5月12日、農林水産省は農業分野における脱炭素の中長期的な取り組みをとりまとめ、公表した。農林水産大臣を本部長とする「みどりの食料システム戦略本部」の第3回会合で報告された。
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5月12日、農林水産省は農業分野における脱炭素の中長期的な取り組みをとりまとめ、公表した。農林水産大臣を本部長とする「みどりの食料システム戦略本部」の第3回会合で報告された。
それによると、日本の2050年カーボンニュートラルへ向けての工程表が広範に提案されており、2050年までの工程表も示されている。エネルギー利用だけではなく、有機農業を広げることや食品ロス、サプライチェーン、輸送時の脱炭素など、非常に幅広い提案内容となっている。
農林水産分野における日本の温室効果ガスは5,001万トン。そのうち、燃料燃焼によるCO2は34.3%、1,668万トンCO2になる。
農林水産分野の温室効果ガス排出の現状(2017年度)
出典:温室効果ガスインベントリオフィス(GIO) 2020年12月農林水産省資料より
このグラフにあるように、農林水産分野における「温室効果ガス」は、二酸化炭素だけではない。最近知られるようになってきた牛のげっぷや水田の微生物などによるメタンガス(CH4)、土壌などからの一酸化二窒素(N2O)等も問題になってくる。
今回の「みどりの食料システム戦略」においては、前述のように広範な提案が盛り込まれているが、本稿では特にCO2とエネルギー関連について取り上げる。
農林水産分野でのエネルギーによる脱炭素のテーマだけでも多岐にわたるが、大きくはエネルギー使用時の再エネ化(農機具や船舶燃料、輸送時など)と、エネルギーの生産(ソーラーシェアリング・営農型太陽光発電など)にわけられる。
まず、エネルギー使用時のCO2排出だ。農機具はまだディーゼルのものも多く、船舶にも化石燃料は多く使われている。また、ビニールハウスでの温室栽培でもまだ化石燃料が多く使われている。
戦略本部案では、エネルギーによるCO2排出の数値目標として2040年までに農林業機械・漁船の電化・水素などに関する技術の確立を目指し、2050年までに農林水産業のCO2ゼロエミッション化の実現を目指すとある。農林水産省の補助事業については2040年までのカーボンニュートラルを目指す。
温室効果ガス削減に向けた取り組みを見ると、2020年代は省エネ型施設園芸設備の導入、2040年代には農山漁村に適した地産地消型エネルギーシステムの構築、農林業機械・漁船の電化・水素化とある。つまり、農業機械や漁船の電化、水素化は2040年以降となっている。
たとえば軽トラックに変わるEV軽トラックは2012年から2017年まで三菱から「ミニキャブMiEVトラック」が販売されていた。バッテリー容量は10.5kWh、約100kmの走行が可能。ただし、150万円を超えるガソリン車の約2倍の価格が壁となり、普及には至っておらず、販売はすでに終了している。トラクターなどの農機はぬかるみなどを走る必要があり、乗用車よりも大出力が求められる。コストと技術の面から、まだ実証段階だ。
現在、農機メーカーはこれを商機と捉え、研究に力を入れはじめている。クボタや井関農機は水素トラクターや電動トラクターの開発に注力をはじめた。
クボタは2021年にリチウムイオン電池による電動トラクタ、ミニバックホー(ショベルカー)をすでに発表している。リリースではフランスのディーゼル車乗り入れ禁止(2024年)を見据えて現地ニーズを考慮したとある。公園などでの工事、運搬を想定しているようだ。2021年3月には欧州に研究開発拠点を新設した。
井関農機は2010年から愛媛大学と電動トラクターの共同研究を進め、導入を進めている。2022年には欧州向けに電動化の草刈り用小型トラクタを試作販売、2024年までに量産化する計画だ。EVだけでなくFCV等も含めた幅広い検討をしている。
2020年12月にトヨタ自動車や岩谷産業が立ち上げた「水素バリューチェーン推進協議会」には、クボタ、井関農機、ヤンマーHDも参加している。
そのヤンマーは水素燃料による船舶の開発も進めている。今年3月には船舶用水素燃料電池システムの実証実験をはじめた。この船舶にはトヨタ自動車MIRAI用の燃料電池ユニット等を組み合わせたという。
国内で初めて国土交通省の「水素燃料電池船の安全ガイドライン」にも準拠した。
舶用燃料電池システム実証試験艇 ヤンマーニュースリリースより
エネルギーをつくる側にも戦略本部案は踏み込んでいる。工程案ではソーラーシェアリングの農業活用はすでに実証は終わり、2020年から社会実装としている。
また、前述の2040年から2050年までの「農山漁村に適した地産地消型エネルギーシステムの構築」(VEMS=Village Energy Management System)については、VPPやマイクログリッドによる水素利用(MCH等)が昨年5月の農林水産省資料にある。
つまり、農山漁村での電力システムは、ソーラーシェアリングで発電した電力をマイクログリッドVPPで構築するということではないだろうか。その蓄電方法としてはバッテリーや水素を考えていると読める。
ほかにもビッグデータ、AIによる農漁業の効率化も挙げられており、2030年代後半から社会実装と提案されている。
ただし、この戦略案はまだおおまかな目標を網羅したもので、具体策や細かな数値はまだでていない。やるべきこと、方策のアイデアは非常に多いが、実証実験もまだこれからというものが非常に多い。5月12日の会合での野上浩太郎農相も「研究開発の推進など戦略の具体化を進めてほしい」と述べている。
中長期の工程表を見てもわかるように、農業分野の脱炭素化はまったなしだ。クボタなどが欧州市場を目指しているように、日本の農漁業の脱炭素化はまだはじまったばかりだ。
(Text:小森岳史)
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