なぜグレタさんは飛行機に乗らないのか。生活からのCO2排出量測定がドイツでは流行中。 | EnergyShift編集部

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なぜグレタさんは飛行機に乗らないのか。生活からのCO2排出量測定がドイツでは流行中。

なぜグレタさんは飛行機に乗らないのか。生活からのCO2排出量測定がドイツでは流行中。

2019/12/17
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激動する欧州エネルギー市場・最前線からの報告 第13回

気候危機、気候保護への関心はヨーロッパと日本では大きく違う。それは、国民の意識の問題だけでなく、仕組みの問題でもある。常に自分のCO2排出量を気にしたり、交通、特に飛行機の温暖化への影響を市民が考えることができる仕組みがいろいろとある。ドイツ在住のジャーナリスト、熊谷徹氏がヨーロッパの取り組みを詳しく解説する。

飛行機に乗らないグレタさん

スウェーデンの環境活動家グレタ・トゥンベリさん(16歳)は、飛行機に絶対に乗らない。フライトによって大気中の二酸化炭素(CO2)の量が増えてしまうからだ。彼女は、欧州の他の国で会議やデモに参加する時には、必ず電車を使う。たとえば今年1月、スイスのダボスで世界経済フォーラムが開いた会議に出席した時には、スウェーデンから電車で32時間かけて現地に到着した。

グレタさんは今年9月にニューヨークで開かれた国連の環境会議に出席する際にも、ヨットで2週間かけて米国に渡った。その際にも、発電のためにディーゼルエンジンを搭載したヨットは使わなかった。このヨットは、太陽光発電パネルと波の力によって電力を調達していた。

グレタさんのtwitterより。スペインからドイツを通ってスウェーデンへ列車で帰る途中。

グレタさんは菜食主義者で、肉類を食べない。家畜が出すメタンガスは、温室効果ガスのひとつだからだ。両親もグレタさんにならって、旅客機の利用をやめ、菜食主義者になった。

彼女が自分の生き方を通じて世界中に発信しようとしているのは、「CO2を減らして気候変動に歯止めをかけるには、政府や企業だけではなく、私たちひとりひとりが生活の仕方を変えることが重要だ」というメッセージだ。もちろん、グレタさんは飛行機に乗るのをやめるよう強制しているわけではない。私たちの日常生活からCO2が出ていることを市民が意識し、行動の必要があることを理解してほしいと訴えているのだ。

気候保護への高い関心

欧州、特に私が住んでいるドイツでは、国民の地球温暖化や気候変動についての関心が日本よりもはるかに強い。そのことは、ドイツの新聞やテレビでCO2削減に関するテーマが取り上げられる頻度が、我が国をはるかに上回っていることにも表れている。

この国では、気候保護(Klimaschutz)という言葉を頻繁に聞く。メディアや政治家がこの言葉を使わない日は、ほとんどない。気候保護は日本ではあまり馴染みがない言葉だが、政府や企業などがCO2の排出量を減らすことにより、気候変動に歯止めをかけようとする努力を指す。多くの人々が、気候保護に貢献するにはどうしたらよいかということを日々考えている。

グレタさんの生活態度に影響されて、スウェーデンやドイツでは「飛ぶことの恥(スウェーデン語でflygskam、ドイツ語でFlugscham)」という言葉もよく聞かれるようになった。出張やバカンスのために飛行機を使うと大気中のCO2が増えるので、良心の呵責を覚えるという意味だ。

ちなみに最近航空会社のウェブサイトで売られているチケットの中には、フライトから排出されるCO2を相殺できる料金メニューもある。航空会社は料金の割り増し分を、植林などの環境プロジェクトに投資する。乗客はこの切符を買えば、少なくとも良心の呵責を和らげることができる。ドイツの航空会社ルフトハンザは来年1月から企業の出張者向けの料金メニューにも、CO2ゼロの航空券を導入する。企業はルフトハンザとこの契約を結べば、全ての社員の出張についてCO2を相殺できる。

