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脱炭素に向けた企業間連携は独禁法違反か? グリーンと競争法をめぐる新たな指針づくり、日本でも検討はじまる

2022年04月06日

欧州では、脱炭素はカルテル適用除外の方向に

脱炭素に取り組む企業に独禁法をどう適用すべきか、見直し議論を先行するのが欧州だ。

オランダでは2013年、2050年までのCO2排出量80〜90%削減(当時)に向け、複数の発電事業者が1980年代に建設された5つの石炭火力発電所を閉鎖することで合意した。しかし、オランダ当局は、エネルギー生産能力が減少し、電力購入価格が上昇するため、カルテル禁止に抵触すると判断。合意は破棄された。

この判断に対し、発電事業者のみならず、環境保護団体などから競争政策がグリーン政策の障壁になっていると批判が噴出。脱炭素に向けた世論の高まりを受け、オランダ政府は2020年7月、新たな競争政策におけるガイドライン草案を公表した。欧州競争法では、カルテル規制に抵触する企業間の共同行為が、競争法上の適用除外になるためには満たすべき4つの要件があると規定されている。そのひとつが、共同行為によって、消費者が得る利益が、共同行為によって消費者が受ける損失を完全に埋め合わさなければならないという条件だ。

しかし、オランダのガイドラインでは、企業間の合意が環境被害に関するものであり、かつ、国際基準の遵守や政策目標の実現を支援する場合、欧州競争法の基本原則を逸脱する十分な理由があるとした。つまり、共同行為によって消費者が受ける損害を完全に埋め合わせる必要はないと規定したのだ。

このガイドラインはまだ草案段階だが、オランダ当局は2022年2月、競合企業同士の取り組みはカルテル規制に違反しないと2つの事例を認めた。ひとつが風力発電電力の共同購入であり、2つ目がCO2排出価格の配電事業者間合意だ。

ドイツでは、風力タービンや船舶で使用されるすべり軸受の生産統合に対し、2019年1月、ドイツの連邦カルテル庁が競争上の不利益の観点からいったんは禁じた。しかし、2019年8月、経済エネルギー大臣は「合弁事業が再生可能エネルギーの導入や大型船舶用エンジンの燃料消費量を削減できる」と一転して承認した。

オーストリアは2021年9月、競争法を改正し、脱炭素への貢献がカルテル規制の適用除外の考慮要素になると法律上に明記した。

一方で、脱炭素の分野であっても、競争がイノベーションを促進することは普遍的だ。特に企業が環境に配慮しているかのように見せかけるグリーンウォッシュや、ハードコア・カルテルに対してはどの国も厳正に対処している。欧州委員会は2021年、ダイムラーなど独自動車メーカー5社がディーゼルエンジンの排ガス制御技術開発において、優れた浄化性能の開発が可能だったにもかかわらず、談合を通じて競争が抑制され、開発を怠ったとして、カルテルと認定した。グリーンを隠れ蓑に、消費者利益やイノベーションを阻害する企業間連携は今後も厳しく取り締まられる

脱炭素は、日本の産業競争力の根幹を担ってきた鉄鋼や化学、セメント、紙・パルプなどの素材産業に、サプライチェーンのつくり直しなどを迫っている。こうした産業が萎縮せず、グリーンに取り組むためにも、どのような行為であれば独禁法に抵触しないのか。条件などを明確化し、ガイドラインを策定する必要がある。研究会では、欧州などから知見を集め、脱炭素時代において競争法をどのように適用していくのか、整備をおこなっていく予定だ。

 

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藤村朋弘
藤村朋弘

2009年より太陽光発電の取材活動に携わり、 その後、日本の電力システム改革や再生可能エネルギー全般まで、取材活動をひろげている。

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