2021年10月31日から11月12日にかけて、英国のグラスゴーでCOP26(気候変動枠組み条約第26回締約国会議)が開催される。会議ではさまざまな国際交渉が展開されるが、日本政府にとって最も大きなテーマは、英国から突き付けられた2030年までの石炭火力廃止という要請だろう。いまだに建設中の石炭火力がある日本にとって、受け入れ難い内容だ。この他、排出権市場のルールとなる6条問題や資金供与の問題も焦点となる。開催にあたって、注目点を解説する。
COP26開催を前に、UNEP(国連環境計画)が動画を発表している。その内容は、恐竜が国連総会に乱入し、「絶滅を選ぶな!」と演説するというものだ。しかし、こうした動画は気候変動問題の深刻さを考えると、少しも大げさなものではないだろう。
According to @IMFNews, the world's governments are spending USD 11 million a minute to support fossil fuels which cause heat-trapping greenhouse gas emissions. #DontChooseExtinction, says @UNDP ahead of #COP26. pic.twitter.com/0jK4JBSFEd
— UN Climate Change (@UNFCCC) October 27, 2021
今年8月には、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の第6次報告書のうち第一作業部会の報告書が公表された。その内容は、気候変動の原因が人間による温室効果ガスの排出であることを明確に示すものだった。2018年にIPCCが公表した1.5℃特別報告書とあわせると、地球の平均気温の上昇は1.5℃未満に抑制すべきであり、しかもすでに1.1℃も上昇していることから、残された排出枠や時間は少ないということになる。
COP26はコロナ危機の影響で1年間先送りされ、今回の開催となったが、この間、米国の政権交代などもあり、多くの国がパリ協定に基づく温室効果ガスの排出削減目標(NDC)を引き上げた。日本も例外ではなく、2030年の排出削減を、2013年比マイナス26%からマイナス46%へと引き上げた。しかし、条約事務局の集計では、現在の世界各国のNDCを足し合わせても、2100年には平均気温が2.7℃も上昇するかもしれないということだ。
したがって、COP26ではそのギャップを埋めることが必要となる。同様のことは、UNEPの試算や国際エネルギー機関(IEA)の「世界エネルギーアウトルック2021」でも示されており、特にエネルギーアウトルックはCOP26のハンドブックとして位置づけられている。
より野心的なNDCが求められるのは、主要な排出国では中国やインドなどの新興国が対象となってくる。問題は、新興国・途上国は歴史的な温室効果ガス排出の責任を負うのは先進国だとしており、簡単には目標の引き上げや政策措置には応じないということだ。そして、この交渉に途上国への資金・技術移転の問題がからんでくる。そのため、交渉は極めて複雑なものとなってくる。
英国のジョンソン首相が各国に求めているのは、次の4点だ。
中でも石炭火力の廃止は日本に向けられたものだといっていいだろう。もちろん中国にも石炭火力廃止の要請はあるだろうが、中国については2040年と10年余裕がある。その点、先進国である日本にとっては厳しい内容だ。日本の2030年のNDCは野心的なものであり、気候変動のリーダーにふさわしいという評価を受ける一方で、石炭火力を残存させることは、その翌年以降は再びリーダーから転落することになる。
だが、この問題はそうしたきれいごとだけではなく、欧州が計画し、米国も検討する炭素国境調整という可能性も含んでいる。すなわち、2030年以降、石炭火力を有する国からの輸入には高い関税をかけるということだ。そうした点もふまえ、交渉が行われることになるだろう。この点は、ガソリン車の廃止という項目でも同様だ。
途上国への資金供与も重要な議題だ。
そもそも、気候変動枠組み条約は、南北問題をめぐる先進国から途上国への資金・技術移転をめぐる交渉が20年以上も続いている。途上国にとって、気候変動問題の大きな責任を持つ先進国から資金を引き出すことには、正当性を持った側面がある。
先進国は10年前のCOPにおいて、途上国に対して毎年1,000億ドルの資金を供与することを約束した。しかし実際に供与された額が毎年1,000億ドルに満たない。直近2019年でも796億ドルにとどまっている。しかも、資金は気候変動の緩和に集中しており、気候変動に適応するための資金とはなっていない。さらに、エネルギーアウトルックでは1,000億ドルでも不足だと指摘する。そして、この資金供与がなければ、新興国・途上国がNDCを引き上げることはないだろう。
一方、エネルギーアウトルックでは、カーボンゼロを達成するためには、2030年までに毎年4兆ドルの投資が必要だとしており、その7割は途上国向けだという。そして途上国向けの投資のきっかけとなるのが、パリ協定の内容でまだ決着していないカーボン市場を扱った第6条問題だ。
パリ協定では、ある国(ドナー国)が他国(ホスト国)で温室効果ガス削減事業を行なったとき、その一部をカーボンクレジットにして、自国の排出削減に算入することができるしくみを取り入れている。問題は、そのルールが固まっていないことだ。日本政府も、二国間クレジットというしくみをつくり、パリ協定で使用できるクレジットの創出を目指しているが、ルールが決まらなければクレジットにはならない。途上国にとっても、ルールが決まらなければ、投資をよびこむことができない。とはいえ、この第6条問題は、今回のCOP26では合意の準備ができていないと見られている。
今回のCOP26で異例なのは、通常は会期の後半で首脳レベルの会合が行われるものが、1週目から英国主催の「World Leaders’ Summit」が開催され、11月1日・2日に各国首脳のスピーチが行われることだ。開始早々、交渉の山場が訪れるということになる。ここで各国首脳が何を話すのかが注目される。日本政府についていえば、岸田首相は石炭火力削減を交わし、資金供与の拡大で乗り切ろうとするのではないかと予想される。この他、中国やインドがNDCの引き上げについてどのようにコミットするのかといったことなど、注目点は多い。
その後、11月9日からハイレベル会合となり、残された課題の合意に向けたぎりぎりの交渉が続くこととなる。第6条問題も、ハイレベル会合の主要な議題の1つとなる。
一方、サイドイベントも気になるところだ。環境保護団体、とりわけ若い世代の行動には目を奪われるだろうが、それだけではなく、金融業界の主張にも耳を傾ける必要があるだろう。近年の遅々として進まない国際交渉に対し、実際に気候変動問題のオピニオンをリードしてきたのが、金融業界と彼らが組織するNGOなのだから。
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