式の75%をハノーファー市が所有しており、1995年からドイツで初めて戦略的省エネ事業を展開しました。

LCP(Least Cost Planning)=最小コスト計画と呼ばれたプロジェクトは、発電よりも節電の方がより小さいコストで済むなら、その方向に投資せよというものです。そして、公社が『ネガワット』の著者ヘニッケ氏らの協力を得て実証実験を繰り返した結果、30%の節電が可能とのデータが示され、そのコストは発電所を建設するよりも低いものでした。

ハノーファー市電力公社職員。測定器を手に。

実施されたプログラムは、待機電力対策スイッチの販売、省エネ型冷蔵庫購入への報奨金支給、省エネ型照明への補助金支給、温水供給効率化への報奨金、の4つでした。公社は140万ユーロの資金捻出のため、2年間にわたり電力料金をkWhあたり0.1ユーロセントの値上げをします。しかし、電力自由化に伴う電気料金の価格競争によって値上げが難しくなり、公社は1997年末までに全てのプログラムを終了しました。

訪問時には、省エネプログラムは終わったものの、公社は地域の環境NGOと共同で「Der Reiz am Geiz(節電は素晴らしい!)」と題したキャンペーンを展開していました。その一方、市内にエネルギー相談センターを設置し、併設されたカフェでお茶をしながら気軽に省エネ相談や省エネ製品を見ることができるようになっていました。

Der Reiz am Geiz ウェブサイト

その後、公社は電気料金の差別化を図り、再生可能エネルギー由来の電気が無い通常料金「go」に加え、コジェネレーション由来の電気料金「care」、再生可能エネルギー100%の電気料金「more」を作り、電力自由化の中で電気料金を下げることなく顧客のつなぎ止めに成功しました。

省エネ事業の難しさと可能性

ドイツで行われていた省エネプログラム=節電所づくりは筆者の心を強く揺さぶりました。省エネプログラムの実施によって発電所を新たに建設するためのコストが回避できた方が経営としては効率的ではないかと。これは、足温ネットが取り組んだ揚水発電ダム建設反対運動「ダムより節電」に通じるものがあります。

当時、足温ネットでは市民立発電所の建設後、再生可能エネルギーの電気を作るだけでなく、電気の消費量そのものを減らすべきではないかとの意見がありました。しかし、目に見える創エネに対して、分かりづらい省エネの意義や効果をどう伝えていくかが課題でした。そして、議論の中で出てきたのがゲームで表現しては、というものでした。

家で使っていそうな家電製品や自動車、建物自体の省エネ性能を片っ端から調べ、従来のものから省エネ型に替えた場合の省エネ効果を数値化することで、可視化しようと考えたのです。

これまで言われていたような、「こまめにスイッチを消す」「テレビを見る時間を減らす」といった我慢や忍耐を伴う形ではなく、寝ていてもできる効果的な省エネの可能性を伝えられるのではないかと。そして、このことが、省エネ家電への買い替えプロジェクトとして結実することになるのです。

この続きは、また次回に。

出典

連載:レジェンド?はたまた惰性?~足温(そくおん)ネット20年の軌跡

山﨑求博
山﨑求博

1969年東京江東区生まれ。東海大学文学部史学科卒。現在、NPO法人足元から地球温暖化を考える市民ネットえどがわ事務局長。自分をイルカの生まれ変わりと信じて疑わないパートナーとマンション暮らし。お酒と旅が大好物で、地方公務員と環境NPO事務局長、二足の草鞋を突っかけながら、あちこちに出かける。現在、気候ネットワーク理事、市民電力連絡会理事なども務める。

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