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二酸化炭素を地中へ埋めよう! 欧州CCSの現状は

二酸化炭素を地中へ埋めよう! 欧州CCSの現状は

2021/04/25

カーボンニュートラルに向け、開発が期待されているのがCCS(CO2回収貯留)だ。日本ではこれに「利用」を加えてCCUSということも多い。実現可能性やコスト、環境への影響などの面から、さまざまな議論があるが、欧州でも実用化に向けたプロジェクトが進んでいる。欧州各国の状況について、ドイツ在住のジャーナリスト、熊谷徹氏が報告する。

激動する欧州エネルギー市場・最前線からの報告 第37回

まだ初期段階にあるCCS

エネルギー業界で働いている皆さんは、二酸化炭素(CO2)の分離貯留(Carbon Capture and Storage = CCS)という言葉をご存じだろう。石炭火力発電所、天然ガス火力発電所などからのCO2を地中や海底のタンクに封じ込めることによって、大気中に排出されることを防ぐ技術だ。いま多くの国々で、この技術に関する研究開発プロジェクトが進んでいる。

CCSはまだ初期段階にある。グローバルCCS協会によると、現在世界で26のCCS施設が稼働しているが、これまでに分離貯留されたCO2の量は約4,000万トンにすぎない。これはドイツ一国が2020年に排出した量(7億3,900万トン)の18分の1である。CCSが世界のCO2削減に大きく貢献しているとは、まだ言えない。

2010~2020年の商用CCS施設のパイプライン:CCSの回収容量


世界のCCSの動向 2020年版 グローバルCCS協会より

EUがCCSに多額の資金援助へ

しかしヨーロッパでは、一部の国々でCCSに対する関心が強まっている。欧州連合(EU)は2050年までにCO2など温室効果ガスの排出量を正味ゼロにすることを目指している。この目標を達成する上で、EUはCCSに大きな期待を寄せている

たとえばEUは去年(2020年)7月3日にCCSや再生可能エネルギー拡大、電力蓄積などエネルギーの非炭素化に関する新しいテクノロジーを開発するために、1兆ユーロ(130兆円・1ユーロ=130円換算)を投資することを明らかにした

EUはこの資金をテクノロジーの研究開発を目的とする「イノベーション基金」から、2020年から10年間にわたって調達する。財源は、EUが実施しているCO2排出権取引(EU-ETS)による収入だ。

この日、EUのフランス・ティンマーマンス副委員長は「EUは、水素の活用など、特に製鉄業、セメント製造業、化学産業からのCO2排出量を減らすテクノロジーや、CCS、送電線に関する新技術などの開発プロジェクトを、資金援助する。これらのプロジェクトは、EUが2050年にカーボンニュートラルを達成することに貢献するだろう」と述べ、CO2の分離貯留が産業界の非炭素化の中で重要な役割を果たすという見方を打ち出した。

イノベーション基金の概要


EU-ETSウェブサイトより

工業地帯からのCO2正味ゼロを目指す英国

EUに加盟していない国々でもCCSへの取り組みが始まっている。

英国のクワージ・クワルテン経済エネルギー大臣は今年3月17日に、1億7,100万ポンド(256億5,000万円・1ポンド=150円換算)を投じて、9つのCCSプロジェクトを支援する方針を明らかにした。この資金は、英国研究イノベーション機関(UKRI)の入札によって捻出される。

クワルテン大臣によると、英国政府は2040年までにCO2排出量が正味ゼロの工業地帯を完成させる方針だ。大臣は「英国は、世界で最初に温室効果ガスの排出の大幅削減を法制化した国の一つ。今後は工業部門からのCO2を事実上ゼロにするための努力を進める」と語っている

9つのプロジェクトの内3件は、海底にCO2を貯留するプロジェクトで、6件はスコットランドやイングランド北部の工業地帯で実施されるCO2分離プロジェクトだ。

たとえばリバプールとマンチェスターでは、「ハイ・ネット」と命名されたプロジェクトに3,200万ポンド(48億円)が投じられる。この地域では、天然ガス火力発電所からの電力で水を電気分解して水素を製造するが、発電の際に生じるCO2はリバプール沖のアイルランド海に運ばれ、海底のガス貯蔵庫に貯留される予定だ。


ハイ・ネットウェブサイトより 事業計画マップ

また英国北東部のティースサイドの工業地帯では、設備容量750MWの天然ガス火力発電所から排出されるCO2約2億トンを、毎年海底に貯蔵する計画が進められている。

英国では、今年11月9日から20日にかけて、国連の気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)が開かれる。ボリス・ジョンソン首相は、2050年までにカーボンニュートラルの達成を目指す「緑の産業革命」を進めているが、特に水素エネルギーの活用とCCSに大きな期待をかけている

ノルウェーはCCS大国を目指す

ノルウェーも、CCSに積極的な国の一つだ。同国は、1996年に北海のガス田にCO2の貯留を実施した他、2008年にもCCSの実証プロジェクトを始めている。またノルウェーのエネルギー企業エクイノールは、2017年にフランスの石油会社トタール、英国・オランダの石油会社ロイヤル・ダッチ・シェルとともにCCSプロジェクト「ノーザン・ライツ(北の光)」を始めた。

