コスモエネルギーホールディングス 第三の石油会社は、脱炭素で心も満タンにできるか? -シリーズ・脱炭素企業を分析する(19) | EnergyShift

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コスモエネルギーホールディングス 第三の石油会社は、脱炭素で心も満タンにできるか? -シリーズ・脱炭素企業を分析する(19)

コスモエネルギーホールディングス 第三の石油会社は、脱炭素で心も満タンにできるか? -シリーズ・脱炭素企業を分析する(19)

エナシフTVの人気コンテンツとなっている、もとさんとやこによる「脱炭素企業分析」シリーズ、特に好評だった企業事例を中心にEnergyShiftではテキストでお届する。第19回は、石油会社から再エネ会社への転身を目指す、コスモエネルギーホールディングスを紹介する。早くから風力発電に取り組む一方、コーズマーケティングにも取り組んできた企業だ。今回はその点に注目していきたい。

エナシフTV「脱炭素企業分析」シリーズ

株価と業績

コスモエネルギーホールディングスの株価は、新型コロナウイルスの影響による2020年のガソリン需要減少を受け、2020年全体を通じて低下した。しかし、そんな中で2020年末から株価が上昇傾向にあるのは、少しずつガソリン需要が戻ってきたからだと考えられる。それでも2021年8月からは再び株価が下落、2017年後半から2018年末までの株価上昇の時期と今の株価を比較すると、その半分になっているのが現状だ。

石油の価格上昇もコスモの株価には影響しており、2022年3月期第1四半期では黒字回復したものの、8月以降の株価下落はアフガニスタン情勢の影響が少なからずあると考えられる。

一方、業績だが、2021年3月期の決算では売上高が2兆2,333億円で、経常利益は974億円となっている。

2020年3月期の決算では売上高が2兆7,380億円で、経常利益は163億円となっており、減収増益だ。これは、後述するように、キグナス石油への供給拡大に加えて、石油会社独特のタイムラグが要因だろう。現在の原油価格が高値でも、事前に安価な時期に仕入れた原油在庫が石油会社にはある。安い時期に仕入れた原油を原油価格の高い時に売ることをタイムラグというのだが、これが2021年の減収増益の大きな要因となっている。

セグメント別の経常利益を見ていくと石油事業が741億円、ただし先述のタイムラグ=在庫影響を除外すると533億円になる。石油化学では33億円の赤字、石油開発では139億円、再エネでは41億円の利益を出している。

2022年3月期の見通しは、在庫影響のタイムラグ解消による減益を見込みんで880億円となっている。セグメント別にみると石油事業が400億円、在庫影響を除外すると330億円で、石油化学は25億円、石油開発で330億円、再エネで33億円の利益が見込まれている。

2022年3月期、第1四半期の見通しでは2021年3月期第1四半期と比較して全体的に回復傾向にあり、原油高によるタイムラグによる利益の引上などもあり、現在のコスモの業績は好調だという事ができる。

沿革

コスモエネルギーホールディングスの再エネ事業について述べる前に、沿革を紹介しておきたい。

1986年に大協石油、丸善石油、旧コスモ石油が合併してコスモ石油が発足。2000年には関西電力、岩谷産業、宇部興産と合弁で堺LNGを設立、LNG中部にも参画してLNG販売事業を開始する。

2002年には「コスモ・ザ・カード・エコ」を発行する。このカードは、カード利用者が年間500円をコスモ石油寄付し、コスモ石油はそこからさらに寄付金を上乗せして環境に貢献するという仕組みのクレジットカードだ。着目すべきところはコスモ・ザ・カードの所有者の8%はコスモ・ザ・カード・エコに加入している点だろう。つまり、2002年の時点で一般消費者の8%はグリーンコンシューマーだったということがわかる

2004年には現在のENEOSである新日本石油と業務提携し、2005年には燃料電池実証化推進チームを発足。2010年には風力発電会社であるエコ・パワーの株式を取得して子会社化する。この会社こそが現在のコスモエコパワーである。

2010年にはグリーン電力証書を利用し、CO2ゼロの再エネ電気を用いて充電する、グリーン充電サービスを開始する。2012年にはEV向けの充電サービスを拡大し、2013年にはメガソーラーにも着手していく。

そして2015年にコスモエネルギーホールディングスを発足させ、持ち株会社制に移行していく。2017年にはキグナス石油と資本業務提携を結び、現在に至る。

コスモエネルギーホールディングスの再エネは?

