South Pole Group:カーボンマーケットを活用し、温室効果ガス削減 脱炭素社会を支える | EnergyShift

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South Pole Group:カーボンマーケットを活用し、温室効果ガス削減を支える

South Pole Group:カーボンマーケットを活用し、温室効果ガス削減 脱炭素社会を支える

2020年07月06日

海外エネルギーテックインタビュー

エネルギーテック企業に焦点を当て、そのキーパーソンに迫る。今回ご登場いただくのは、South Pole GroupのCo-Founder兼Managing Director, South East AsiaのIngo Paul氏だ。South Poleは、世界中の企業や政府と協力し、特定セクターにおける気候リスクと機会、および最高の排出削減基準の徹底した理解に基づいて、産業全体にわたる深い脱炭素化の道筋を実現するための支援を行っているアドバイザリーファーム。
株式会社シェアリングエネルギーの井口和宏氏によるインタビューでお届けする。

カーボンマーケットを活用して途上国開発も

-South Pole Groupの事業内容とビジネスモデルについて簡単に教えてください。

Ingo Paul氏:私たちの事業は、低炭素社会への転換を加速させるために、クライアントと協力していくことです。
私たちの主なプロダクトは、国内外のカーボンマーケット(排出権取引市場)やその他のカーボンプライシング商品を利用して、クライアントの温室効果ガス排出量削減に貢献するための財務的価値を創造することを支援することです。

グローバルなサステナビリティファイナンスソリューションとサービスのリーディングプロバイダーであり、現在では20ヶ国にオフィスを設置しています。

-South Poleの独自性を表現した具体的なプロジェクトを紹介していただけますか?

Paul氏私たちのサイトでは、ユーザーが直接支援できるアクティブなプロジェクトをいくつか紹介していますので、ごらんになっていただけたらと思います。
その中でも、私たちの最も有名なプロジェクトの一つは、アフリカのジンバブエで行った、カーボンマーケットを利用したコミュニティ開発です。

Kariba Forest Protection

Paul氏:このジンバブエでのカリバREDD+*プロジェクトは2011年の開始以来、約78万5,000ヘクタールを森林伐採や土地の劣化から守り、1,800万トン以上の二酸化炭素の大気放出を防止してきました。

ここ数十年間、ジンバブエは政治的・経済的な混乱に苦しんでいました。そのため、人々が自給自足の農業や薪のために森林伐採を続けた結果、既に3分の1以上のジンバブエの雄大な森が失われ、人々の生活はさらに不安定になっています。

South Poleは、ジンバブエの複数の地方自治体協議会と連携して、カーボンオフセットプロジェクトを組成しました。これらの評議会を通じて、コミュニティはいつ、どこで支援が必要なのかを明らかにすることができます。また、カーボンクレジットの販売を通じて、プロジェクトへの投資は、これらのコミュニティの自立と福祉を促進するさまざまな活動に使われます。クリニックのアメニティの向上や、より良い医療を提供し、新しい道路を含むインフラを改善します。また、人口の最貧困層には学校への補助金が支給されています。

このプロジェクトは、地域の持続可能な開発と、地域コミュニティの自立と福祉を支援し続けています。

*REDD+:途上国における森林減少の抑制や森林保全などによって、CO2など温室効果ガスを吸収するメカニズム。吸収量に応じてカーボンクレジットが発行される。

若い消費者は企業のサステナビリティに敏感

-South Pole Groupは、多くの優れたクライアントに持続可能性のソリューションを提供してきた実績があります。どのようにしてそのような顕著な成果を生み出すことができたのでしょうか?

Paul氏:ありがとうございます。私たちは、ドイツとスイスの共同設立者の小さなグループで、グローバルな考え方を持ち、多くの国の志を同じくする専門家との優れたネットワークを持っていました。

私たちは、グローバル企業になるというビジョンを持ってスタートしました。そして、当初から分散型で拡張性のある企業のマネジメントシステムを構築しました。
また、ドイツ/スイスの価値観(信頼性、品質、納期厳守)に基づいた、国際的なワークカルチャーを最初から持っていることも確認していました。

現在では、20ヶ国の拠点に、約350名の専門家をはじめとする従業員を擁するまでになっています。

-日本の大企業の多くは、カーボンクレジットの購入に積極的とは言えないように思えます。その理由の1つは、排出権の購入を単なるコストと考えているからだと言えます。彼らの意識を変えるためには、どのようなアプローチをとるべきでしょうか。

Paul氏:非常に良い指摘です。カーボンクレジットの購入は、バリューチェーンの一部、つまり持続可能な製品やサービスを生産するためのインプットとして捉えなければなりません。

顧客は、自分たちが消費するものが持続可能で、人や地球にとって有益なものであることを知りたいと思っています。

ヨーロッパの多くの国では、企業がサステナビリティに取り組んでいない場合、消費者は「なぜあなたの製品はクライメイト・ニュートラル(サプライチェーン全体で見たときに、CO2の排出量と吸収量がプラスマイナスゼロの状態になること)ではないのか?」と問います。特に若い消費者は、このことに非常に敏感です。

また、ますます多くの企業がカーボンバジェット(CO2を排出できる上限、ここでは政府が企業の排出量を規制するか、発注者が製品のCO2排出量を制限するように要求すること)の下で運営されています。
遅かれ早かれ、私たちが行うすべてのことがカーボンバジェットの下で行われていくことは間違いありません。

ブロックチェーンでカーボンクレジット取引のコストを削減

-ブロックチェーン技術を使ってRECs(再エネ環境価値の証書)を取引する実証プロジェクトが、South Pole Groupを含めて世界中で進行中です。ブロックチェーン技術によって、仲介会社が不要になると言われています。テクノロジーが、貴社が提供するサステナビリティ・ソリューションに与える影響について、どのようにお考えですか?

