2050カーボンニュートラル・脱炭素に向けて、不安だらけの「エネルギー白書2021」 | EnergyShift

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2050カーボンニュートラル・脱炭素に向けて、不安だらけの「エネルギー白書2021」

2050カーボンニュートラル・脱炭素に向けて、不安だらけの「エネルギー白書2021」

2021年6月4日、「エネルギー白書2021」が閣議決定された。今年度は、「福島復興」「2050年カーボンニュートラル」「エネルギーセキュリティ」について、大きく取り上げた内容となっている。しかし、いずれの内容も、日本政府がこれからとるべき政策に向けて、不安を残すものとなっている。問題点を含め、紹介していく。

2030年温室効果ガス46%削減は盛り込まれたが・・・・・

「エネルギー白書」は、エネルギー政策基本法に基づく年次報告で、「エネルギー白書2021」は令和2年度の報告となる。経済産業省で作成し、閣議で了承された上で公開されるものだ。例年、3部構成でまとめられており、第1部はその年の動向を踏まえた分析、第2部は内外のエネルギーデータをまとめたもの、第3部は各年度で講じた施策をまとめたものとなっている。

また、第1部は3つの章で構成されており、各年度の重要なテーマが扱われる。今年度の第1部は、「福島復興の進捗」「2050年カーボンニュートラル実現に向けた課題と取り組み」「エネルギーセキュリティの変容」となっている。

とりわけカーボンニュートラルについては、2020年10月の菅首相による宣言、2021年4月の気候サミットにおける46%削減へのコミットメントを受けた内容となっている点が注目される。

しかし、結論を言えば、3章すべてに共通することだが、政府がこれからとるべき政策について、不安を残す内容だといえそうだ。

以下、各章について紹介していく。

金融が推し進める脱炭素の潮流

もっとも注目されるのが、カーボンニュートラルを扱った第2章だ。分析において最初に取り上げられるのは、金融の脱炭素化である。

地域別のESG資産保有残高

GSIA, Global Sustainable Investment Review 2018/2020より経済産業省作成(エネルギー白書 図表第121-1-1)

投資戦略別のESG投資額

GSIA, Global Sustainable Investment Review 2018/2020より経済産業省作成(エネルギー白書 図表第121-1-3)

最初に指摘されているのが、ESG投資の増加だ。白書では2016年から2018年にかけて、世界のESG資産保有残高が1.3倍に増加したことを指摘。その背景として、ESGのうちのE(環境)のとりわけ気候変動に対する注目が高まったことをあげている。また、1998年から2017年の間の自然災害経済損失額は2兆9,080億ドルになり、そのうち気候変動に起因するものが全体の77%、2兆2,245億ドルになると推計している。

投資戦略の多角化としては、伝統的に欧州では投資基準に満たない企業を投資対象から外す「ネガティブ・スクリーニング」の割合が高かったとした上で、最近では投資先と投資家が対話する「エンゲージメント」や投資判断材料に財務情報に非財務情報を加える「インテグレーション」が拡大しているとしている。

しかし、本文では言及していないものの、グラフが示しているのは、日本におけるESG投資の圧倒的な遅れであり、石炭火力への投資がなかなか止められなかったことに示される「ネガティブ・スクリーニング」の不在である。白書における記述とは別に、ESG投資についてはまだまだ日本が取り組む余地は大きいだろう。

一方、民間事業の脱炭素化としては、日本企業のTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)への賛同機関数、SBT(科学を基本とした気候変動対策の目標設定)の認定企業数、再エネ100%を目指すRE100の参加企業数などは、いずれも米国と1位2位を争う水準となっており、民間の取り組みの先進性が示されている。

カーボンニュートラルへ複数のシナリオ作成こそが課題

第2節で諸外国の脱炭素化の動向を示した上で、第3節において、「2050年カーボンニュートラルに向けた我が国の課題と取組」についてまとめている。

まず、電力部門では、変動する再エネの拡大に対して、①安定した供給力、②変動電源にたいする調整力、③突発的なトラブルに対応しブラックアウトを防ぐ、といった役割を担う電源として、水素・アンモニア火力やCCUS(CO2回収利用貯留)の併用と蓄電池等の組み合わせが必要だとしている。しかし、そもそも日本の現状は再エネのさらなる拡大すら解決していないのではないだろうか。

この他、非電力部門として鉄鋼、化学、セメント、パルプ・紙などや、中小企業の脱炭素化が課題としてあげられている。

コラムとして、「カーボンプライシングの動向」が取り上げられている点も注目される。カーボンニュートラルを実現するための手法であり、「炭素国境調整措置」についても言及した上で、政府として「成長に資するカーボンプライシングの検討に取り組んでいる」ということだ。