脱炭素といえば再エネだ。そこでコスモエネルギーホールディングスの再エネを見ていこう。

販売電力量

コスモの再エネの販売電力量は風力発電だけでなく、メガソーラーも所有していることから、今後ますます販売電力量は拡大の一途を辿っていくことがわかる。

そうした中、長期的に期待したいのが、コスモエコパワーが手掛けていく洋上風力だ。コスモが2010年に子会社化したエコ・パワーは風力発電で20年もの歴史がある会社であり、ノウハウや知見は相当なものがあるだろう。

現在は陸上風力をメインに手掛けているが、洋上風力でも建設中の秋田港を皮切りに、秋田県由利本荘市沖、青森県西北沖、山形県遊佐沖などでFS(実現可能性を検討するための調査)を進めるなど、今後に備えて着々と準備を進めているところだ。2030年度あたりから、急成長・急拡大する見込みだ。

脱炭素に向けた経営ビジョン 

再エネを含めた脱炭素は、中期経営計画にこれから落とし込まれていくことになる。現行の中期経営計画は2018年に作成したものなので、経営ビジョンも含め、大幅な見直しが行われるだろう。これまでは、2100年カーボンゼロを想定すれば良かったが、それが2050年に前倒しとなっている。次期の中期経営計画発表は2022年度が予定されている。

その一方で、コスモエネルギーホールディングスでは2021年度にTCFDに基づくシナリオ分析を元にロードマップを策定、2050年カーボンネットゼロ宣言を行っている。対応は少しずつ進めているということだ。

脱炭素に向けた注目トピックスとしては、2021年の6月にEV(電気自動車)を扱うASFと資本提携を行なったことだ。この提携は出光興産と同様にEVリースやEVシェア、再エネの更なる供給拡大などを目指したものだといえる。

石油会社は現在、各社とも全国津々浦々に多く存在している、既存ガソリンスタンド(サービスステーション)の有効活用を考えている。ガソリンを全く使わなくなる時代が訪れたとしても、自社が保有するサービスステーションなどが今迄通りに利用されることが理想だ。

そういった観点から見て、出光興産やコスモエネルギーホールディングスなどの石油会社が上記のようなEVリース、EVシェアなどの事業に進出していくのは極めて真っ当な戦略と言えるだろう。

まとめ

コスモ・ザ・カード・エコに象徴される、グリーンコンシューマーへの対応は、決して大規模な事業ではないが、早い段階からグリーンコンシューマーに接触できたことで得られた知見などは、必ず今後の事業展開で有効活用できる時がくるだろう。

2010年と早い段階から風力発電にも取り組んできたことの優位性から、今後は、さらなる成長が見込まれる洋上風力分野での大きな飛躍に期待したい。

海外法人ではもともと石油メジャーだった会社が、次々と再エネメジャーとして成功を収めている例がいくつもある。そうした前例に続き、コスモもそうした石油メジャーから再エメジャーへ、といった潮流に乗れるかどうかは注目される点だ。

社名一つをとっても既にコスモ石油を子会社とする、コスモエネルギーホールディングスとなっていることから、エネルギー会社として再エネで日本を牽引する企業になれるかどうかは経営手腕の見せ所といえる。その意味では、EVビジネスへの進出や、現在の石油事業からの事業転換シフトなどを含めた長期ビジョンをいかにうまく策定できるかが今後のコスモのカギとなる部分だ。

現在、短期的には原油高が続く。石油会社としては、利益を確保しやすい状況だが、将来を見据えた時、ガソリン離れは今後急速に進んでいく。

石油事業で得た利益を脱炭素事業にどれだけ投資していくことができるのかが、成長のカギとなる。

エネルギー会社として、VPPやSAF(持続可能な航空燃料)なども手掛けているが、これらは事業採算性が決して高くないだろう。そうであれば、国内第三の規模を誇る石油会社であるコスモエネルギーホールディングスは、多岐にわたる事業を展開するよりも、どの事業をコアに据えるのか、という選択をきちんと行なうことが必要だろう。その上で今後の経営ビジョンを形成していくことこそが今一番求められている。

(Text:MASA)

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ヘッダー写真:Taisyo, CC BY 3.0, via Wikimedia Commons

もとさん(本橋恵一)
もとさん(本橋恵一)

環境エネルギージャーナリスト エネルギー専門誌「エネルギーフォーラム」記者として、電力自由化、原子力、気候変動、再生可能エネルギー、エネルギー政策などを取材。 その後フリーランスとして活動した後、現在はEnergy Shift編集マネージャー。 著書に「電力・ガス業界の動向とカラクリがよーくわかる本」(秀和システム)など https://www.shuwasystem.co.jp/book/9784798064949.html

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