経済産業省は8月31日、2022年度予算の概算要求を発表した。2050年脱炭素の実現に向け、再生可能エネルギーの最大限導入に1,322億円、EV(電気自動車)の本格普及に690億円を計上するなど、脱炭素に7,586億円を要求した。要求総額は1兆4,026億円となり、2021年度当初予算比11.9%増となった。
経産省は、世界的に不足する半導体の生産強化やEVの本格普及、そして水素、洋上風力などに重点配分することで、経済成長に向けた産業構造の転換を促し、脱炭素を達成する方針だ。
2030年46%削減目標の実現に向けては、他の再エネ電源に比べて比較的開発が容易な太陽光発電の大量導入が欠かせない。経産省では現状の導入量55.8GWを2030年までに2倍近くとなる100GWまで増やす方針だ。だが、太陽光発電の導入量はここ数年伸び悩んでおり、2020年度の導入量は1.5GWにとどまる。2021年度も同水準が見込まれている。
大規模な発電所を開発できる適地が減り、さらに自然環境や景観が損なわれることへの懸念から、地域住民が反対するケースが増加していることが背景にある。
そこで、経産省では太陽光発電の導入に向け新たな補助金を設ける。自家消費を促すため、民間企業などを支援する。80億円を計上した。
再エネの切り札と位置づける洋上風力には75億円投じ、研究開発や人材育成、調査支援を強化することで、政府が掲げる「2040年までに3,000〜4,500万kW」という導入目標の実現を目指す。
このほか、地熱発電の普及に前年度比73%増となる190億円を盛り込むなど、再エネの最大限導入に向け、合計1,322億円を計上した。
政府は2035年までにガソリン車の新車販売を禁止する方針を掲げている。
EVシフトの本格化に向け、購入者への補助金額を増額する。2021年度の補助制度は、EVやPHV(プラグインハイブリッド車)、FCV(燃料電池車)を対象に、EV1台あたり60万円、PHV30万円、FCV250万円を上限に購入補助をしている。ただ、日産・三菱が2022年度から軽EVの発売を予定するなど、EV車種の増加が予想されており、ガソリン車並みに車両価格を抑えられるよう補助額を引き上げる。
2022年度の補助金予算は335億円と、2021年度の155億円から倍増した。
このほか、EVの航続距離倍増を目指し、全固体電池の実用化に28.8億円を計上。水素ステーションの補助にも110億円を盛り込むなど、EV・FCVの導入促進に前年比42%増となる690億円を求めた。
次世代エネルギーの切り札とされる水素・アンモニアには1,326億円をあてた。水素社会の構築や石炭火力に代わるアンモニア発電などの実証を進める。
また、火力発電の脱炭素化に向けては、大気中のCO2を回収、貯蔵、再利用するCCUSや、CO2をコンクリートや合成燃料の原料にする技術開発に、36%増となる652億円を投じる。
水素の大量製造に向けて、次世代原子炉と期待される日本原子力研究開発機構の高温ガス炉「HTTR」を利用した、水素製造の技術開発にも本格的に乗り出す。はじめて9億円を要求した。
脱炭素政策の予算は全体で7,586億円となり、前年度予算比721億円の増額となった。
米中の技術覇権をめぐる争いや新型コロナウイルスの感染拡大で、半導体が世界的に不足するなど、重要製品のサプライチェーンの脆弱性が顕在化している。
経産省は、1,685億円を計上し、経済の安全保障の強化を図る。このうち、半導体の技術開発関連に156億円を盛り込み、さらに半導体や蓄電池などに欠かせない希少金属のレアアースに22.3億円を予算化した。また、世界的に高騰するLNG(液化天然ガス)の安定確保などに1,372億円を費やす方針だ。
また、EVの普及拡大などで今後、石油製品の需要減が想定される中、産業構造の転換に向けて、ガソリンスタンドの業態変化に向けて新たに14億円を要求した。
さらにガソリン車向け部品メーカーの電動化対応に向け、新たに4.1億円を計上し事業転換の支援も実施する。エンジン部品などを製造する企業に、自動車メーカーのOBなど専門家を派遣し、電動化向けの部品開発に必要なノウハウや人材育成を支援する。
このほか、1,303億円を計上しALPS処理水や廃炉など、福島の着実な復興に取り組むとともに、約500億円を投じてDXを加速させる考えだ。
(Text:藤村朋弘)
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