とはいえ、気になるのは、国内制度として「炭素税」「排出権取引」とならんで、「クレジット取引」が類型として大きく示されていることだ。炭素税も排出権取引も、政府が民間に対して制約を課すものだが、クレジット取引は政府が関与せずに市場が成り立つしくみにもできる。輸出時に事業者がクレジットを取得し、炭素国境調整措置をとることも可能だといえる。政策的手法といいつつ、政府の消極的な姿勢がうかがわれる

とはいえ、2030年46%削減については、政府のコミットメントからおよそ1ヶ月で白書に盛り込んだこともあり、本格的な検討はこれからだ。イメージとしては、古い目標がそのまま引用されており、今後はこれを深堀していくことになる。

2050年カーボンニュートラルへの転換イメージ


出典 成長戦略会議(第6回)(2020年12月25日)資料を一部加工 (エネルギー白書 図表第123-2-2)

この他、グリーン成長戦略の14分野における、知財競争力を通じた日本の競争力が取り上げられ、そのなかでもカーボンリサイクル技術が大きく扱われている。人工光合成などが、日本にとって高い競争力を示せる分野ということだ。

進まない福島復興

ここ数年のエネルギー白書では、第1章は福島復興にあてられている。逆に言えば、福島復興の進捗を報告することなしに、エネルギーの現在を語れない、ということだろう。

第1節では、福島第一原子力の廃止措置の進捗について報告されている。また、汚染水については基本方針が定められた上で、自治体や各業界に対して丁寧に説明した上で、課題を整理した上で、必要な追加対策を検討し、実行していくとしている。その一方で、燃料デブリの取り出しなど、研究開発段階の内容もある。廃炉措置について、進捗は見られるものの、まだ先は長いという印象だ。

第2節は原子力被災者支援についてまとめている。原子力災害被災事業者等のための自立支援策などについて説明されている。しかし、見方によっては、事故後10年が経過してもなお、支援が必要な被災者が存在するということが問題だと言えるだろう。第4節で原子力損害賠償についてまとめているが、今後も賠償は続いていくことになる。

東京電力による原子力損害賠償の仮払い・本賠償の支払額の推移(2021年3月末時点)

出典 東京電力ホールディングス資料より経済産業省作成 (エネルギー白書 図表第114-2-1)

そうした中、第3節では福島新エネ社会構想についてまとめている。2012年に改訂された「福島県再生可能エネルギー推進ビジョン」では、2040年に福島県での一次エネルギー需要を再エネ100%にすることとなっている。また、グリーン水素製造の実証やスマートコミュニティの構築も進められている。2050年カーボンニュートラルを宣言した日本にとって、福島県の再エネ100%達成は、それを先取りするものとなりそうな内容だ。

一方、第3章は、エネルギーセキュリティについてまとめている。第1節では化石燃料について述べた上で、コラムでは2020年度冬季の電力需給ひっ迫について述べている。また、第2節では脱炭素化にともなうエネルギーセキュリティの構造変化がテーマだ。エネルギーセキュリティは気候変動に伴うレジリエンス、再エネ導入によるデジタル化に対応したサイバーセキュリティ、脱炭素化した資源の安定供給といった点が重視されるようになるという。

また、第3節で日本のエネルギーセキュリティの評価を行っている。日本の弱点としては、一次エネルギー供給、化石燃料の供給途絶対応、チョークポイントリスク(ホルムズ海峡やマラッカ海峡など物資輸送の狭いルート)の3点が示されている。再エネの大量導入が進むまでは、これらの点は改善できないともいえるだろう。

こうした中、不安を感じるのは、白書でもIEA(国際エネルギー機関)が最近公表した「Road to Zero」を取り上げているにもかかわらず、短期的な化石燃料の需給ひっ迫にふれていないことだ。今年度の夏・冬の電力需給ひっ迫にもつながりかねない問題だが、経済産業省はどのように考えているのだろうか。

さまざまな不安を与えるような今回のエネルギー白書だが、2050年カーボンニュートラルに向けた政策の議論はまだ途上である。政府の今後のエネルギー政策の立案が、これまで以上に重要なものとなってくるだろう。

エネルギー白書2021

(Text:本橋恵一)

もとさん(本橋恵一)
もとさん(本橋恵一)

環境エネルギージャーナリスト エネルギー専門誌「エネルギーフォーラム」記者として、電力自由化、原子力、気候変動、再生可能エネルギー、エネルギー政策などを取材。 その後フリーランスとして活動した後、現在はEnergy Shift編集マネージャー。 著書に「電力・ガス業界の動向とカラクリがよーくわかる本」(秀和システム)など https://www.shuwasystem.co.jp/book/9784798059020.html

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