よく脱炭素時代は資源獲得競争といわれるが、これは蓄電池も同様だ。
現行のリチウムイオン電池の正極は、コバルトなどのレアメタルを多く含んでいる。これを原子量の小さい軽元素のみから構成される有機材料に置き換えることができれば、質量エネルギー密度の向上に伴う軽量化やレアメタルフリーによるコスト削減、生産時の環境負荷が低く、SDGs(持続可能な開発目標)に即した電池になるなどの効果が期待できると言われている。
そのため有機正極の高性能化や新規物質の探索は近年多くの注目を集めている状況だ。
一方で、有機化合物の総数は10の60乗個ほど存在すると言われている。そのため、そこから電池材料に使用可能な化合物を絞り、全ての化合物の性能を検証することは非現実的である。天文学的数字だからだ。
そこで機械学習を用いた材料探索手法MI(マテリアルズ・インフォマティクス)が注目されているのだが、ここにも課題がある。
一つには学習や探索に必要なビッグデータ(元データ)が容易に入手できないという点だ。
そして2点目に、正極材料は分子構造や材料特性以外にも考慮すべきパラメーターが膨大であるという点が挙げられる。そのため、MIの適用は試みられてこなかった。
それをやったのがソフトバンクだった。
慶應義塾大学との共同研究では、MIと化学的考察を併用して重要度の高い記述子を絞り込む手法により、50個という少ない文献データから優れた外挿精度を持つ電位・容量・エネルギー密度といった性能予測モデルの構築に成功。
しかも、モデル構築にとどまらなかった。
このモデルを用いることで、1,000Wh/kgを超えると予測される、正極材料の候補となる化合物を数種類発見することにも成功したのだ。
出典:ソフトバンク
発見した正極材を試していけば、非常に優れた電池を作り出すことが現実味を帯びる中、ソフトバンクはエネルギー密度にもこだわりを持ち続けている。そこで最後に、質量エネルギー密度520Wh/kgセルの試作実証について解説していきたい。
ソフトバンクはエネルギー密度も寿命も追求・・・次ページ
エネルギーの最新記事