これまでEnergy Vaultはソフトバンクなどから資金調達に幾度も成功し、スイスの電力網にも実証実験としてつながっている。
そして今年10月、Energy Vaultは持続可能な航空燃料(SAF)、グリーン水素製造、ディーゼル燃料製造のベンチャー企業であるDG Fuelsと契約したことを発表。DG Fuelsに1.6GWhの蓄電設備を提供することになった。DG Fuelsのグリーン水素製造過程に使われる。
今回の契約は3つのプロジェクトで最大5億2,000万ドルの収益をEnergy Vaultでは見込んでいる。2022年半ばから最初のプロジェクトは始まる予定だ。
DG FuelsがEnergy Vaultを最終的に選んだ理由として、環境やサプライチェーンのリスクがもっとも小さいことが挙げられている。どういうことかというと、このコンクリートブロックは建設現場の堀削土や鉱山の残土、石炭の燃料残渣、また廃棄された風力発電のタービンブレードなどを再利用したものになる。建設材料から非常に環境・フットプリントのことを考えたつくりになっているのだ。しかも、コストも安い。
コンクリートブロックは再生素材だ
リチウムイオン電池などの鉱物資源は必要なく、これもコスト削減に一役買っている。しかも、時間の経過とともにこの位置エネルギーは基本的に劣化しない。電力効率は80%以上であり、揚水式発電の70%前後よりも効率的だ。
さらに発電時の立ち上げ時間も数十秒と揚水式発電よりも短い。再生可能エネルギーの調整力としてはこの立ち上げ時間の短さも重要になってくる。
なによりこの技術は非常に「枯れた」技術で構成されている。ブロックの管理こそデジタルだが、基本的な技術、上に上げて、下ろす、は、17世紀の発見だ。この技術の堅牢性も評価されている。
Energy Vaultは9月に上場を果たし、11月にはEnergy Vault Solutionという技術部門を新たに立ち上げた。AI等を駆使して最適なアルゴリズムでより効率化を目指す。
こうした蓄電技術は再エネの拡大とともに広がりを見せている。海外では2019年以降建設ラッシュがおき、発電設備が2.5倍になった。米国エネルギー省によれば、中国で100GW、米国で52.5GWが数年のうちに設置されるという。
もちろん、こうした蓄電技術は(水素と同じく)「あふれるほどの」再エネがあってその価値を発揮する。しかし、日本でも、出力制限を繰り返す九州や北海道などで十分利用価値があるのではないだろうか。九州電力では2.3GW分の揚水式水力発電が利用できるというが、まったく足りていない。
揚水式水力発電よりも建設コストが安く、リチウムイオン電池よりも環境にやさしく低コスト、建設も容易でスケーラブルなこの重力蓄電。日本でもこれから脚光を浴びるかもしれない。
エネルギーの最新記事