日本でも、RE100、RE Actionといったイニシアチブを通じて、再生可能エネルギーの利用拡大を進める企業が増えている。こうした中、顔の見える再エネを供給するみんな電力が改めて注目を集めている。みんな電力は現在、どのような事業を展開しているのか、将来像はどうなのか。みんな電力株式会社 事業本部 ソリューション営業部 部長の真野秀太氏に「みんな電力の現在地」をおうかがいした。
― 最近、再エネを使いたいという企業が、みんな電力を選ぶケースが増えていると思います。現状、事業の拡大の状況から教えてください。
真野秀太氏 2年前と事業環境は大きく変わっていると感じています。2017年の頃はまだ、大手企業というより、町のカフェやセレクトショップのBEAMSなど、サステナビリティ(持続可能性)にこだわりのある企業が中心でした。しかし現在は丸井グループ、戸田建設、日清食品なども顧客になってくださっています。
2018年に、TBSや丸井グループが当社と資本業務提携し、当社に切り替えたことが大きなきっかけとなったと思います。これにより、当社の社会的信用が一気に上がり、次々と大手を含むさまざまな企業が当社に切り替えてくださいました。現在の法人契約数は、およそ3,000件となっています。
また、最近数カ月は、追い風が吹いていると感じています。 以前の当社の営業手法は、まずイベントを実施し、当社を知ってもらった上で、興味をもったお客様に電力の切り替えをこちらから提案していました。
しかし最近では、気候変動問題に対する社会全体の危機感を受けて、企業の取り組みとして再エネ導入を模索する中で、お客様自ら当社にお問い合わせいただくケースが増えてきており、外部環境の変化を感じています。
― みんな電力は「顔の見える電力」を創業以来一貫してセールスポイントにしていますね。
真野氏 「顔の見える電力」の発電所は当社の大きな特徴です。
設立当初は、再エネを入り口として、一般世帯や中小企業がお客様の中心になると想定した上で、「顔の見える電力」を提供してきました。
現在、顔の見える発電所は100カ所を超えています。発電所の特徴はホームページで公開しており、発電所によっては、切り替えたお客様は返礼品をもらえるというしくみも取り入れています。現在、一般世帯向けにはブロックチェーン(分散型台帳)を使って厳密にマッチングさせるということは行っていませんが、ゆくゆくは一般世帯向けにも適用する予定です。
一方、最近は事業に使う電力を再エネ由来100%にするRE100加盟企業が国内外で次々と増えています。社会全体で再エネは大きな波となっています。電力を再エネ由来であることを証明するには、トレーサビリティ(流通経路の追跡)が必要です。そのために、ブロックチェーンを活用したシステムを構築しました。
一般的に、中小企業の場合、当社に切り替えていただくことで料金的にもメリットが出る場合も多いですが、大企業の場合は安くなるとは限りません。それでも、「顔の見える電力」に価値を感じていただき、契約していただいています。また、大規模工場などへの再エネ導入はハードルが高いですが、1割程度のコストアップに収まるようなビルなどの施設では、再エネ由来100%の電力に切り替えるところが増えてきています。今後、再エネ電力の導入が単なる電力コストだけの観点ではなく、経営戦略などにより幅広い観点で検討する動きが広まればこの動きは拡大すると思います。
― みんな電力の電力供給量は今どれくらいですか。
真野氏 当社が取り扱う電力は小売り以外も増えています。電力契約量は計50万kWくらいです。お客様には、特別高圧から、高圧、低圧までいらっしゃいます。また、地域新電力への電力融通も行っており、こちらも順調に増えています。当社は将来、電力小売りの枠を超えたサービスの提供を目指しておりますので、これからも地域の新電力とどんどん協力していく方針です。
現在、多くの地域新電力の電力調達先は、地元の公営のごみ発電の電力と日本卸電力取引所(JEPX)からの調達が増えています。そのため、再エネ電力の新たな調達先を欲しているのが現状です。こうしたニーズに応えるサービスを提供していきたいと思います。
当社の取り組み事例として、長崎県の五島市民電力への融通があります。五島では戸田建設による日本で唯一の浮体式洋上風力発電が商業運転しており、地域の誇りとなっているようです。この電気をみんな電力が一度仕入れた上で、五島市民電力に融通しています。弊社が入ることによって、需給管理を支援し、地元で使いきれない電気は他のお客様に使っていただく、といったことが実現できます。その上で、地元の電気は地元で使っていただけるようになるため、地域の合意形成を得やすくなるというメリットもあります。このような形で、地元の電気を地元で使いやすくしていくことが、このサービスのメリットになります。
― 地域のエネルギーを地産地消していくしくみは、まだまだ途上にあると思います。
真野氏 顔が見えるというコンセプトの反対側には、顔の見えない商売があるという現状があります。電気も値段だけの入札になっています。当社はその対極にいて、生産者の見える、トレーサビリティのある電気を供給していきます。消費者が支払ったお金が誰に届くのか、検索できるしくみなど、もっとお金のいい流れを作っていきたいし、それが地域の活性化にもつながると思います。
さらに言えば、顔の見える経済圏をつくっていく、事業を電力以外にも拡大していく、ということも考えたいと思います。品質などと同じように、自然環境などのストーリーにも価値を感じていただく。こうしたことを表現するしくみを構築したいですね。
― ところで昨年には、ブロックチェーン技術を用いた電力取引プラットフォームも商用化されました。これはどのようなものなのでしょうか。
真野氏 電力取引プラットフォーム「ENECTION2.0」は2年半くらい前から自社開発を行い、2018年9月にはβ版をリリースしました。その後、課題をつぶしていき、2019年4月から商用サービスを開始しています。2020年1月現在、ENECTION2.0を利用している会社数は40社くらいです。
しくみとしては、当社が仕入れている電力を30分単位で自動的にマッチングして、どこの発電所の電力がどこの需要家へいくかをブロックチェーンで記録します。
運用のイメージとしては、ある需要家が1月30日の午後1時から30分の電力の使用量が30kWhだったとします。また、あらかじめどの発電所の電力を使いたいかの希望を出してもらいます。電力使用時に、まず希望された発電所の電力をマッチングして、不足分は当社の調達する他の再エネ発電所の電力を充てることで再エネ由来100%電力を供給するしくみです。
ブロックチェーンコストは1トランザクション(取引)ごとに台帳記載の代金と、システムコストになります。ブロックチェーンの費用は1ユーザーあたり1カ月数千円程度ですが、それでも低圧や中小企業などのお客様には相応の負担になります。そのため、ブロックチェーンの取引コストを下げる検討を行っています。既にコスト低減のメドは立っており、2020年度中に住宅用の卒FITユーザーがプロシューマーとして参加する形での個人間での取引も可能になるでしょう。
― 2030年には、どのような会社になっていると予想していますか。
真野氏 電力は当社の中核事業ですが、今後は電力に限らず様々な領域で、電力同様にトレーサビリティを提供するプラットフォーマーを目指しています。アパレル分野においてもリサイクル素材にこだわるなど、自分の消費行動が環境や社会に与える影響を考慮してモノを選ぶという社会的なニーズは確実に高まっており、当社はそのような、よいお金の流れをつくる企業をサポートし、結果として本業にも好影響が出るような形にしたいと思っています。
今年は当社によって企業価値を向上できた企業を100社つくります。電力選択は手法のひとつです。再エネ電力の購入は、ステークホルダーに対して企業のサステナビリティ経営の実践として非常に分かりやすいメッセージとなります。ESGを重視する企業にとって、今後必須の取り組みになると考えています。
(執筆:EnergyShift編集部 本橋恵一 撮影:岩田勇介)
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