2021年6月15日、米国のエネルギーデータ分析企業であるウッドマッケンジーは、日本が2030年度までに2013年度比で温室効果ガス排出量を46%削減する見込みは低いとする調査結果を公表した。公表に合わせて、アジア太平洋地域担当者らによる記者説明会がオンラインで開催。分析結果を、説明会の模様をまじえておとどけする。
6月15日の記者説明会でプレゼンテーションを行ったのは、アジア太平洋地域マーケット&トランジション部門責任者のプラカッシュ・シャルマ氏と、アジア太平洋地域電力・再生可能エネルギー研究責任者のアレックス・ウィットワース氏。
最初にシャルマ氏が「2050年カーボンゼロに向けた道のり」として、全体のポイントとなる部分を説明した。
シャルマ氏によると、2030年46%削減が難しい理由は2つあるという。1つは、2013年から現在まで、わずか6%しか削減できていないのに、残りの10年で40%近くを削減することになるという点。そしてもう一つは、この段階ではほぼエネルギー分野だけで削減することになるが、エネルギーミックスを考えると困難だという。
2050年カーボンゼロのシナリオにおいては、2030年の温室効果ガスの削減量は34%にとどまるとしており、さらに2050年の段階での電源ミックスは風力発電と太陽光発電を合わせても約3割にとどまる一方、約4割が火力発電、約2割が原子力発電になるという。
火力発電から排出されるCO2については、CCS(CO2回収貯留)などによってマイナスにしていくという。
技術・シナリオ別エネルギーミックス
Source: Wood Mackenzie Energy Transition Service 記者会見資料より
日本は化石燃料の削減にあたっては、グリーン水素やブルー水素など低炭素水素の利用を促進することがポイントだが、国内需要を満たすためには2050年の水素需要19Mtのうちの輸入量は13Mtに増加するという。また、輸入水素のうち4Mtについてはアンモニアの形で輸入されると見ている。
シャルマ氏によると、2030年の温室効果ガス排出削減の目標達成は困難だが、脱炭素技術の開発に十分な投資をしていくことで、2050年にはカーボンゼロを達成できるということだ。
ウィットワース氏からは、「電力・再生可能エネルギーの見通し」についての説明があった。
ウィットワース氏によると、2021年から2030年までの風力発電と太陽光発電に対する投資は1,470億ドルが必要になるという。およそ半分が分散型の太陽光発電、3割が洋上風力となり、集中型の太陽光発電への投資はわずか3%となっている。
こうした投資の結果、2030年における電源の再エネ比率は30%にまで上昇するが、その一方で火力発電の削減は進まず、特に石炭火力発電の比率は32%と第5次エネルギー基本計画の2030年目標より6%も多くなるという。
再生可能エネルギーが日本の発電に占める割合
Source: Renewable Energy Institute and Ministry of Economy, Trade and Industry 記者会見資料より
理由としては、石炭火力がもっとも経済性があることと、原子力の再稼動が進まないことによるとしている。それでも、火力発電の燃料としてアンモニアの利用を開始することで、火力発電由来の温室効果ガスを16%削減できるが、46%削減には不十分ということだ。
予想される発電公正の変化
記者会見資料より
こうしたことに加えて、太陽光発電や風力発電の割合が増えることで、出力調整可能な電源が必要となる。蓄電池や揚水発電は増加するものの十分ではなく、火力発電の割合はあまり減らない。
記者会見資料より
この他、発表会では言及されなかったが、ニュースリリースでは、日本に対し、2035年までのガソリン車の販売終了と水素スタンド1,000ヶ所までの拡大が必要であることなども示されている。
質疑応答では、記者からさまざまな質問が出た。
まず、2050年に原子力が2割ほどあることに対する現実性について、シャルマ氏は「カーボンゼロには原子力は不可欠、世界ではSMR(小型モジュール炉)の開発も進んでおり、日本企業も米国のSMRプロジェクトに2社が参加している」と指摘した。
また、石炭フェードアウトの現実性については、「2050年でも高効率の石炭火力は半数が残る。グリーンアンモニアの利用などで利用が延命される」と答えた。
さらに、日本の2030年削減目標を米国、EU、英国と困難さを比較するとどうなのか、という質問に対しては、「米国、EU、英国いずれも高い目標で苦労をするが、日本との違いは天然資源が使えるかどうか。日本は海外からの調達が必要なので、より困難である。政府ができることは、マーケットのしくみを理解し、投資のシグナルをメッセージとして明確に打ち出すこと」と答えた。
今回のウッドマッケージーの調査報告に対しては、「現実的」なのか「野心が不足」しているのか、意見が分かれるだろう。とはいえ、今回示された温室効果ガス削減に向かうとしてもなお、脱炭素に向けた積極的な投資や政府の適切な政策などが最大限必要となってくることは間違いないだろう。
(Text:本橋恵一)
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