カーボンニュートラル、あの会社はこうしている(1) ダイキン工業株式会社の場合 前編 | EnergyShift

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カーボンニュートラル、あの会社はこうしている(1) ダイキン工業株式会社の場合 前編

カーボンニュートラル、あの会社はこうしている(1) ダイキン工業株式会社の場合 前編

2022年03月28日

ダイキン工業は、世界最大の総合空調メーカーだ。日本だけではなく、世界100以上の生産拠点を持ち、グローバル売上高は3兆円にせまり、世界No.1を誇る。世界シェアは一割。そんなダイキンは、空調の会社であるからこそ、気候変動に対して独特な立場にある。

気候変動への適応と、気候変動の緩和

エアコンは、当然ながら工業製品であり、製造時に温室効果ガスがでる。古くからオゾン層破壊や温暖化への影響があるといわれているフロンガスも使用する。

一方で、空調は気候変動の被害者になくてはならないものだ。熱波が襲うようになった地域では、今まで不要だったエアコンが求められるようになった。例えばシンガポールでは、エアコンがなければ経済発展がなかったといわれている。

研究によれば、北米やヨーロッパのような生活では、ひとは人生の90%を建物の中で過ごしている。アラブのような国では、99.9%が屋内になるという。気候変動の影響で、建物内の温度管理が以前に比べて求められるようになると、当然のように、エアコンの需要は増える。IEA(国際エネルギー機関)の予測によれば、エアコンの市場は2050年までに3倍になる。

世界の空調機の市場ストック台数と電力需要


出典:ダイキンの資料をもとに編集部再編集

空調産業が成長することは企業にとっていいことだが、比例して温室効果ガス排出量も増え、脱炭素への取り組みも増加する。これが空調産業の悩みだ。ダイキンは、これからの空調ビジネスには適応と緩和の両方が必要だという。

適応とは、空調によって健康的な生活が送れるということ。緩和とは、空調産業によって地球温暖化が促進されないように温室効果ガスを減らすということだ。

空調におけるカーボンニュートラルの難しさ

2021年に発表した戦略経営計画「FUSION25」では、改めて2050年にカーボンニュートラルをめざすと発表した。しかし、非常に難しいのはやはり事業成長の伸びだ。CO2排出量をこれ以上増やさないようにするためには、最低でも2025年に3割、2030年に5割以上、BAU比で削減しないと、ダイキンの掲げるカーボンニュートラル目標には近づけない。

空調のライフサイクル(LCA)でのCO2排出量はダイキンだけで年間3億トンを超える。このうち、上流は1%、自社工場での排出も1%。なんと、残りの98%が使用時と廃棄時で、これがCO2排出の大部分を占める

実は、世界の空調産業全体で、機器使用時のCO2排出量は約20億トン。その1割、約2億トンのCO2がダイキン製品の使用時に排出されている。ちなみに、世界の電力使用由来のCO2は約200億トン。そのうちの1割が実に空調で占められており、世界の電力使用からみると、ダイキンだけで1%のCO2排出量になる。使用時のCO2排出量のうち、エネルギー起源が21,763万t-CO2、フロン類は1,771万t-CO2だ。


出典:ダイキン

「弊社が一番貢献できるのは製品開発で使用時のエネルギー効率を上げることです。顧客にお願いできるのは、使用電力のグリーン化、再エネ化と、建築における断熱です。この3つが合わさって、当社製品の使用時CO2になっている。社会の動きも再エネ利用や建築の省エネは広がっていると感じます」(ダイキン工業 CSR・地球環境センター室長、藤本悟氏)。

ダイキンは家庭用エアコンだけでなく、業務用の売り上げ比率も高い。業務用エアコンを使用する企業ユーザーの意識の変化も必要になる。ダイキン全体のスコープ3(使用時GHG)を下げるには一般家庭だけではダメなのだ。さらに、企業はITなどを使ったエネルギーマネジメントを導入しやすいこともある。将来的にはDR(デマンドレスポンス)にも対応できる。企業の再エネ導入、コーポレートPPAなどがもっと普及すれば、もちろん企業ユーザーの使用時CO2は下がる。

2010年時と比べると、すでに家庭用では19%、業務用では26%、LCAでのCO2削減を達成しているが、カーボンニュートラルにはさらなる環境製品の開発が必要になる。今までの研究開発は使いやすさ、コスト面での省エネなどが重視されてきたが、これからはCO2削減を重視した研究開発も必要になってくる。

スコープ3算出方法も改善が必要になる。「エアコンの使い方は千差万別です。一定の温度を超えるとエアコンをつけるだろうという予測から計算をしているのですが、そのため、スコープ3の数値は上ぶれしていると考えています。メガデータを解析することで、精度の高いCO2排出量の算出ができないか、産総研と共同研究をしています。現在、多くの企業でスコープ3の計算は弊社と同じだろうと思いますが、将来的にはもう少し実態ある数値に変えていかなければならない」(藤本氏)

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小森岳史
小森岳史

EnergyShift編集部 気候変動、環境活動、サステナビリティ、科学技術等を担当。

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