ルフトハンザのサステナブル航空燃料(SAF)プラットフォーム「コンペンセイド(COMPENSAID)」ウェブサイト

自分の暮らしから出るCO2の測定が流行

こうした中、ドイツでは自分の生活から排出されるCO2の量を計算して、どうすれば排出量を減らせるかを考える人が増えている。
ドイツ連邦環境局(UBA)やバーデン・ヴュルテンベルク州環境省、自然保護団体「ネーチャーファンド」などは、ウェブサイト上にCO2排出量の計算ページを公開している。

筆者もこのページを使って自分のCO2フットプリント(足跡)を計算してみた。この作業はあまり簡単ではない。CO2排出量を計算するには、自分の生活に関する様々なデータを入力しなくてはならないからだ。データを入れるには、結構時間がかかる。

UBAはCO2排出源を暖房、電力、モビリティ、食生活、消費の5項目に分けている。まず電力についての質問を見てみよう、太陽光や風力など再生可能エネルギーだけを使った電力を買っていればCO2排出量はゼロになる。逆に石炭や褐炭火力発電による電力を使っていると、CO2排出量が増える。私は電力会社から送られてきた2018年の電力消費量約2,280kWhを入力した。

ドイツには、ハンブルクの「リヒトブリック」など再生可能エネルギーだけで作った電力を売る電力販売会社が多数あるので、エコ電力100%という契約を結ぶことは、簡単だ。

また太陽光発電パネルや風力発電プロペラなど発電設備を持っている消費者は、年間発電量と、その内自分で消費する電力量を打ち込む。

暖房の項目では、賃貸住宅に住んでいるか、持ち家か貸家か、暖房設備の種類(電気、ガス、石炭、灯油、地域暖房、再エネ、ヒートポンプなど)、家族の人数や1年間の暖房の使用量、アパートもしくは家が建てられた年を入力しなくてはならない。

21世紀に建てられたアパートに住み、スチームの地域暖房を使っている人はCO2排出量が少なくなる。最近10年間に建てられたアパートでは、窓の密閉性が高く、暖房効率が非常に良い。床下に設置した管に温水を通し、足下から部屋を暖める床暖房のアパートも増えている。

逆に灯油の暖房設備を使う一戸建ての家に住んでいる人は、CO2排出量が多くなる。

UBAの計算ページで重要なのが、モビリティつまり交通に関するデータだ。ここでは車が内燃機関を使っているか、電気モーターを使っているか、1年間の走行距離を記入する。電気自動車やハイブリッド車に乗っている市民は、ガソリンエンジンやディーゼルエンジン搭載車を使う人よりも、CO2排出量が少ない。通勤などに自転車しか使わない人は、CO2排出量がゼロだ。内燃機関を使う車の場合、燃費も入力する。

バスや地下鉄など、公共交通機関を使う距離も入力しなくてはならない。さらに毎年の飛行機の搭乗時間、飛行機の利用が欧州域内だけか、それとも欧州・アジア間などの長距離便かについての質問もある。飛行機については、エコノミークラス、ビジネス、ファーストクラスの区分も記入する。また、航空券を買う時に、CO2排出量を相殺するための割増価格が含まれているチケットを買うかどうかも、入力する。

温室効果ガスを出すのは交通機関だけではない。菜食主義者であるか、もしくは肉を食べるかどうかについての質問もある。また購入する食品が住んでいる地域の近くで生産された物か、遠隔地で作られた物かという質問がある。地産地消型の消費生活は、輸送のために出るCO2が少なくなるからだ。さらに冷凍食品をよく食べるかどうかについての質問もある。冷蔵庫の電力消費量を左右するからだ。

また、毎月の消費にいくら支出するかも、入力しなくてはならない。製品を作る過程でCO2が排出されることから、ショッピングが好きで消費支出が多い市民も、CO2排出量が多いと見なされる。逆に中古品を好んで買う市民は、CO2排出量が少ないと見なされる。

