前回のNorthvoltに引き続き、欧州の蓄電池メーカーを紹介する。今回は、比較的老舗といえるであろうドイツのBMZグループについてだ。いかにもドイツといった職人気質の印象を受ける同社だが、新興勢力に負けないためにどのような戦略をとっているのか。
BMZグループはドイツ発祥の蓄電池メーカーで、1994年の創業だ。中国と米国、ポーランドに製造拠点があり、日本とフランスに支社をもつグローバル企業である。
現在の車載用蓄電池の世界シェアはLG化学や中国CATL、パナソニックなどアジア勢が席巻しており、ヨーロッパのバッテリーメーカーの存在感は非常に小さい。欧米の自動車メーカーでもアジアのバッテリーを採用しており、GMとLG化学がに合弁会社を設立したニュース(2020年5月)も記憶に新しい。脱炭素の流れを受け、リチウムイオン電池の市場規模は急拡大している中、有望な欧州バッテリーメーカーは前回紹介したのNorthvoltと今回のBMZグループに絞られる。
そのBMZグループは、2000年からリチウムイオン蓄電池の技術開発に乗り出したが、当初は電動の園芸機器や掃除機など向けにバッテリーを量産していた。2004年ごろからリチウムイオン蓄電池の量産体制が整い、2011年には電動バイク、2021年には電気自動車の分野に参入した。
現在は、電動バイクやEVはもちろん、B2Bの蓄電システムに至る大小さまざまな製品をラインナップしている。同社の蓄電池はバッテリーモジュールを組み合わせたタイプが主流だ。モジュールタイプには、標準化が容易にできるというメリットがある。「MADE IN GERMANY」の高品質をセールスポイントとしている。高い技術力を武器に、顧客のニーズにマッチする製品を生み出してきた。
2018年、BMZグループは当時欧州シェアトップといわれたTerraE Holdingを買収した。PV Magazineなどによると、TerraEとは、ダイムラー、3Mなどドイツ企業6社によるコンソーシアム(共同事業体)だという。2028年までに最大生産能力34GWhを目指す、いわば「ドイツ版ギガファクトリー」を建設するとしていた。また、直近では年間4GWh、中期的には8GWhの生産を目指している。
TerraEは、ドイツにおけるリチウムイオン蓄電池の旗頭的な役割を果たしており、2017年には17の企業と研究機関による「Fab4Lib」という名の共同研究コンソーシアムの結成を主導しており、このコンソーシアムにはBMZも参加している。Fab4Lib結成の目的は、モジュールタイプのリチウムイオン蓄電池の生産能力の向上だ。TerraEの生産目標がその背景にある。また、蓄電池の生産に必要な希少金属についての調査なども行っている。
BMZグループもTerraEに対し1億2,000万ユーロを投資していたが、2018年の買収によってBMZグループのSven Bauer CEOがTerraEの陣頭指揮をとることになった。買収に際し、ドイツ国内の生産ラインにさらに3億ユーロを投資すると発表している。
さらに、2020年には物流ソリューション世界大手のKIONグループと50%ずつの合弁会社KIONBattery Systemsを設立した。新会社で目指すのは、トラックやフォークリフト向けのリチウムイオン蓄電池の生産だ。物流における電化需要の高いEMEA(欧州、中東、アフリカ)地域へのソリューションとして提供することを狙っている。現在、フォークリフト用などで年間1万2,000個の蓄電池の生産能力がある。
KIONグループとBMZが開発したトラック用のリチウムイオンバッテリー Image: Kion Group
KIONグループは「KION 2027 Strategy」という戦略において、エネルギー・デジタル化・オートメーション・イノベーション・パフォーマンスという5分野の強化を図っているところだ。エネルギー分野においては、トラックやフォークリフトなどの電化が特に重要だとしている。蓄電池だけではなく燃料電池なども視野に入れており、また回生ブレーキの導入によってブレーキをかけたときに蓄電池に充電するしくみなどによって、40%の省エネともなっている。将来的には、カーボンニュートラルな倉庫を提供していくということだ。
さらに、2021年になって、プラントオートメーションなどのソリューションを提供するAPAを買収。これにより、バッテリー製造工場の自動化も進めていくことができる体制となった。
欧州の蓄電池業界でもはや老舗といえるBMZグループは、持ち前の高い技術力による製品開発を得意としている。TerraEの買収やKIONグループとのアライアンスによって、さらなるビジネス拡大を急いでいる印象だ。とはいえ、蓄電池市場が急拡大する一方で、ライバルも多い。今後の欧州の蓄電池業界における勢力図に注目したい。
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