千葉エコ・エネルギーが普及や開発支援に取り組んでいるソーラーシェアリングは、太陽光発電業界や国の政策でも大きく位置付けられたものとなっており、2030年から2050年にかけて、150GWの発電量になるという予測もある。実際の課題はどのようなものなのか。前編に引き続き、千葉エコ・エネルギー代表取締役の馬上丈司氏に話をうかがった。(全2回)
FIPに向けた競争力ある太陽光発電へ
―太陽光発電の場合、どうしても日中しか発電しないという問題があります。これをクリアするために、蓄電池などの技術開発やコストダウンが進められています。こうした分野についてもお考えがあるかと思います。
馬上丈司氏:蓄電池を使って24時間稼働する太陽光発電ということは考え始めています。
また、発電側課金が導入されるので、kWを使い切る(設備稼働率を上げる)方がいいという案もあります。AC側が50kWで、DC側を300kW以上として、日中の電気をDC側でどんどん蓄電し、夜間に系統側へ供給するということもあるでしょう。
―FIPの導入にあたって、太陽光発電は市場競争力が求められるわけですが、そもそも太陽光発電が稼働する日中は、卸取引所の価格が低いということが一般的です。その意味でも蓄電池などの利用は不可欠になってくると思います。その点も含め、政策的な課題についてはいかがでしょうか。
馬上氏:太陽光発電は発電する時間帯そのもののシフトはできないので、FIPに関してエネ庁が提出する試算データとは乖離があります。とはいえ、政策を決定したので、今から抜本的に改正されることはないでしょう。
エネルギー政策全体をみたときに、2020年7月に非効率石炭火力の削減や系統運用の見直しが示されました。総理大臣が交代したことで、政策が変わるかどうかは注視すべきですが、梶山経産相は留任しており、ソーラーシェアリングについても一定の理解があると見ているので、その点は期待しています。
ソーラーシェアリングについては、経産省に限らず、他の省庁も前向きとなっており、特に環境省は力を入れてくれています。とはいえ、農水省がもっとも重要なのですが、農地を所管している部署が明確に政策を位置付けていくことが求められます。安倍前首相も1月の国会答弁で、ソーラーシェアリングを政府の計画に入れていると発言しています。あとは、踏み込んだ個別具体策が欲しい、というのが政策面での現状です。
千葉エコ・エネルギー 馬上丈司 代表取締役社長金融や減税から学術的支援まで、必要な具体的政策
―個別具体策としては、どのようなものが考えられるのでしょうか。
馬上氏:まず、金融支援があります。JAバンクの融資の場合、しばしば農水省の補助金によって利率が下がっているのですが、こうした制度でもっとソーラーシェアリング向けの融資が欲しいと思います。
固定資産税の減免もあります。これは自治体が行うものですが、その原資は国からのものになるでしょう。制度融資や減税などは小さなサポートですが、売電価格が下がっていく中では、大きな支援になります。
それから、学術研究の分野も必要です。パネルの下でどのような作物が育つのか、この研究は日本が世界から遅れつつあります。韓国では政府が予算を計上し、各地の農業試験場でソーラーシェアリングのテストプラントをつくり、地場の作物を試験しています。こうしたことを日本でも47都道府県でやっていただきたい。
過去、秋田県と静岡県で2年間実施したケースはありますが、毎年の気象状況は変わるので、数年間にまたがって実証していただきたいし、その結果として農家が納得できるデータを公開して欲しいと思います。
また、既に導入されている事例そのものは各都道府県が把握しているはずなので、これについても発信していただきたい。農家は情報発信が得意ではありません。私自身も、2014年から千葉県内でソーラーシェアリングを行い、およそ20品目の栽培を手掛けている農家の存在を、最近まで知りませんでした。
―地域の事業ということになると、自治体との関係が重要になると思います。事業者側はどのように自治体と付き合っていくのがいいのでしょうか。
馬上氏:地域における農業に対する考え方を理解することです。農業で十分な利益を出していない地域ほど、ソーラーシェアリングに取り組んでほしいと考えています。また、行政職員も兼業農家であることが多いので、しっかり農業のことを知っておかないと、相談に行っても話を聞いてもらえません。発電事業で儲けるといったことを前面に出してしまうと、行政から不信感を持たれるでしょう。