Blockchain for Automation of Carbon Credit MRV South Pole資料より

Paul氏:主に難しい点としては、Verified Carbon Standard(VCS, カーボンオフセットのデファクトの基準)をブロックチェーン上に乗せることです。

VCSの運営団体は自動化というアイディア自体は好んではいますが、カーボンクレジットの検証と承認を自動的に行うことを可能にするという我々の提案には抵抗しています。

なぜかと思われるかもしれませんが、ブロックチェーンによる仲介会社を排除するというアイディアは、カーボンクレジットの検証事業者の事業機会に大きな影響を与えるからです。

現行のルールでは、自動検証を可能にする方法の変更を承認するのは検証事業者の責任です。承認してしまえば、彼らの存在意義が無くなってしまうのです。ということで、問題点はお分かりいただけたかと思います。

私たちが今やっていることは、検証事業者の影響があまり及んでいない国の炭素基準、たとえばタイでのTGO(タイ温室効果ガス管理機構)やTVER(タイ自主削減クレジット制度)と協力していますが、デジタル化によってカーボンクレジットの発行プロセスを大幅に加速させ、コストを削減することで、プロジェクトオーナーに利益をもたらすことができるようになるでしょう。

国際的な炭素基準事業者が乗ってくることを期待しつつ、私たちは国の炭素基準とプロジェクトを進めています。

-COVID-19はエネルギー分野にどのような影響を与えていると思いますか?

Paul氏:COVID-19は、これまで見てきたトレンドを加速させており、移行を加速させるものだと思います。しかし、現実に行われているのは、COVID-19を短期的な利益のために利用することです。すなわち、化石企業を保護するために利用しているようなものです。

その一方で、化石企業はCOVID-19のために価値を失ったと主張しています。このような状況においては、COVID-19を正しいことをする機会として利用するかどうかは、私たち次第なのです。

日本はクリーンテックの能力アップで輸出戦略を

-日本市場におけるビジネスチャンスをどのように捉えていますか?

Paul氏:いま、日本は岐路に立っています。日本で新たな石炭プラントを建設する計画があると聞いて、もどかしい思いを感じていました。

COVID-19は、科学がもたらすリスクに真剣に向き合う必要があることを示したと考えています。
また、石炭への投資は将来の日本人に大きなリスクをもたらすでしょう。気候変動の面のみならず、将来のエネルギーコストや、イノベーションを起こし日本のクリーンテックのためのより大きな市場を作る機会を逃してしまうからです。

私はここにチャンスがあると考えています。日本は国内のエネルギー需要を利用して、クリーンテック(蓄電システム、e-モビリティ、水素、太陽光発電など)の能力をスケールアップし、これらを中心とした地域のための新しい輸出戦略を構築する必要があります。
ここには、クリーンテック輸出を加速させるカーボンマーケットへの重要な鍵があります。

-最後に、South Poleの今後の展望について教えてください。

Paul氏:私たちは、アジアへの強いコミットメントを持って、これまでお話してきた変革の触媒となるでしょう。私自身は、モビリティとエネルギーセクターの融合(蓄電システム、e-モビリティ、水素)に、非常に注目しています。
現在でも日本のクライアントとの仕事はありますが、日本のパートナーやクライアントの役割を考えると、今後はもっと日本のクライアントと一緒に仕事をしていきたいと思っています。

インタビューを終えて

「ブロックチェーン技術は仲介会社を排除する」というコンセプトは明確ではあるものの、実際の事業化においては、ある意味既得権益者である認証事業者(証書発行団体)とのコンフリクトが避けられない状況にあると理解しました。この分野については、国際的な連携によって、標準化の仕組みが必要になるだろうと思います。

井口和宏
井口和宏

株式会社シェアリングエネルギー 事業開発室長 URL:https://share-denki.com/ 株式会社アイアンドシー・クルーズにて、新電力会社設立、国内最大級プロパンガス一括見積もりサービス等、主にエネルギー領域における新規事業開発に従事。2018年1月に株式会社シェアリングエネルギー参画。太陽光発電のPPAモデル「シェアでんき」やブロックチェーンを活用したP2P電力取引のPoCをはじめ、同社の事業開発を推進する。 経済産業省委託「再エネ電力のブロックチェーンを用いた取引スキームに関する標準化調査委員(2018)」。慶應義塾大学総合政策学部卒。 twitter:https://twitter.com/kaziguchi

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