前編では、Envision Digitalがどのような企業なのか、そのミッションや技術を中心に語っていただいた。後編では、日本において、どのような貢献をしていくのか、こうした点についてフォーカスする。前編に引き続き、代表取締役社長の栗原聖之氏に、日本市場への想いを語っていただいた。
(前編はこちら)
-どのような場面で利用されているのでしょうか。具体的なケースを教えてください。
栗原聖之氏:例えば、EV(電気自動車)が少しずつ普及していますが、その利用法としてV2G(EVから送電網への放電)が注目されています。EVのデータを分析し、充放電のやり方を変えることで、EVが搭載している蓄電池の寿命を伸ばすことができます。
実際に、日産リーフをはじめとするEV50万台、8,400万のセルに関するデータを10年間にわたって取得し、充放電と寿命に関する知見を蓄積しており、これを適用することができます。
もちろん、定置用の蓄電池にもこうした技術が応用されています。
また、限られた電力網の容量を有効に活用し、EVへの効率的な充電を行うこともできます。
実際に、中国の上海にあるMicrosoft ZizhuというR&D施設と共同で、EVの充電器を7台から27台に増設するにあたって、電力網の容量という課題を解決してきました。そこでは、EVの日々の走行距離を計算し、通勤に必要なだけ充電するようにAIoTが管理する充電器を導入しました。これらの充電器は夜間に稼働し、施設のエネルギー需要の削減に役立っています。
また、太陽光発電の発電量予測のための気象予測のAIoTのソフトウェアを活用し、蓄電のタイミングを最適にするシステムを実現しました。こうした取り組みにより、施設の持つ電力網の容量を実質的に10倍に拡大させています。また、年間で9万6,000ドルのコスト削減や5%のエネルギー効率向上なども実現しています。
Envision Digital Japan 栗原聖之代表取締役社長
― デジタル化という点では、VPPソリューションが注目されています。
栗原氏:当社の代表的なソリューションが、「Connected Energy Management Suite(CEMS)」です。さまざまな事業所において、導入されている発電設備や再エネ、蓄電池、EVなどをとりまとめ、AIで最適な運用をするだけではなく、市場参加もAIが行うというものです。
また、先程EVについてお話ししましたが、スマートEV充電は「EnCHARGE」というサービス名で提供しています。V2Xを通じてEVを電源に変えることができますし、施設内の太陽光発電や建物のエネルギー需要管理を組み合わせて、需要抑制することができます。AIによって、需要と供給をマッチングさせていくことがポイントです。
AIがEVの運用と天候を分析し、アルゴリズム化することで、再エネの動きがわかります。
また、AIとIoTのOSとして、EnOSを提供しており、これによってさまざまなソリューションが動きます。
― 日本法人を設立し、本格的に日本市場に参入されるわけですが、どのようなアプローチを考えているのでしょうか。
栗原氏:日本は2030年代半ばにガソリン車を廃止する計画です。2030年までにエコカーの普及率を50%から70%に引き上げることが目標で、ハイブリッド車(HV)以外にEVの普及にも積極的に取り組むということです。しかしこの目標は、海外と比べると意欲的とはいえないのではないでしょうか。
世界を見渡すと、エネルギーはすでに、1MWhあたり5ドル以下と、かつてないほど安価になりつつありますし、持続可能性を追求する技術の可能性も広がっています。
エネルギーの円滑な移行を行っていくためには、国と民間で連携しなければいけない4つの主要分野があります。
1つは、地政学に関するもので、エネルギーの独立性です。政府は必要なエネルギーを安定供給していくために、再生可能エネルギーという天然資源と、それを活用していくための技術としての知的財産に基づいて、エネルギー戦略を策定する必要があります。
2つ目として、金融があります。日本経済は2020年におよそ4.8%縮小しました。しかし、国際再生可能エネルギー機関(IRENA)によると、パリ協定を達成するためには、世界全体で、年間7,000億ドルの投資が必要であり、これは現在の投資を倍増させることになります。投資を促進させるためには、公的な補助金が必要ですし、持続可能性を追求するためには、長期的視点に立ったビジネスモデルを確立することが必要です。日本政府もまたこうした支援を行っていくことが、投資家や企業に対して必要となっています。
3つ目は社会のあり方です。従来のガソリン車よりもEV、化石燃料よりも再エネや蓄電池に対応した人材の育成が重要です。
4つ目が技術です。再エネの割合が30%を超え、消費者や企業の分散化が進み、EVが当たり前になってくると、送配電網が弱点になってきます。再エネのインテリジェントな発電、消費効率、そしてAIoTによって供給が制御されるスマートで柔軟な蓄電システムがなければ、送配電網がボトルネックとなり、再エネの開発の遅延やコストの増加、そして持続不可能な送電線の利用へとつながっていきます。
我々は、資金調達やソリューションを提供していくためには、大きな推進力が必要だと考えています。エネルギー、都市開発、輸送などの重要なセクターにおいて、炭素回収技術や低炭素代替エネルギーの商業化を加速させ、さらに脱炭素化への道筋にそって進めていくことが、我々にとっての「推進力」となります。
日本においても、官民一致でこうしたことに取り組んでいくことができれば、脱炭素を適切なスケールとスピードで実現することができると考えています。
こうした形で、日本のインフラをサポートしていきたいと考えています。
(Interview&Text:本橋恵一、Photo:山田亜紀子)
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