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脱炭素競争、負ければ日本から鉄鋼業界が消える?! 世界一の復権目指す鉄鋼メーカーの取り組みとは

2022年03月14日

脱炭素は日本の製造業の復活につながる

日本鉄鋼連盟の橋本英二会長(日本製鉄社長)は2月21日に開催された経済産業省の審議会(第11回 産業構造審議会 製造産業分科会)において、脱炭素が鉄鋼業、ひいては日本の製造業の復活につながると語った。

「これまでの日本の企業物価が安すぎた。このことが日本の製造業を弱くし、今の低賃金をもたらした。そのきっかけはゴーンショックだった」と振り返る。1999年、日産自動車のカルロス・ゴーン社長(当時)が鋼材調達先を入札制に切り替えたことを受け、鉄鋼各社は激しい価格競争を繰り広げた。「当時、日本の高炉メーカーは6社あり、余剰能力を抱えていた。ゴーンショックで一気に過当競争が進んだ。最初こそお客さまに喜ばれたが、結局、お客さまの製品価格の多くも適正割れをした」。

橋本氏は2019年4月に日本製鉄の社長に就任すると、内外に向かって「余剰能力を削減し、価格を適正に戻す。企業物価をもとに戻す」と宣言した。この言葉どおり、トヨタ向け鋼材など次々に値上げを実施。橋本氏は次のように語る。「取引先から値上げがきついと言われるが、企業物価が安すぎると何が起こるのか。カーボンニュートラルで化石燃料含めて、すべてのエネルギー、資源価格が高騰する時代に入った。今のように日本だけが安い企業物価では、いずれ海外からエネルギー・資源を買えなくなる」。

「カーボンニュートラルを実現する技術を確立しても、売り上げが見込めなければ資金を呼び込めないという意見があるが、すでに脱炭素は製造業の世界で競争の前提になっている。これまではモノがよく、価格が適正であれば採用されたが、今は真っ先に脱炭素かどうかが問われる。脱炭素であれば、品質が多少悪くても、価格が高くても、お客さまは積極的に買うことで、自らの企業のレピュテーション(評判)をあげ、製品価格を上げていくというサイクルが回っている」。

脱炭素に取り組んでも、日本製鉄のPBR(株価純資産倍率)は0.57倍と低い。株式市場で評価されていないという意見に対して、「今は利益を上げ、配当利回りが高ければ株価が上がる時代じゃない。株価が上がらない理由ははっきりしている。CO2をたくさん排出しているからだ。脱炭素に取り組むというが、すべてのロードマップを開示できていないため、本当にできるのか? という投資家心理がある」と話す。

日本製鉄はじめ国内高炉メーカーが過去最高益を上げるのに反し、株価は重い。その中で、ここ1年半で株価が倍増した企業がある。日本製鉄グループの山陽特殊製鋼だ。その理由も単純だ。山陽特殊製鋼傘下のスウェーデンのオバコ社が2022年1月から、CO2実質ゼロの特殊鋼の販売をはじめたからだ。「カーボンフリーの価値を上乗せしてお客さまに提示しても、ネゴなしで受け入れられる。これを拒否することはヨーロッパ社会の中ではあり得ない。そもそもコストアップを受け入れても、十分に自社製品に転嫁できる素地がある」という。

日本はこれまで賃金が上がらないために需要が弱く、企業は原料高を転嫁できない状況が続いてきた。その結果、利益が伸びず、賃金も上げられないという循環から抜け出せないでいる。だが、脱炭素は、日本の企業物価の上昇につながるという。企業収益が上がれば、賃金の引き上げにもつながり、消費が拡大する。

橋本会長は次のように語る。「脱炭素を他国に先駆けてやらない限り、資金調達もできないし、株価も上がらない。開発力は図体の大きさではない。日本は何も資源のないところで、今まで歯を食いしばり、開発力を磨いてきた。いまだに開発力は世界一だ。しっかりとした国の(資金援助などの)政策パッケージが示され、鉄の価格が上がるということが国民に浸透していくのなら、日本の鉄鋼業は世界トップで脱炭素にゴールし、世の中に役立つ産業であり続けられるだろう」。

 

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藤村朋弘
藤村朋弘

2009年より太陽光発電の取材活動に携わり、 その後、日本の電力システム改革や再生可能エネルギー全般まで、取材活動をひろげている。

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