地域によって、農業政策について行政が強いところと農協が強いところがあります。また、雇用が増えるとよろこばれるということも、ポイントになります。
ソーラーシェアリングは多様な作物に対応できる台風に耐える架台のあり方も課題
―技術面での課題はいかがでしょうか。
馬上氏:ソーラーシェアリングに適した架台というのは、まだ固まったものはありません。昨年の台風でもかなりの地域で被害がありました。設計する側でも、ソーラーシェアリングをきちんと理解しているとは言い難いですし、現在のJIS規格でソーラーシェアリングに合致したものにするのはハードルが高いというのが現状です。しかし、架台のほとんどは中国メーカーなので、台風に耐えるのかどうかを検証するにあたっても、なかなか一緒に取り組みができないという問題があります。
行政側もソーラーシェアリングが黎明期にあることは理解しています。ですから、設計施工ガイドラインも必要でしょう。野立てよりも設計のバリエーションが多く、中にはビニールハウス上に設置するというケースもあります。
2017年以降は架台の強度設計が厳格化されていますが、強度計算書も中国メーカーのものではどこまで厳密に検証されているのかが疑問です。風荷重が高くならない架台パターンもつくっており、確実に台風に耐えるものにはしていきたいですね。
―ソーラーシェアリングは強風による被害を受けやすいということでしょうか。
馬上氏:構造的には、下から吹き上げる風の影響があるため、設計上の考慮が不十分だとパネルは飛散しやすくなります。また、藤棚式の場合、支柱と基礎の接合部分が壊れる事故が多くなっています。他にも、単管だと筋交いの接合部分からも壊れています。杭の地中部分の深度が短いと抜けやすく、アレイ式の架台ごとひっくり返った事例もあります。特に水田の場合、台風の大雨で地面がゆるんだところで共振して壊れることもあり得ます。その対策として、杭どうしを地中部分で横に連結するという対策があります。
令和元年台風15号通過直後の千葉市大木戸アグリ・エナジー1号機。設備に被害は無かった。―積雪対策も必要になるかと思います。
馬上氏:確かに積雪による圧壊事故は起こりました。しかしその反面、農家にとっても冬期に収入をもたらすというメリットもあります。積雪対策としては、スリムタイプのパネルの利用などもあります。
―ソーラーシェアリングに適したパネルはどのようなものでしょうか。
馬上氏:モジュールの大型化が進んでいますが、最近出てきている600W級の大型モジュールだと大きすぎます。高所に持ち上げるのも大変です。今後、450Wサイズは採用していく方針です。
パワコンについてはコンパクト化されているので、その点はいいのですが、架台に直接取り付けようとすると荷重が増えるので、支柱をどのようにしていくかが課題です。
メンテナンスは農作業と両立で
―メンテナンスはいかがでしょうか。
馬上氏:パネルの表面の清掃は農作業の合間にもできます。また、農家の人が電気工事士の資格を取得して簡単な修繕まで対応するケースもあります。希望としては、パネル表面のコケ対策のためのコーティングなどをメーカーにお願いしたいです。
―一般の農地ではなく、耕作放棄地の利用も期待されています。しかし、その場合、再び農地として利用することになります。その点では課題はないのでしょうか。
馬上氏:むしろ耕作放棄地の方が事業を実施しやすいと考えています。工事を行った後に一から農業を再開できるからです。
―ソーラーシェアリングの場合、10年後に農地利用の更新があり、20年後には撤去するというのが前提になっているとききます。
馬上氏:撤去費用はすでにコストとして織り込まれています。また、個人で発電事業を行う際には将来の撤去だけではなく、事業期間中の相続の問題も起こりえます。その点では、個人事業で行うよりも事業主体が法人である方がスムーズです。
―いろいろなお話しをおうかがいしてきましたが、最後に事業性について、一般的にどのように評価されているのか、おうかがいします。
馬上氏:期待される収益率をどう設定するかは、関係する方々の間で認識をそろえておく必要があります。農家の方々からは、アパート経営レベルのIRR(内部収益率)でも十分だと言われることがあります。
しかし、投資家からすれば最低5%は欲しいでしょう。FITで13円/kWhで売電する場合、建設コストは15万円/kWにしなくてはいけません。こうした中に系統連系の工事負担金なども加わるので、そうした点を考えて、事業化していくことが必要です。
(Interview&Text:本橋恵一、前田雄大、小田理恵、Photo:岩田勇介)