CO2排出量を知ることが第一歩

さてUBAによると、ドイツ人の生活によって1年あたりに排出されるCO2は、平均11.6t。私の場合は16.1tで平均を39%も上回ってしまった。

筆者は飛行機を使うことが多いので、CO2年間排出量がドイツ人の平均を大幅に上回ってしまった。(ドイツ連邦環境局のウェブサイトで計算)

その理由は飛行機だった。ジャーナリストという仕事の関係で、日独間を往復するなど飛行機に乗る頻度が高いので、交通手段に関するCO2排出量が多くなってしまったのだ。これに対し暖房や消費電力、消費からのCO2は、ドイツの平均よりも少なかった。

これに対し、私の知り合いのSさんは、環境意識が高いドイツ人の典型だ。休暇の旅行では飛行機に乗らず、電車を利用するか、自転車でサイクリングに行く。マイカーも持っておらず、職場には自転車で通勤する。痩せるために、肉は食べない。彼の生活からのCO2排出量は私の半分以下の6トンだった。

興味深いのは、多くのドイツ人がこのページを使って、自分の暮らしが出すCO2排出量を実際に計算していることだ。こうした態度は、市民の気候保護への関心が高いことを示している。

欧州企業の間では、飛行機を使った出張に関する態度が分かれている。「顧客との面談は欠かせないので、社員に飛行機の利用を減らすよう指示するつもりはない」という会社が大半だが、「なるべくビデオ会議を利用することによって、飛行機を使った出張を減らす」という企業もある。

ドイツ人サラリーマンからは、「出張で利用する旅客機からのCO2を会社が相殺してほしい」という意見も聞かれる。

筆者は、UBAの計算ページの最大の効用は、教育効果だと思う。まず自分の暮らしによるCO2排出量を知らなければ、どのように生活態度を変えれば、気候保護に貢献できるかがわからない。このページを利用すると、市民は自分の日常生活のどの部分がCO2を増やしているかを学ぶことができる。

日本の環境省も、このような計算ページを公開してみてはどうだろう。そうすれば、市民の間でCO2削減の重要性について意識を高めることができるのではないだろうか。

熊谷 徹
熊谷 徹

1959年東京生まれ。早稲田大学政経学部卒業後、NHKに入局。ワシントン支局勤務中に、ベルリンの壁崩壊、米ソ首脳会談などを取材。1990年からはフリージャーナリストとし てドイツ・ミュンヘン市に在住。過去との対決、統一後のドイツの変化、欧州の政治・経済統合、安全保障問題、エネルギー・環境問題を中心に取材、執筆を続けている。著書に「ドイツの憂鬱」、「新生ドイツの挑戦」(丸善ライブラリー)、「イスラエルがすごい」、「あっぱれ技術大国ドイツ」、「ドイツ病に学べ」、「住まなきゃわからないドイツ」、「顔のない男・東ドイツ最強スパイの栄光と挫折」(新潮社)、「なぜメルケルは『転向』したのか・ドイツ原子力40年戦争の真実」、「ドイツ中興の祖・ゲアハルト・シュレーダー」(日経BP)、「偽りの帝国・VW排ガス不正事件の闇」(文藝春秋)、「日本の製造業はIoT先進国ドイツに学べ」(洋泉社)「脱原発を決めたドイツの挑戦」(角川SSC新書)「5時に帰るドイツ人、5時から頑張る日本人」(SB新書)など多数。「ドイツは過去とどう向き合ってきたか」(高文研)で2007年度平和・協同ジャーナリ ズム奨励賞受賞。 ホームページ: http://www.tkumagai.de メールアドレス:Box_2@tkumagai.de Twitter:https://twitter.com/ToruKumagai
 Facebook:https://www.facebook.com/toru.kumagai.92/ ミクシーでも実名で記事を公開中。

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