エクイノールなどは、ノルウェー南西部のヴェストラン郡にCO2集積ターミナルを建設し、そこからパイプラインで沖合の海底のタンクに液化されたCO2を送って貯蔵する方針。タンクは、海底から2,600メートルの地下に設置される。2024年の稼働を目指し、毎年150万トンのCO2を貯蔵する。

エクイノールなどは、「地質調査の結果、ヴァストラン沖の海底には約800億トンのCO2を貯蔵できる。これはノルウェーが毎年排出するCO2の1,000年分だ」と説明している。同社によると、「ノーザン・ライツ」は、産業界からのCO2の大気中への排出量を本格的に減らすための、世界で初めての大規模CCSプロジェクトである。

ノルウェー政府は、2020年に産業界からのCO2を削減するための独自のCCSプロジェクト「ロングシップ」を開始し、エクイノールなどの「ノーザン・ライツ」計画への資金援助を始めた。「ロングシップ」計画によると、政府はノルウェー各地の工業地帯からのCO2を船でヴェストラン郡の集積ターミナルへ輸送する方針だ。

ノルウェー南部のブレヴィクにあるノルセム・セメント工場でも、野心的なCCSプロジェクトが進んでいる。工場の所有者は、ドイツのハイデルベルク・セメント社で、3億ユーロ(390億円)をプロジェクトに投資する。

同社はノルセム工場が毎年排出する約40万トンのCO2を分離して船でヴェストラン郡の集積ターミナルへ輸送し、海底のタンクに貯蔵することを計画している。同社にとって、セメント製造の過程で生まれるCO2の分離貯蔵プロジェクトは世界で初めて。ノルウェーでのプロジェクトが成功すれば、世界中の拠点で実施する方針だ。


ノルセム・セメント工場のCCS解説ビデオ

ドイツがCCSに消極的な理由

ハイデルベルク・セメント社が、CCSプロジェクトをドイツではなく、外国で実施しているのは、ドイツではCCSに対する反対運動が根強いからだ。この国では2012年に「CO2の長期貯蔵のための実験に関する法律」が施行されて、毎年400万トンのCO2を貯蔵する実験を行うことが可能になった。

だが同国の環境保護団体は、「CCSは石炭火力発電所など化石燃料を使う発電所の運転期間を引き延ばすための措置だ」としてこのプロジェクトを批判している。また農民からも「地下に貯蔵されたCO2が万一漏れた場合、農作物や家畜に悪影響が及ぶのではないか」という懸念が出された。グリーンピースのドイツ支部は、「CCSはエネルギー転換には貢献しない」としてこのプロジェクトに強く反対している。

スウェーデンの国営電力会社バッテンフォールの子会社は、旧東ドイツにCCS設備を持つ火力発電所を建設して実験を行っていた。しかし電力コストが割高だったため、同社は2014年に実験を中断。この国では今のところ、CCS技術の研究開発は暗礁に乗り上げている。

ただし、ドイツ政府部内には、「2050年までにCO2排出量を正味ゼロにするには、CCSの実用化は避けて通れない」という見方もある。ドイツ連邦経済エネルギー省は、「ドイツのセメント、鉄鋼、アルミニウム業界が毎年排出する約8,000万トンのCO2は、CCS技術を使わなくては大幅に減らすことはできない」と主張している

物づくり大国ドイツが毎年排出するCO2の量は、欧州で最も多い。EUがCCSを積極的に進めようとしている中、ドイツがいつまでもCCSに消極的な姿勢を続けるかどうか。ドイツ政府は、国民の理解を得るために、CCSについての新たな広報キャンペーンを行う必要があるかもしれない。さらに、CCSの経済性を確保するためには、ノルウェーや英国が行っているように、政府の多額の助成が不可欠になるだろう。

熊谷徹
熊谷徹

1959年東京生まれ。早稲田大学政経学部卒業後、NHKに入局。ワシントン支局勤務中に、ベルリンの壁崩壊、米ソ首脳会談などを取材。1990年からはフリージャーナリストとし てドイツ・ミュンヘン市に在住。過去との対決、統一後のドイツの変化、欧州の政治・経済統合、安全保障問題、エネルギー・環境問題を中心に取材、執筆を続けている。著書に「ドイツの憂鬱」、「新生ドイツの挑戦」(丸善ライブラリー)、「イスラエルがすごい」、「あっぱれ技術大国ドイツ」、「ドイツ病に学べ」、「住まなきゃわからないドイツ」、「顔のない男・東ドイツ最強スパイの栄光と挫折」(新潮社)、「なぜメルケルは『転向』したのか・ドイツ原子力40年戦争の真実」、「ドイツ中興の祖・ゲアハルト・シュレーダー」(日経BP)、「偽りの帝国・VW排ガス不正事件の闇」(文藝春秋)、「日本の製造業はIoT先進国ドイツに学べ」(洋泉社)「脱原発を決めたドイツの挑戦」(角川SSC新書)「5時に帰るドイツ人、5時から頑張る日本人」(SB新書)など多数。「ドイツは過去とどう向き合ってきたか」(高文研)で2007年度平和・協同ジャーナリ ズム奨励賞受賞。 ホームページ: http://www.tkumagai.de メールアドレス:Box_2@tkumagai.de Twitter:https://twitter.com/ToruKumagai
 Facebook:https://www.facebook.com/toru.kumagai.92/ ミクシーでも実名で記事を公開中。

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